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 宿場にいれば相手も手を出しにくいかもしれない。だが、延々とここに居座るのも現実問題、無理な話だ。
 そんなことに頭がまわるようになったのは、俺が順調に渡世人に馴染んでる証だな――。
 栄助はそんなことを考え複雑な感情をおぼえた。
「どうする親分?」
 伊平治がみなを代表して問いかける。
「とりあえずは巻いてみるか」
 伊平治の言葉で今後が決定した。
 宿場を出てしばらく、街道が森の中に入ったところで彼らは街道を外れる。
 しばらくすると、
「おい、いねえぞ」「どこ行きやがった」
 という怒声が街道のほうから聞こえてきた。
 栄助を先導役に足跡の残らない場所をなるだけ選んで道なき道を進んだ。
 一刻ほどで間道へと入る。
 が、寸前で栄助たちは足を止めた。土手に身を低くして彼らを代表し栄助がようすをうかがった。
 普段は人影などないはずの間道にやくざ者らしき風体の者たちが顔をそろえていた。
 これは――本格的に尾行されていたようだ。
 栄助は自分が見て取った事実を仲間に教える。
「だからといって元の街道に戻るのも上手くないな」
 猪助が険しい顔をした。
「こうなったら、やつらの後をつけて間道を進むしかねえな。いくらなんでも、殿(しんがり)を用意するほどの人手はあるめえ」
 ふたたび親分の言葉でこれからのことが決まる。
 それから栄助たちは先行する者たちの足跡に異常がないか進む慎重な旅路となった。栄助の目にかかれば足跡をたどってもどって丸分かりだ。
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