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「およね」
栄助は戸惑いの顔を向ける。
「殺しのことは元凶の人間のせいにして、なかったことにすればいいじゃない」
「罪に問われるかどうかじゃないんだよ」
栄助は妹の言葉が切なかった。
だが、故郷を去るには罪悪感からだけではない。
人殺しの自分が妹の側にいてはいけない、と強く思うためだ。
「なんで、どうして」
およねは声を荒げる。
おまえのためだ――口にしかけてその言葉を呑み込む。
「妹のこと、頼んでもいいだろうか。旦那が亡くなって心細いだろうが」
栄助は彦兵衛の妻に妹のことを任せたいと申し出た。
「あたしは、あたしは」「いいよ、栄助さん」
およねが言葉を発する前に彼女は返答をする。
守るべき相手がいる、そのことに力を得たのか彦兵衛の妻の表情に力が戻っていた。
「ありがたい、助かるよ」
「旦那の仇を討ってくれた栄助さんの頼みだもの」
彼女の返答に栄助は複雑な思いを抱く。
だが、親しい人間の中で特に頼れる人間は他にいなかった。
「およね、いいいな。困ったときは助けてもらえ。嫁入りしたあと、悩みがあったら相談させてもらえ」
「嫌よ、兄さん。あたしは」
「わがまま言って困らせないでおくれ」
首をふる妹を栄助は叱責する。
栄助は戸惑いの顔を向ける。
「殺しのことは元凶の人間のせいにして、なかったことにすればいいじゃない」
「罪に問われるかどうかじゃないんだよ」
栄助は妹の言葉が切なかった。
だが、故郷を去るには罪悪感からだけではない。
人殺しの自分が妹の側にいてはいけない、と強く思うためだ。
「なんで、どうして」
およねは声を荒げる。
おまえのためだ――口にしかけてその言葉を呑み込む。
「妹のこと、頼んでもいいだろうか。旦那が亡くなって心細いだろうが」
栄助は彦兵衛の妻に妹のことを任せたいと申し出た。
「あたしは、あたしは」「いいよ、栄助さん」
およねが言葉を発する前に彼女は返答をする。
守るべき相手がいる、そのことに力を得たのか彦兵衛の妻の表情に力が戻っていた。
「ありがたい、助かるよ」
「旦那の仇を討ってくれた栄助さんの頼みだもの」
彼女の返答に栄助は複雑な思いを抱く。
だが、親しい人間の中で特に頼れる人間は他にいなかった。
「およね、いいいな。困ったときは助けてもらえ。嫁入りしたあと、悩みがあったら相談させてもらえ」
「嫌よ、兄さん。あたしは」
「わがまま言って困らせないでおくれ」
首をふる妹を栄助は叱責する。
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