【完結】エゴイスティック・ワルツ ~聖王国セントバレットの新王即位事情~

空月

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24.本音

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「フィーネ……無事でよかった……」

 院の自室で目を覚ましたフィーネが最初に見たのは、泣きそうな顔で自分を見つめるセイだった。

「痛いところはない? 気分は? あっ、無理に起きなくてもいいから……」

 矢継ぎ早に言われて、状況を把握できていないがらも自分の体に意識を向ける。特に問題はない――どころかどこかスッキリしているような気もする。こんなことをつい最近もしたような――と考えて、意識を失う前のことを思い出す。

「なんで、わたしここに、……麗蘭――リフは!?」

 思わず口にしたフィーネに、セイは痛みを堪えるような表情をした。何かあった、と直感する。

「リフは――どうしたの?」
「……捕えられた。いや、捕えた、って言うのが正しいのかな……」
「捕えたって……」
「王に対する反逆の、主犯として。僕が捕えた」
「はん、ぎゃく……」

 フィーネを攫ったのもその一環としてだったのだろうか。危ないことは何もなかった……とは言えないが、意図して危険にさらす気はなかったようだったし、こうして院に送り届けられているのだが。

「……リフは、どうなるの?」

 その問いを口に出すのは、勇気がいった。それは、返ってくる言葉を、半ば予期していたからかもしれない。

「この国の、反逆罪への処断は――死刑と決まってる」
「死刑って、そんな、」
「仕方ないんだ。……仕方、ないんだ」

 自分に言い聞かせるようにセイは言った。それにフィーネはかっとなる。

「セイも、リフも、どうして――」
「……フィーネ?」
「どうして誰も彼もそんな、苦しそうなのに仕方ないだの、勝手に諦めたみたいにありがとうだの言うの! セイ、あなた、リフに死んで欲しいなんて思ってないんでしょう!? だったら何をしてでも助けようとしなさいよ、中途半端に諦めるなんて女々しいことしないで! 方法を探す前から諦めて、それで絶対後悔しないなんて言えないでしょう!? なりふり構わず相手の都合も気持ちも全部無視してでもできる限りのことをしなさいよ!!」
「……でも僕は王なんだ! 好きでなったんじゃなくてもそれでも王だ、王としての判断ではリフを処罰しないわけにはいかない! 反逆者なんだよリフは!」

 振り絞るようにセイが口にするのに、フィーネは容赦なく畳みかけた。

「でもセイは知ってるんでしょう! リフが、麗蘭が何を望んであんなことをしたのか! 本当に王位を簒奪しようとしたわけでもないのにどうして反逆者として処罰できるの!?」
「本当の気持ちがどうでも外野から見ればリフは反逆者以外の何物でもないんだ! リフの気持ちが、やりたかったことがわかるからこそすべてを不問にすることはできない! リフだけを救おうなんてすればそれは王の甘さとして捉えられる、そして最悪この国は滅びる! そんなことにしないためにはリフを処刑するのが一番いい方法なんだよ!」
「真実を知っていてもその道を選ぶの? 王としてのあんたは納得できるとしてもただの『セイ』としてのあんたはどうなの、どうしたいの!? だって家族なんでしょう、血が繋がってる兄弟なんでしょう! 一緒に暮らしたことがないとかそういうの抜きにして、リフのことどう思ってるの、好きなんでしょう、失いたくないんじゃないの?!」
「……そうだよ、リフに死んで欲しいなんて思ってない、思えるわけない! 血のつながった人をこの手で殺したいなんて、思えるはずがないだろう!!」
「じゃあ、できるだけのことをしてあがきなさいよ! それでも――それでもダメだったら、どうにもならなかったら――話くらい、聞けるから……ひとりで、抱え込まないで」

 フィーネはそっと手を伸ばす。だらりと下げられたセイの手をとって、ぎゅっと握った。

「諦めてしまわないで……王になったからって、諦めるものが増えるのはかなしいから」
「フィーネ……」

 セイの指先に力がこもる。こつん、とセイの額がフィーネの肩に当たった。

「諦めないで……いいのかな……。もう、僕しかあがく人はいないのに」

 表情は見えない。声も乾いている。けれど、泣きそうなのだと、それを必死でこらえているのだとわかった。
 自分の無力を感じながら、それでもフィーネはセイの頭をそっと撫でる。

「誰が間違ってるって言ったって、リフ自身が余計なお世話だって言ったって、わたしだけは肯定する。誰かに死んでほしくないっていう気持ち、わかるから」
「……ありがとう、フィーネ」

 しばらく、そのままでいた。セイは撫でられるままに、フィーネに頭を預けていた。それから、フィーネの手を取り、下ろすと、顔を上げた。

「頑張って、くる。……応援してて」
「うん。頑張って」

 セイが去るその背を、フィーネは扉にさえぎられて見えなくなるまで見つめていた。

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