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第八部 大嫌い
第三話 砂漠の中にある水の都
しおりを挟む「――人間なんて、わかんねぇべ」
今まで、人間を判ったつもりでいた。
どんな時代になっても、どんなに主人が替わっても、前の主人以外、戦った記憶しかない。戦って、血に染まり、己は吼えた記憶しかない。
人は争いが好きで、人は正義が好きだと思っていた。
陽炎はでも、賞金首の首を狩って、換金したりするが、それ以外での戦いは望まない。今のところ。強さを目指しだしたこれからはどうなるか判らないが。
陽炎はでも、正義が好きならば白雪や鴉座や呉を許さない筈なのに、許してしまった。
彼を見ると、混乱していく。
人間とは、何なのかと。
陽炎を見やると、健やかとは言えない寝顔を見せていた。
くぅくぅと寝息だけは穏やかで、上品な生まれを思わせるような顔立ちは己には魅力的で。
つい、自分から見やったのに、うっかりまたときめいてしまった。
(陽炎を見ると、おらの体内が、叫びたがる――彼を愛している、だから譲ってくれと叫ぶ……その叫びが、でも朧気で、多分、前の記憶が叫んでいるんだべ。……この人は……前主人……でも、納得できない。記憶が蘇らない限り)
やがて、馬車の手綱を握っていた者が、ついたよ、と声をかけると、獅子座ははっとして、陽炎を起こした。
「陽炎、着いたべ」
「あ……――うん」
寝起きの眼は、とろんとしていて、何処か色っぽい。
獅子座はどきんとするも、まだ起きる気配のない陽炎をどうやったら起きるだろうと思って、拳骨をくだしてみた。
陽炎は頭を抑えながら、睨み付けて、起きた。
「あ、起きたべか」
「起きるだろ、そりゃ! 痛ぇんだよ、戦闘用星座と人間の力の差、考えろ!」
「う、す、すまなかったべ」
獅子座がしゅんとすると、陽炎は頭をこすって、涙目のまま止まった外の景色に目を見開いた。
水色の楽園。
一言で現すなら、それだった。
あちこちに湖があって、否、一つの大きな湖の上に、家が集ってると言えばいいのだろうか。
湖は綺麗な色をしていて、それだけで水が飲んでいい程綺麗な水だということを現している。砂漠の中にあるというのに珍しい。
中央の方になるにつれ建物が高く、そして色合いが水色から、目が覚めるような蒼になっていく建物。中央には大きなお城。旗には、国旗が描かれている。
陽炎は扉をあけて、着いた感動と、馬車から解放される喜びに、伸びをして、胸を弾ませた。
こんな綺麗な街にごろつきがいるとは思えない。とても清潔な街だった。
陽炎は、感動をそのままに荷物を取り出し、獅子座に降りるよう言うと、馬車に別れを告げて、中へと入る。
ビザは国境の町で見せたので、容易に街へと入ることが出来た。
「すげぇ、水の都だよ! 砂漠の中なのに!」
「ハーヴィーは、でも治安が悪いから荷物に気をつけたほうがいいべ」
「うん、そうだな」
陽炎は獅子座に笑いかけると、まず先に宿屋を探した。
宿屋を見つけ、そこに泊まることを決めると、荷物をある程度置いてから、街へ観光――ではなく、雹を探すことにした。
街の道を覚えるのも兼ねて、雹という人物について聞き込みをしようとした。
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