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    三

 最初に始めたのは小次郎の生家の家中が掴んだ公儀隠密の足取りをたどることだった。
 御料地に近い場所にさしかかった領内の道もない場所に向かって足跡を見つけてこれを追跡した。
 相手はゆっくり歩いている、それが栄助の分析だ。足跡の爪先が左右にそれぞれ開き気味なのが証左だった。
 深い下生えのところで足跡が迂回している。これはなるだけ痕跡を残さない心がけに違いなかった。
 足を止めて伊平治と言葉を交わす。
「どう思う伊平治?」
「間違いなく忍びの心得のある者が残した跡であろうな」
 それからしばらくして小川を通った。そこで足跡が変化する。
「足跡が後ろ向きになったぞ、相手は川を渡ってからこちらにもどってきたのか?」
 疑問に思って立ち止まった栄助の横で伊平治が足跡の上にかがみ込んだ。
「これは、後ろ向きに歩いた跡だ」
「後ろ向きに」
 伊平治の種明かしに、栄助はおどろきの声をもらす。
「伊平治と栄助がいてよかったな、あっしらだけじゃあ迷子になってた」
 そこに猪助が感嘆の声で割り込んだ。
「よせやい、照れるぜ」
 伊平治はにやけた顔で応じる。
「まあ、任してくれ」
 栄助は微笑を口辺に刷いた。
 それから数刻のあとのことだ。ついに栄助たちは公儀隠密のひとりを見つける。
 丘を越えたところで人影が視界に入った。とたんに伊平治の顔色が変わる。
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