陣借り狙撃やくざ無情譚(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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「まあ、そんなこんながあっておれは渡世人になった訳だ。ついでにおめえもな」
 助左衛門が笑みを浮かべて告げる。
 栄助も彼に合わせて笑おうとした。だが、上手く笑みを作ることができなかった。あまりにもやりきれないのだ。

 栄助を残して仲間が部屋を後にした瞬間に少し時間は遡る。
 あっしは女はいい、と言って猪助は賭場へと向かった。
 自然、小次郎と伊平治がこの宿場の女郎屋につづく道に向かうことになった。
「小次郎さん、大丈夫かい?」
 ふいにたずねられ小次郎は戸惑う。
「お菊のこと、好いていたんだろう?」
 だが、重ねられた言葉には胸を貫かれた。息が詰まり、肺腑がずしりと重くなる。
「なにを申される、伊平治殿」
「強がりはよしな、これでも人の心を見抜くのを生業にした元隠密だ」
 伊平治は微苦笑を浮かべて首をふった。
 駄目だ、と小次郎は思った。誤魔化しきれない。
「なにをしていても心が虚ろでござる。それがしはおそらく、あの女性が陣借りに加わった時から懸想しておった」
「苦しいな、失うっていうのは」
 言われて、小次郎は伊平治が賭け事ですべてを不意にし失った事実を思い出す。
「失うのは初めてではござらぬが、胸の痛みには慣れもうさぬ」
 命を狙われて逃げ出し、逃げて逃げ通した先で猪助に拾われた。だから、それまでの生活はすべて失ったも同然だ。
「なれど、いずれはその痛みも薄れる」
「さようでござるな」
 伊平治の言葉に小次郎は首肯する。が、痛みが自然と薄れることにどこか物悲しさを感じた。
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