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第八部 大嫌い

第四話 説法ミュージシャン

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 あるおばさんの証言。

「雹さんって、あのお城に仕えてる方? あら、あの人そんなに凄い人だったの? ええ、世界最強? それは、ないわーおほほほ! だって、あの人、いつもお城で自殺しようとし続けているって噂だもの」

 あるおじさんの証言。

「雹の旦那? あの親切詐欺の騎士か? あいつには困ったもんだ、うちの母ちゃんがあいつを毛嫌いしてて、売り物投げるんだ。他のばばあどもも嫌ってる。だから、あいつを好きになれば趣味が悪いって言われてら」

 ある子供の証言。

「この間、借金取りに追われていたよ。最終的に土下座してた」


 聞けば聞くほど、人間性が駄目なのが見えてくる。
 獅子座は、陽炎をこっそりと伺ったが、呆れてる様子が見えた。
 と、思ったら「探すのやめようかな」とか言い出してきた。

「獅子座、俺さ、はっきり言っていいか?」
「何だべ? 何でも聞く!」
「――世界最強って、蒼刻一みたいな奴ばかりじゃないと思ってた。蒼刻一みたいにねじ曲がった、ひねくれ者ばかりじゃないって! でもさぁ……これ、どう聞いても、ひねくれ者じゃね? 世界最強になる条件って、もしかして、捻くれてることが第一条件なのか?」
「なら陽炎は大丈夫だべ」
「てめ……ッ、後で覚えてろ」

 陽炎が獅子座に引きつった笑みを見せていると、誰かがぶつかって、獅子座と陽炎の間を縫うように割って入って通っていった。
 痛い、と文句を言う前に、金に敏感な陽炎はすぐにスられたと気づき、その男を捜す。
 見つけると、追いかけた。

「待てッ、テメェ、俺の金ぇええ!」
「っは、金は別の誰かが手にした瞬間、そいつの物になる生き物なんだってネクスト様が言ってた!」
「ネクスト様だぁ?!」
「知らないのか、おめぇ田舎もんだな! この国一番の説法ミュージシャン騎士だ!」

 何なんだ、それは。
 説法とは、本来、自分の考えを相手に伝えること。もしくは、神の教えを伝えることだ。それなのに、それに付け加えてミュージシャンプラス騎士とは。陽炎は「っていうか、吟遊詩人って言おうぜ」と思った。
 暫く走り続けると、裏通りで、男が立ち止まる。誰か、仲間の元に辿り着いたようで、男は勝ち誇った笑みをしていた。
 陽炎は、丁度己の力量を確かめる良い機会だと思い、獅子座に逃げる奴が居たらそいつを倒せ、と命じた。

「――手荒な真似、していいか?」
「どうぞ、ご自由に」

 男の承諾を得ると、陽炎は円形剣を腰から引き抜き、向かっていった。
 だが、「お待ちなさい!」と声が聞こえたので、止まって声が聞こえた方を見やると、そこには目を伏せ目がちにした、一人の青年が立っていた。
 白髪に、褐色の肌。鎧を着ていて、かしゃかしゃと銀色の鎧が音を立てて、此方へ向かってきた。

「お待ちなさい。暴力で事を解決するのは、簡単ですが、同時に大事な何かを失いますよ」
「はぁ?」
「例えば、貴殿。貴殿が怪我をしたら、その間の治療費やら期間が無駄になるでしょう?」

 急に指をさされた、金を盗んだ別の男は、はっとした。
 確かに、こんな争いなんかで時間を無駄にするのは嫌だ。どうせ観光客の稼ぎを皆で割るのだから、治療費だけで終わる。

「か、勝ったらいいんじゃ……」
 指を指された男は、負けじと言い返す。すると、青年は首を緩やかにふって、マントをばさりと翻した。

「この人が根気強くて、捕まったらどうするんですか。訴えられたら、勝てますか?」
「……つ、捕まらない!」
「――では自警団を三十秒で呼び出すことができる、魔笛を俺が持っていたらどうする?」
「……く、くそ! 逃げるぞ!」
「逃げるならばその人の財布を此方へ。でないと吹きますよ」
「判った!」

 男達は、青年に財布を投げ渡すと、だだだっと逃げていった。
 陽炎は呆気にとられて、青年を見やった。青年は財布の中身を見ている。

「ほう、ただの旅人にしては結構なお金を持ち歩いてますね」
「な、何だか判らないが、助かったよ。で、返して欲しいんだけど」
「え? 何を言ってるんですか。お金というのは、別の主に渡った瞬間、別の……」
「お前もかああ!」

 陽炎はつい勢いで、跳び蹴りを青年の顔面に食らわせていた。
 青年は財布を手放し、地面に危うく背中を熱烈なキスさせるところだった。
 だが踏鞴を踏んで、踏みとどまり、顔を抑えて、ぐす、と涙ぐんだ。
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