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「得物は既に用意しておるな。さあ、やれ」
確かに父に刀を持って庭に出るように言われて真剣を手にしていた。それは弟も同じだ。
だが、それで兄弟で殺し合いをするなどという狂気の覚悟はできていなかった。あくまで鍛練が課されると思っていたのだ。
「父上、これはいかなる鍛練にございまする?」
やっと声を絞り出す。
「鍛練ではない、殺し合いを致せと申して居る」
そんな馬鹿な、と思った。大名家ならともかく、御庭番の家など家禄もたかが知れているではないか。それを殺し合って奪うなど尋常の所業ではない。
「それ、なにをしている」
父に叱咤されても、それだけは為しがたかった。
「痴れ者が」
突如、父が手にしていた刀を抜いて斬りかかってくる。
吉蔵は切り落としを仕掛けた。白刃が交錯して動きが止まる。
父が後方に引いて得物を振り上げた。
紫電一閃、吉蔵は小手を打つ。が、外された。一合、二合と切り結ぶうちに余裕がなくなっていく。
刃風一颯、父が上段からの一撃を放ってきた。吉蔵はそれをかいくぐったとっさに胴を薙いだ。あくまで無意識の斬撃だ。
刹那、父が苦悶の声を漏らしその場に崩れ落ちた。
「父上」
悲鳴をあげ弟が父にすがりつく。
だが、父はこのとき命を落とした。弟の仲もぎくしゃくし、そのまま彼は養子として他家へと去って行った。
確かに父に刀を持って庭に出るように言われて真剣を手にしていた。それは弟も同じだ。
だが、それで兄弟で殺し合いをするなどという狂気の覚悟はできていなかった。あくまで鍛練が課されると思っていたのだ。
「父上、これはいかなる鍛練にございまする?」
やっと声を絞り出す。
「鍛練ではない、殺し合いを致せと申して居る」
そんな馬鹿な、と思った。大名家ならともかく、御庭番の家など家禄もたかが知れているではないか。それを殺し合って奪うなど尋常の所業ではない。
「それ、なにをしている」
父に叱咤されても、それだけは為しがたかった。
「痴れ者が」
突如、父が手にしていた刀を抜いて斬りかかってくる。
吉蔵は切り落としを仕掛けた。白刃が交錯して動きが止まる。
父が後方に引いて得物を振り上げた。
紫電一閃、吉蔵は小手を打つ。が、外された。一合、二合と切り結ぶうちに余裕がなくなっていく。
刃風一颯、父が上段からの一撃を放ってきた。吉蔵はそれをかいくぐったとっさに胴を薙いだ。あくまで無意識の斬撃だ。
刹那、父が苦悶の声を漏らしその場に崩れ落ちた。
「父上」
悲鳴をあげ弟が父にすがりつく。
だが、父はこのとき命を落とした。弟の仲もぎくしゃくし、そのまま彼は養子として他家へと去って行った。
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