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第四章

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また、教授に呼び出された。今度は何の疑惑だ?どうせ一馬だろう。

一馬の俺に対する行いは日増しにひどくなる。
正直なところ、なぜここまでされるのかがわからない。
俺がβであったことで、一馬の生活が脅かされたときいたことはある。

けれど、第二性なんて自分で選択できるものでもない
それをいつまでも責められても対処のしようがない。

一時は落ち着いていたのにな。
一馬が小学校の時にいじめられていたことは知っている。いじめの原因はβの弟を持ったからだ。
だから俺は家で二人きりの時に攻撃されていた。両親が不在の時は特に強く殴られていた。小さいときの四歳差は大きい。でかい体で殴られるあの恐怖感。もう充分だろう、充分に俺を懲らしめただろう。俺の骨が折れるほどまで殴りかかってきたことだってあった。
しばらく俺はα恐怖症になった程だった。
恐怖症を克服できたのは優がいたからだ。
深澤優。強い強い俺の親友だ。優の体術に憧れた。俺に反撃をする術があれば、一馬を怖がらないで済むのかなと思って。実際にはそんなに単純にはいかなかったけれど。αの残虐性をみるとソイツより強くなっても体が恐怖に固まった。
体が竦む俺を守ってくれる優のようになりたかった。
優の父は警備会社を経営していて、そこでは体術も教えていた。優の父は優以上の体術を会得していた。俺は、恐怖症克服の為、年上すら転がせる優以上に強くなれば何とかなると思っていた。
だから努力をした。優以上に。優に勝てるくらいになるように。毎日鍛錬を欠かさなかった。けれど、所詮はβの体。いくらやってもαである優に叶うことはなかった。
毎日毎日、優の数倍の鍛錬を行ない、体がボロボロになっても、体が豆だらけになっても、それでも鍛錬を続けた。それでも叶わなかった。
鍛錬をサボり、マンガを読んでいる、優に敵わなかったのだ。
αとβの性差を小学校時代に思い知らされた。完膚無きほどに思い知らされた。
俺の努力はなんだったのだろうか?優を目指した数年間はなんだったのだろうか?
そう思うと、この先自分の努力はどこに行くのだろう?
体力……それはどうやってもαには敵わない。頭脳。これもどうやってもαにはかなわないのだ。いくら勉強しても勉強してもαのように地頭良くない。この先、俺が努力することに意味はあるのだろうか?
打ちのめされて何のやる気もなく、無気力になった俺に、父は山中教授の講演をすすめてくれた。公聴会を勧めてくれた。そして山中教授は言ってくれたのだ。すべてのことに意味があると。俺の頑張った数年間、どうやってもαには敵わないと知らしめたあの数年間の努力ですら、何かしらの意味があったのだと教えてくれたのだ。
山中教授はβだ。αばかりが研究者になれるその場に、ベータの山中教授が行くのはとてもとても大変だっただろう。
俺は山中教授に出会って救われた。
一馬は?一馬を救ってくれる人はいなかったのだろうか?
一馬にはαというポテンシャルがある。俺なんかよりもっと恵まれているはずだ。それなのに、どうしていまだに俺を恨む?いい加減。いい加減何とかしてほしい。

俺が物思いに耽っていると、篠崎が教授の部屋のドアをノックする。
「面白くない事はさっさと終わらせてしまおう?」
俺を心配して篠崎がついてきてくれた。優しいヤツだ。







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