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「まったく、厄介なこった」
助左衛門が毒づくのに栄助はうなずいて同意した。
「誰ぞ、犠牲になるかもしれないな」
伊平治の言葉に栄助はお菊が落魄した折を思い出し気分が悪くなるのを感じる。
「みな、生き延びてくれ」
仲間がこんな暗闘で死ぬのは居たたまれないのだろう、小次郎が昏いまなざしで訴えた。
それから横目付が、
「何卒、頼みまする」
と言い残し去って行く。彼の姿が消えた瞬間、猪助が我慢していたのか大きなため息をついた。彼とて理不尽に気分の悪さをおぼえているのだろう。
「とにかく、引き受けた以上はやるぞ」
猪助は改めて皆を引き締めた。栄助たちはそれぞれ承諾の返事をする。
他人の事情で死んでたまるか――栄助はそんな思いを抱いた。
● ● ●
「生き残った方に家督を継がせる」
父は庭に顔を揃えた兄弟に淡々と言い放った。呆気にとられる吉蔵に父は重ねて告げる。
「弱い者は我が家にはいらぬ」
とても肉親に向けるものではない冷たいまなざしをこちらに注いだ。
助左衛門が毒づくのに栄助はうなずいて同意した。
「誰ぞ、犠牲になるかもしれないな」
伊平治の言葉に栄助はお菊が落魄した折を思い出し気分が悪くなるのを感じる。
「みな、生き延びてくれ」
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それから横目付が、
「何卒、頼みまする」
と言い残し去って行く。彼の姿が消えた瞬間、猪助が我慢していたのか大きなため息をついた。彼とて理不尽に気分の悪さをおぼえているのだろう。
「とにかく、引き受けた以上はやるぞ」
猪助は改めて皆を引き締めた。栄助たちはそれぞれ承諾の返事をする。
他人の事情で死んでたまるか――栄助はそんな思いを抱いた。
● ● ●
「生き残った方に家督を継がせる」
父は庭に顔を揃えた兄弟に淡々と言い放った。呆気にとられる吉蔵に父は重ねて告げる。
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