努力に勝るαなし

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九条の運命9-智則

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「僕がどれだけ傷つくか分かっててやったの」
九条が泣きそうな顔で言う。何故、これほど被害者顔が出来るのか。九条はいつもそうだ。智則の心を傷つけるくせに…
「お前は、俺の体の傷しか気にしないんだな。俺は自分の心の方が大事だ」

「俺は智則が望むものを最大限で与えている。バイトだってなんだって、してほしくないのに許したじゃないか!」
そう、俺は九条のお許しがないとバイトすらできないのだ。それが、家畜とどう違うのか。

「むしろ君だろう!?俺を家畜扱いしているのは」

「は?」

本気で意味が分からない。家族を盾に脅し、由希達山下ゼミ生を盾に脅してくる奴が何を言ってんだ。

「気が向いた時にだけ俺に与えてくれる。俺は餌を前にいつもお座りさせられてて、君がヨシって言うまでマテをしている。俺が涎をたれ流してても君は知らんぷり。さそして粗相をすれば身を盾にして俺を躾る。」

九条が、自身の身を顧みずに智則の為にしてくれたこと。それに絆されてしまった事をそういうのか。
粗相をすれば?
そう、九条は智則が頭に乗れば他者を盾に脅してくる。
怒りの余りに叫びそうになるのを必死に抑える。深呼吸だ深呼吸。

「お互い、思ってる事は同じだな。ならば離れないか。」

そうだ。お互い家畜だと思っているなら、不毛だ。ならば離れてしまえばいい。

「駄目に決まってるでしょ。周りがどうなっても良いの?」

やはりソレ。こうやって脅してくる奴が何故被害者ぶれるのか。
もう、今は何も考えたくない。九条に背を向けた。
「いかないでっ」
嫌な予感に、咄嗟に身を捩ったが間に合わなかった。
地面に押し倒される。抵抗するが、馬鹿力の九条にはかなわない。
先程の口論で見物人がいるってのに!
「離せっ」
何が気にさわったのか。服を破かれた。マズイ。奴が何をしようとしているのか、わかりたくもないが、ソレしかないだろう。
「九条!ここが外だって分かってんのか!」
目が血走ってる。正気じゃない。喉奥でグルルルと唸る音がきこえる。
警察呼んだほうが良くない?そう言ってた見物人達も九条の圧で身動きできてない。
「クソっ達也!」
車から達也がヨタヨタしながら、でてくる。手には注射器が。
…………
一発勝負、失敗は許されない。九条の気を逸らすしかないだろう。
くそっ
噛みつくように奪ってきた口に舌を返す。舌が絡み合う。智則を抑えつける手が緩んだ隙をつき、そのまま九条の顔に手を伸ばして視線をこちらに固定する。
口づけがどんどん深くなっていく。早くしてくれ、達也!
達也が注射器を突き刺した。九条の体が一瞬こわばるが、無理やり口づけに意識を向かわせる。九条の口の奥へ奥へと舌を伸ばす。数秒たって 九条の体から力が抜けた
ため息が出た。覆いかぶさっている九条 を転がした。
九条が気を失ったことで 圧が緩和されたのだろう 達也が立ち上がる。見物人もだ。
「達也、録画をチェックして」
達也は一瞬逡巡したが、背広を九条の体の上にかけて隠した後、見物人の方にむかった。二人いるSPもだ。
つか、失神しても勃起している九条はやはり化け物か。背広程度じゃ九条のデカブツは隠れないんだが。
そして、達也だからしょうがないとはいえ、俺も服を破かれてあられもない姿なんだか。ボトムスが無事なのが唯一の救い。
とりあえず、九条を車に押し込んで達也の背広を奪い取るか。
190近い身長の筋肉な九条はかなり重い。ずるずると引きずるのが正解なんだろうけど、SNSのネタ提供をするつもりはない。今、達也達が収めようとしているのだから。
九条の御曹司が勃起した状態で地べたを引きづられたなんてそんなの……株価に影響がある。そう、だから、引きづらない。九条の名誉の為じゃなくて智則自身の為だ。
入学式、新入生代表で挨拶をした九条を見た時、衝撃を受けた。有り余る覇気、帝王だと思った。コイツが治める帝国は伸びるだろうと思った。九条家の株はすでに高くて投資妙味が薄いといわれていたが、九条を見ただけでそれが単なるテクニカルな推察でしかないと思ったのだ。
智則が株を購入して数日たった頃、株価は爆上がりした。決算期でも特に大きな発表があったわけでも無く、理由が分からずに調べまくった。
分かったのは、九条の後継が運命を得たという事だった。αがオーナーの会社ではこういったことが時々ある。トップの覇気は業績に繋がるのだ。

そう、株価の為。自分の資産の為に庇うだけだ。
気合いで九条を背負う。重い。背中に九条の硬いのが当たる。
…………何か変だ。普通、こんな急にラットになるか?達也が注射したのも、抑制剤ではなく、昏倒させる薬だった。……抑制剤では効かない事が分かっていた?
不意に、背中の重みが軽減した。
「大丈夫かい?」
男が後ろから九条を支えてくれたようだ。
「ありがとうございます」
だが、九条の息が荒くなった。涎が智則の首筋に落ちる。
「………」
「私は離れた方がいいかな。まあ、車はすぐそこだから、もってくれるだろう。私達にも責任があるし」

「…………どういう意味ですか」

「たまたま、娘とここいらを散策をしていてね。…………娘は九条君の運命だ。」

運命って…都市伝説ではなかったのか。それでこの状態か。

「娘に九条君を返してくれないか」

…………返す?
「九条君と娘は前にも合っててね。」

「…………一年の頃ですか。」

「それもだけど…君もわかっているんじゃない?先日のパーティー。私の携帯番号を伝えておく。記憶してくれ。心が決まったら公衆電話から連絡をくれ。君の電話は怪しいからな」

一年の4月。九条の長子が運命を得たという噂で、株価は爆上がりした。九条家は否定はしなかった。…………智則との接点はまだなかった。九条は番持ちだと思っていた、だから余計に智則は九条に対して警戒心がなかった。監禁されてからは、九条がフリーだと知ったけれど。
先日のパーティ。
九条は明らかに変だった。本人は寝不足のせいで、抑制剤の効きが悪いとと言っていたがあれは、運命による押さえつけようのないラットだったのではないだろうか。翌日も無理やり智則を襲った九条。運命による後遺症のようなものだったのではないだろうか。

ならば、九条はなぜ智則に?αであるのであれば運命の方に行くのが自然なはずなのに…
今も、運命を感じて勃起している。

「君は九条君との関係を見直したいと思っているようだ。ならば、私の提案を受け入れてくれないか?娘に九条君を返してほしい。」

もともと運命として出会っていた2人。その後、智則が現れてその糸を絡ませてしまったのだろう。ならば。それを正すべきなのだ。
上位αは番に対して優しいという。番のΩを溺愛し、甘やかし甘やかしあまやかすという。智則に対してするようなあんな暴力的なことをしたりはしないはずだ。
正しくないことをしているから、だから九条は暴走しているのだ。

………
そうだ、それで、俺は解放される



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