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「せめて、この簪だけでも故郷の墓に届けてやれ」
伊平治が懐から簪を取り出し小次郎に渡す。
「これは」
思ってもみなかった品に小次郎はしばし呆然となった。刹那、その両の眼から透明なしずくがこぼれ出している。
「おろくを置いていくとき、これだけでもと取ってきたのさ」
伊平治の口調は得意げだった。
だが、小次郎はそれに応じる余裕はない。感情の堰が切れて胸のうちに溢れていたのだ。
「なにもかもを終いにする必要はねえんじゃえかい」
「なにもかもを、終いにしなくていい」
伊平治のせりふに小次郎は声をふるわせた。
流浪の身になったとはいえ元は武士、女子の死をめそめそと悲しんではいけないと思っていた。
だが、そんなのは、
それがしの勝手だ――。
伊平治の言う通りにするもなにも、無宿のおのれは自由なのだ。
● ● ●
昼過ぎについて宿場で土地の顔役のやくざに会いに行った猪助と伊平治ち栄助だったが、伊平治が物騒なことを言い出した。
「誰かつけられてやがる」
伊平治の言葉に、
「まことか?」
小次郎が険しい顔をする。
「相手の素性は浪人、渡世人の類だ。どこかで買った恨みを晴らそうって腹かもしれねえ」
猪助の言葉に助左衛門がむずかしい顔をした。
伊平治が懐から簪を取り出し小次郎に渡す。
「これは」
思ってもみなかった品に小次郎はしばし呆然となった。刹那、その両の眼から透明なしずくがこぼれ出している。
「おろくを置いていくとき、これだけでもと取ってきたのさ」
伊平治の口調は得意げだった。
だが、小次郎はそれに応じる余裕はない。感情の堰が切れて胸のうちに溢れていたのだ。
「なにもかもを終いにする必要はねえんじゃえかい」
「なにもかもを、終いにしなくていい」
伊平治のせりふに小次郎は声をふるわせた。
流浪の身になったとはいえ元は武士、女子の死をめそめそと悲しんではいけないと思っていた。
だが、そんなのは、
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