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「運がありゃあ、あの村で幸せに暮らしていくさ」
 肩をそびやかし助左衛門が片方の口角をあげた。
「おまえは言葉が足りなくていけない」
 と、そこに第三の人影が現れて中間の少し手前に立つ。
「おまえのことが心配なら心配と言え」
 親分、と助左衛門が鬱陶しげな顔をした。
「こいつは、おまえさんのことを心配してるのさ」
 渡世人の親分というより、その渋い風貌はどこぞの武家と言ったほうがしっくりくる風貌の猪助が栄助の肩に手を置いた。
 不思議な感覚だ。人殺しの原因を作った助左衛門の仲間なのだ、忌み嫌ってもおかしくない。だが、年嵩の親戚にでも会ったような安心感が猪助には感じられた。
「心配するなら、人殺しなんて依頼しないさ」
「まったく、素直じゃない」
 助左衛門が頬を歪めるのに、猪助は顔をしかめた。
「みなの命を助けるために仕方なく頼ることにしたのだろう」
 猪助の言葉に、栄助は意外の念をおぼえた。
 渡世人だから自分の身が可愛かったのだろうと思っていたが『みなの命を助けるために』に自分を頼ったとは。
 そこで栄助は自分にとっての大事な人たちのことを思い出す。

 葬式が終わり、埋葬が済んだあとの彦兵衛の家でのことだった。
 みなが引き上げた中、栄助は彦兵衛の妻のことが心配で残っていたのだ。故郷を離れる身だ、心配する相手の面倒をみられるのは今だけだ。
「栄助さん」
 彼女は床に座り込んで涙を流す。
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