117 / 137
90
しおりを挟む
「あれは本当に公儀隠密だ、御役目の最中に顔を見たことがある」
しかも、とその顔から血の気が引いていた。みなを手ぶりで指示し、しばらく来た道を五町ほどもどったところで伊平治は口を開いた。
「当代御庭番最強と謳われる煙の末と呼ばれる男だ」
「煙の末っていうのは面妖な呼び名だな」
「煙の末っていうのは神出鬼没さをあらわす符牒だ」
首をかしげながら告げた猪助に、伊平治はかすれた声を返した。
「なに、今向こうはひとりだ」
助左衛門が大きな声を出したとたん、猪助は即座にその口を手でふさいだ。
「もそっと、声を落とさぬか。相手は煙の末、聞き逃さないぞ」
「伊平治、すこし反応が大仰ではないか?」
緊張した顔の伊平治に栄助は問いかけた。
伊平治が苦い顔で栄助の言葉の斟酌するようすを見せた。やがて、小さくため息をつき、
「実は御役目であやつとぶつかり、あやつに手前以外の忍びを殺されている」
と伊平治は諦めの表情で明かした。
「煙の末は化物だ。あいつが出張ってるなら、これから仕事を断っても遅くない」
「一度引き受けた仕事を断ったとあっちゃあ、向後に差し支障がある」
伊平治の気弱な言葉を、猪助が力強く否定する。
「腰抜けの風評のある奴なんぞ、誰が陣借りを依頼するよ」
猪助の主張はその通りだった。
「いいか、油断はしねえが慎重にいくぞ」
彼の言葉を受け、みなそれぞれの返事をする。
しかも、とその顔から血の気が引いていた。みなを手ぶりで指示し、しばらく来た道を五町ほどもどったところで伊平治は口を開いた。
「当代御庭番最強と謳われる煙の末と呼ばれる男だ」
「煙の末っていうのは面妖な呼び名だな」
「煙の末っていうのは神出鬼没さをあらわす符牒だ」
首をかしげながら告げた猪助に、伊平治はかすれた声を返した。
「なに、今向こうはひとりだ」
助左衛門が大きな声を出したとたん、猪助は即座にその口を手でふさいだ。
「もそっと、声を落とさぬか。相手は煙の末、聞き逃さないぞ」
「伊平治、すこし反応が大仰ではないか?」
緊張した顔の伊平治に栄助は問いかけた。
伊平治が苦い顔で栄助の言葉の斟酌するようすを見せた。やがて、小さくため息をつき、
「実は御役目であやつとぶつかり、あやつに手前以外の忍びを殺されている」
と伊平治は諦めの表情で明かした。
「煙の末は化物だ。あいつが出張ってるなら、これから仕事を断っても遅くない」
「一度引き受けた仕事を断ったとあっちゃあ、向後に差し支障がある」
伊平治の気弱な言葉を、猪助が力強く否定する。
「腰抜けの風評のある奴なんぞ、誰が陣借りを依頼するよ」
猪助の主張はその通りだった。
「いいか、油断はしねえが慎重にいくぞ」
彼の言葉を受け、みなそれぞれの返事をする。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

忍び働き口入れ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)藩の忍びだった小平治と仲間たち、彼らは江戸の裏長屋に住まう身となっていた。藩が改易にあい、食い扶持を求めて江戸に出たのだ。
が、それまで忍びとして生きていた者がそうそう次の仕事など見つけられるはずもない。
そんな小平治は、大店の主とひょんなことから懇意になり、藩の忍び一同で雇われて仕事をこなす忍びの口入れ屋を稼業とすることになる――
AIシミュレーション歴史小説『瑞華夢幻録』- 華麗なる夢幻の系譜 -
静風
歴史・時代
この物語は、ChatGPTで仮想空間Xを形成し、更にパラレルワールドを形成したAIシミュレーション歴史小説です。
【詳細ページ】
https://note.com/mbbs/n/ncb1a722b27fd
基本的にAIと著者との共創ですが、AIの出力を上手く引出そうと工夫しています。
以下は、AIによる「あらすじ」の出力です。
【あらすじ】
この物語は、戦国時代の日本を舞台に、織田信長と彼に仕えた数々の武将たちの壮大な物語を描いています。信長は野望を胸に秘め、天下統一を目指し勇猛果敢に戦い、国を統一するための道を歩んでいきます。
明智光秀や羽柴秀吉、黒田官兵衛など、信長に協力する強力な部下たちとの絆や葛藤、そして敵対する勢力との戦いが繰り広げられます。彼らはそれぞれの個性や戦略を持ち、信長の野望を支えながら自身の野心や信念を追い求めます。
また、物語は細川忠興や小早川隆景、真田昌幸や伊達政宗、徳川家康など、他の武将たちの活躍も描かれます。彼らの命運や人間関係、武勇と政略の交錯が繊細に描かれ、時には血なまぐさい戦いや感動的な友情、家族の絆などが描かれます。
信長の野望の果てには、国を統一するという大きな目標がありますが、その道のりには数々の試練や困難が待ち受けています。戦いの中で織り成される絆や裏切り、政治や外交の駆け引き、そして歴史の流れに乗る個々の運命が交錯しながら、物語は進んでいきます。
瑞華夢幻録は、戦国時代のダイナミックな舞台と、豪華なキャストが織り成すドラマチックな物語であり、武将たちの魂の闘いと成長、そして人間の尊厳と栄光が描かれています。一つの時代の終わりと新たな時代の始まりを背景に、信長と彼を取り巻く人々の情熱と野心、そして絆の物語が紡がれていきます。
枢軸国
よもぎもちぱん
歴史・時代
時は1919年
第一次世界大戦の敗戦によりドイツ帝国は滅亡した。皇帝陛下 ヴィルヘルム二世の退位により、ドイツは共和制へと移行する。ヴェルサイユ条約により1320億金マルク 日本円で200兆円もの賠償金を課される。これに激怒したのは偉大なる我らが総統閣下"アドルフ ヒトラー"である。結果的に敗戦こそしたものの彼の及ぼした影響は非常に大きかった。
主人公はソフィア シュナイダー
彼女もまた、ドイツに転生してきた人物である。前世である2010年頃の記憶を全て保持しており、映像を写真として記憶することが出来る。
生き残る為に、彼女は持てる知識を総動員して戦う
偉大なる第三帝国に栄光あれ!
Sieg Heil(勝利万歳!)

渡世人飛脚旅(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)
牛馬走
歴史・時代
(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)水呑百姓の平太は、体の不自由な祖母を養いながら、未来に希望を持てずに生きていた。平太は、賭場で無宿(浪人)を鮮やかに斃す。その折、親分に渡世人飛脚に誘われる。渡世人飛脚とは、あちこちを歩き回る渡世人を利用した闇の運送業のことを云う――
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。

切支丹陰陽師――信長の恩人――賀茂忠行、賀茂保憲の子孫 (時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)暦道を司る賀茂の裔として生まれ、暦を独自に研究していた勘解由小路在昌(かげゆこうじあきまさ)。彼は現在(いま)の暦に対し不満を抱き、新たな知識を求めて耶蘇教へ入信するなどしていた。だが、些細なことから法華宗門と諍いを起こし、京を出奔しなければならなくなる。この折、知己となっていた織田信長、彼に仕える透波に助けられた。その後、耶蘇教が根を張る豊後へと向かう――

大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
不屈の葵
ヌマサン
歴史・時代
戦国乱世、不屈の魂が未来を掴む!
これは三河の弱小国主から天下人へ、不屈の精神で戦国を駆け抜けた男の壮大な物語。
幾多の戦乱を生き抜き、不屈の精神で三河の弱小国衆から天下統一を成し遂げた男、徳川家康。
本作は家康の幼少期から晩年までを壮大なスケールで描き、戦国時代の激動と一人の男の成長物語を鮮やかに描く。
家康の苦悩、決断、そして成功と失敗。様々な人間ドラマを通して、人生とは何かを問いかける。
今川義元、織田信長、羽柴秀吉、武田信玄――家康の波乱万丈な人生を彩る個性豊かな名将たちも続々と登場。
家康との関わりを通して、彼らの生き様も鮮やかに描かれる。
笑いあり、涙ありの壮大なスケールで描く、単なる英雄譚ではなく、一人の人間として苦悩し、成長していく家康の姿を描いた壮大な歴史小説。
戦国時代の風雲児たちの活躍、人間ドラマ、そして家康の不屈の精神が、読者を戦国時代に誘う。
愛、友情、そして裏切り…戦国時代に渦巻く人間ドラマにも要注目!
歴史ファン必読の感動と興奮が止まらない歴史小説『不屈の葵』
ぜひ、手に取って、戦国時代の熱き息吹を感じてください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる