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「あれは本当に公儀隠密だ、御役目の最中に顔を見たことがある」
しかも、とその顔から血の気が引いていた。みなを手ぶりで指示し、しばらく来た道を五町ほどもどったところで伊平治は口を開いた。
「当代御庭番最強と謳われる煙の末と呼ばれる男だ」
「煙の末っていうのは面妖な呼び名だな」
「煙の末っていうのは神出鬼没さをあらわす符牒だ」
首をかしげながら告げた猪助に、伊平治はかすれた声を返した。
「なに、今向こうはひとりだ」
助左衛門が大きな声を出したとたん、猪助は即座にその口を手でふさいだ。
「もそっと、声を落とさぬか。相手は煙の末、聞き逃さないぞ」
「伊平治、すこし反応が大仰ではないか?」
緊張した顔の伊平治に栄助は問いかけた。
伊平治が苦い顔で栄助の言葉の斟酌するようすを見せた。やがて、小さくため息をつき、
「実は御役目であやつとぶつかり、あやつに手前以外の忍びを殺されている」
と伊平治は諦めの表情で明かした。
「煙の末は化物だ。あいつが出張ってるなら、これから仕事を断っても遅くない」
「一度引き受けた仕事を断ったとあっちゃあ、向後に差し支障がある」
伊平治の気弱な言葉を、猪助が力強く否定する。
「腰抜けの風評のある奴なんぞ、誰が陣借りを依頼するよ」
猪助の主張はその通りだった。
「いいか、油断はしねえが慎重にいくぞ」
彼の言葉を受け、みなそれぞれの返事をする。
しかも、とその顔から血の気が引いていた。みなを手ぶりで指示し、しばらく来た道を五町ほどもどったところで伊平治は口を開いた。
「当代御庭番最強と謳われる煙の末と呼ばれる男だ」
「煙の末っていうのは面妖な呼び名だな」
「煙の末っていうのは神出鬼没さをあらわす符牒だ」
首をかしげながら告げた猪助に、伊平治はかすれた声を返した。
「なに、今向こうはひとりだ」
助左衛門が大きな声を出したとたん、猪助は即座にその口を手でふさいだ。
「もそっと、声を落とさぬか。相手は煙の末、聞き逃さないぞ」
「伊平治、すこし反応が大仰ではないか?」
緊張した顔の伊平治に栄助は問いかけた。
伊平治が苦い顔で栄助の言葉の斟酌するようすを見せた。やがて、小さくため息をつき、
「実は御役目であやつとぶつかり、あやつに手前以外の忍びを殺されている」
と伊平治は諦めの表情で明かした。
「煙の末は化物だ。あいつが出張ってるなら、これから仕事を断っても遅くない」
「一度引き受けた仕事を断ったとあっちゃあ、向後に差し支障がある」
伊平治の気弱な言葉を、猪助が力強く否定する。
「腰抜けの風評のある奴なんぞ、誰が陣借りを依頼するよ」
猪助の主張はその通りだった。
「いいか、油断はしねえが慎重にいくぞ」
彼の言葉を受け、みなそれぞれの返事をする。
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