努力に勝るαなし

九条の運命-7ー智則

智則の本気の拒絶が九条に伝わったらしい。
怯えたような すがるような目でこちらを見てくる
けれどもう絆されたりはしない。
達也になんとか、マンションまでおくってもらった。九条も着いてきたがったが、九条が同行するくらいならタクシーで帰るというと、折れた。そんな体調の智則をタクシーなんかには乗せられないからと。

幸い？体調は一日で戻った。
大学に行き、バイトに行く。九条の家には行かなかった。存在を無視した。
2週間くらいが過ぎたとき、例によって殿山が九条との関係修復を提案してくる。当然受け入れない。
九条がバイト先に現れるようになった。智則の仕事が終わるまでずっと店内にいる。

極上のαがいるカフェ、SNSにアップされた。……迷惑だ。店にはいつ九条が来るのかという問い合わせがふえた。九条がいない日に来店した客が難癖をつけてくる。いる日は、九条の隣に行きたがり先客が退かないことに文句をいう客まで出てきた。
九条を無視すると、九条はこうしてまた脅しのような行動をとるのだ。
店長に困ったように言われる。
「秋葉君、申し訳ないんだけど、暫く…………」
頷くしかない。
実質クビだ。智則には株の配当があるから、金銭的問題はない。ただ、色々な経験を学生のうちに積んでおきたいのに。

家庭教師のバイトに応募した。
九条が嫌がったやつ。カフェのバイトも嫌がられたが、『家庭教師なんてエロイ事智則にさせられないっ野獣の檻に子兎を入れるなんてっ』と、もっとも反対された職種。
ただ、接客業のバイトが無理なのは今回ので判明している。コールセンター、引っ越し、倉庫でのピッキング……距離や時間が合わないものを排除していったら、家庭教師がしか残らなかった。

登録センターに面接に行った。
帝都大のブランド力は強く 大した質問もされず 採用になった
登録センターのビルを出ると九条が車から出てきた。GPS でも着けられているのだろうか、ため息が出る

「家庭教師のバイトをするの？それだけはやめてって言ったよね？」

「お前のせいであのカフェはクビになったからな、他に合う条件がなかった」

「智則はお金に困ってないじゃないか」

「色々な経験をしたいって 前に言っただろう」

「…………乗って」

九条が車を示すが無視をした。腕を後に捻りあげられた。抵抗すると捻れが強くなり痛い。顔には出さないけど。
「さあ」
「…………」
形式上は依頼。けれどやってることは脅し。
捻れってなおりが悪いんだよな。まぁ仕方ない。ため息をついて一度余計な力を抜く。そして一気に力を込めた。
「何を…………!」
九条も次の瞬間には手を離した。
「なんで、なんで…………自分を大切にしてくれないの」
骨折覚悟で腕を取り返そうとしたのが伝わったのだろう。九条の反射神経は凄いな。こんな時だが、感心してしまう。他のαであれば、慌てて手を離したところで智則は骨折、良くて捻挫していただろう。
「自分を大切にした結果だ」
「…………酷いよ。酷いよ智則…………」
僕に、君の腕を折らせようとしたの……。力無く呟く。池に落ちたアフガンハウンドのようだ。
大型犬には弱い。けれど、もう、流されない。