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「そうでないで欲しいと思っておったが、我らを頼みにしたのはみずからの手を汚さず安全な場所にいられるという魂胆であろう」
「何卒、何卒、当家を助けると思ってお頼み申し上げまする」
 横目付が必死の声で訴えで床に額を擦りつけた。それを小次郎は冷たい目で見下ろした。
 しばし沈黙が流れた。それを破ったのは猪助だ。
「一度引き受けた仕事を放りだしたとあっちゃあ、俺たちに依頼をしようって人間はいなくなるだろうさ」
 理屈はわかる、だが栄助はなんだか納得がいかなかった。
「支障があるとすりゃあ、口封じにあっしらまで殺そうとしねえかだ」
「それはむろん、さような真似は」
「小次郎へのかつてのやり口を考えりゃ、ありえねえ話じゃねえ」
 横目付の言葉を猪助はやや低い声で遮った。
 一瞬、口ごもった横目付だったが、
「なれども、なれども、どうかそれがしを信じてくだされ」
 と声を絞り出すように訴える。
 猪助はそんな彼をしばらく見据え、
「まあ、あっしの考えはさっき言った通りだ」
 とあっさりと横目付の言葉を受け入れた。小次郎、と猪助がどうするかたずねた。
「いたしかたない、親分がさようにもうすなら」
 彼は首を左右にふって応じる。
 助左衛門と栄助は、右に同じ旨を告げた。
 それから、横目付に煙の末以外の公儀隠密の足取りを確かめた。
 どうやら、常と違って二人以上の隠密が動いているようだということが明かされる。
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