陣借り狙撃やくざ無情譚(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 上役が一瞬、何を言われたか理解できない顔をした。次いで顔色が大きく変わる。
「その話に相違はないな」
「濃く面影が残っておられました。当人は否定されたがまず間違いなく」
 上役の慎重な問いかけに部下は大きくうなずいた。
「宗次郎があとを追ってござる」
 彼の言葉に上役はひとつ唸る。そして、
「御家老のもとに参るぞ」
 と告げた。自分では判断できないため裁可を仰ごうというのだ。
 そして、ふたりで家老の家へと向かう。
 ふたたび客間に侍は通された。今度は上役も一緒だ。そこに家老の清左衛門が入室してくる。
「今日は何用で参ったか」
 その問いかけに、
「こやつが友之助を任務の途中で見つけた次第で」
 上役が緊張した声で明かした。
 とたん、家老の皺深い顔がさらに皺が増えた。
「それはまことか」
 家老にたずねられ、
「さようにござる」
 侍は硬い声で肯定した。
「このことは余の者に?」
 家老の言葉に侍は背筋に寒いものを感じた。口封じに殺されるやも、と一瞬連想したのだ。
「それがし以外、まだ耳にしてござらぬ」
 上役が低い声で告げる。
 なるほど、と家老が独語した声が妙に大きくひびいた。
「すでに当家は当代の主を迎えて時が経っておる。友之助の存在は邪魔、場合によってはお家騒動の種になって災厄を招くかもしれぬ」
「つまり」
 上役が結論をたずねる。
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