陣借り狙撃やくざ無情譚(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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「無宿は守り刀を持っておる。生かして捕らえ、その証を確かめよ」
「生かして人を捕えるのは殺すよりむずかしく、そのぶん割高になっておりやすが」
 猫なで声の平兵衛に、
「取っておけ」
 と武士が気前よく小判を差し出した。しめて五十両だ。
 話が終わると武士は早足にその場を去る。
「遣うな」
 控えていた浪人はつぶやいた。
「さようでございやすか」
 それに平兵衛が笑う。
「あの御仁は隠密の者、命を守るために剣に通じておるのでありやしょう」
「なぜ、隠密とわかる?」
 平兵衛の言葉に疑問をおぼえた。
「匂い、でございやすよ。あっしらはそれを嗅ぎ分ける鼻がないとやっていけない」
「さようか」
 浪人はひとつふたつうなずく。
 ひとつ間違えば命を落とす彼らには、確かに一種の嗅覚といったものが必要なのかもしれない。
「話を聞かせたというとは、人狩りの仕事におれを?」
「さようでさあ。あなたさんと弥市さん、ほかに乾分に追手をお頼みしたい次第で」
 平兵衛の言葉に、人狩りか、と久しぶりに浪人は腹の底が熱くなるのを感じた。

 国元にもどった侍は、まず上役の家を訪れた。客間に通された彼は上役と顔を合わせるなり、
「友之助様が生きておられた」
 と訴えた。
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