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 栄助が厠に立ち家の外に出ると人影が素早く近づいてきた。
 ふいの出来事に栄助は体を硬直させる。
「栄助、オレだ」
 発された声には聞き覚えがあった。
「助左か」
 懐かしい声音に栄助は複雑な表情を浮かべる。
「ちょっと、宿場のほうで飲もうじゃないか」
 三度笠に縞羽織という渡世人の装をした従兄弟の言葉に栄助は一瞬躊躇った。が、血のつながりのあるかつての親しい相手の言葉に首を横にふれない。
「わかった」
 と首肯していた。
「畑のほうに猪が出たから行ってくる」
 と妹に告げて、鉄砲を家屋の壁に預けて助左衛門と合流し、村からさほど遠くない宿場町へと向かう。
 助左衛門に誘われるまま、栄助は旅籠のひとつの二階の一室に足を運んだ。
 村人はこんな場所用がないからやって来たことがなかった。
「これ、音曲を頼む」
 助左衛門が手を叩くと、三味線を手にした女とゆるやかに舞う女が部屋に入ってくる。さらに宿の人間が酒と肴を用意した。
 栄助は馴れない扱いに戸惑う。
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