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 父を殺めた、その意識を持ちながら吉蔵は生きることになった。
「しゃべる気になっただろう」
 現在の吉蔵は、木の幹にもたせかけた杣らしき男に問いかける。
 男は右手の指が三本切断され、片目が潰れていた。悲惨な状態だが、吉蔵は平然と見下ろしていた。
 当然だ、男をこんなふうに痛めつけたのは彼なのだ。
「しゃべる、しゃべるからもう止めてくれ」
 男が悲痛な声で訴える。
「最初から素直にしゃべっておくべきだったな」
 柔和な口調で吉蔵は応じた。それで相手はこちら侮りこ口を割ろうとしなかったのだ。
「村で水争いがあったんだってな?」
「ああ、水争い?」
 聞き返す男に吉蔵は身じろぎした。
「あった、確かにあったよ」
 それで男は悲鳴じみた声をもらす。
「御料地の民を殺したんだって?」
「そんなことはおれは知らない」
 やはり吉蔵が身じろぎすると慌てて男が口を開く。
「ほんとうだ、ほんとうに知らねえ。水争いで御料地のほうに出向いた連中が消えちまったし」
「消えた?」
「そうだよ。とんでもないことをやっちまったから、おおかた逃げ出したんだろうさ」
「なるほど」
 男の言葉にうなずいたが、吉蔵は納得した訳ではなかった。
 都合が良すぎる――と思うのだ。素人が三人一斉に周囲に気づかれずに姿を消すのは不可能だろう。
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