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 栄助は側に腰をおろして精一杯気づかわしげな態度をとった。
「なんで、旦那は殺されないといけなかったんだろう」
 人違い、という答えを栄助は知っているが元より相手がその解答を欲していないことは明らかだ。
 しばらく沈黙がつづいたところで、
「俺は故郷を後にしようと思う」
 と栄助は告げた。
「どういうこと?」
 彦兵衛の妻は顔色を変える。
「まさか、旦那の死になにか係ってるのかい」
 心を乱してしまった、その事実に栄助は苦い思いを抱いた。
「あいつの仇はとった」
 だから、その事実だけを告げる。
「仇を、とった」
 彼女は呆然とつぶやいた。しばらくののち、
「それじゃあ、あたしには憎むべき相手もいないってことだね」
 と肩を落とす。
「すまない」
「いいよ、栄助さんは仇をとってくれたんだろう。しかも、そのせいで故郷を出るっていうんだ」
 栄助の申し訳ないという言葉に、彦兵衛の妻は泣き笑いの表情を浮かべた。
 そこへ、
「あたしはよくない」
 障子戸を開けておよねが飛び込んできた。
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