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第七部 鬼夢花
番外編1 未完成の恋心
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君が君のままであることを願う。
だからこそ、僕はいつの日も、君への恋心ではなく、親しみだけを持つよう考えている。
これがマイナス思考ではないことを信じている。
「――鷲座」
「うん、どうした――水瓶座」
鷲座の目は、きっと窓の方には向いてない。文献に夢中だろう。
それでいても、何故か彼には判ってるのだろうと、ふと思う。彼には、陽炎さんが今、城を出ていったことが。
「君の目は、どこまで届くの?」
「――陽炎どのに、安堵が訪れるまで、どこまでも届きたいね。折角妖術を覚えたんだから、使わない手はないでしょう?」
鷲座は届かない文献に苛ついて、脚立を使うことをようやく思いついて、いそいそと使う。
欲しい文献を手に取ると、脚立を使ってる状態で、僕に振り返る。
「記憶のない君が、どうしてそこまであの方に惹かれるか不思議だ。君だけでない、他の者も、以前のように変わらぬ思いを抱いている」
「そうだね、何故だろうね――言っちゃ悪いけど、ただの人間なのに」
人間がしてきたことを覚えているわけじゃない。
ただ判るのは、僕らは彼らの道具だということ。
そして掠める記憶は、僕が主人に、小瓶で水を渡すところという場面。
その人はどんな表情で受け取ったのだろう。あの時、確か死にそうな目にあったような気がするんだけれどな。
この水の成分を変えたのも、あの人だと最初教えられた。こっそりと鷲座に。
今までの水と違って効力が変だからおかしいと思ったんだ。
「ただの人間。そう、ただの人間なんですよ、柘榴も陽炎どのも」
鷲座は脚立から降りながら、文献を開き、埃をさらっと小さな手で払う。
「でも小生から言わせてみたら、今までの主人の中で、一番変人です。誰がプラネタリウムの従僕と、自分を同レベルに扱える?」
「……――心から、友達みたいに接してる」
「みたい、じゃない。もう彼らの中では、小生達は気心知れた友人なんだ。そんな人間を、ただの人間と言うには、小生は戸惑ってしまいますね」
やっぱり。
やっぱり、鷲座には敵わないな。
あの人のことが大好きの度合いも負けそうだ。鷲座の持つ記憶がとても羨ましい。
蟹の記憶も羨ましい。
だけど一番羨ましいのは、記憶を持ってない己を選ばれた鴉座。
けど、だけど。
「ねぇ、鷲座。僕ね、少しプラス思考を最近実行できてるんだ」
「へぇ、君が? それは何ですか? 知りたいですね、君ほどのネガティブがプラス思考だなんて」
これも柘榴様のお陰かな。柘榴様も、陽炎さんも優しくて、そしてマイナス思考を取り除こうと必死になってくれるから。
哀れむんじゃなくて、否定するんじゃなくて、全てを聞いた上で、色々言ってくれるから。
僕は君が君のままでいられることを祈る。だから、君が選んだ鴉座と、僕の大好きな君がうまくいくことを祈っている、いつの日も。
城から追い出されたって、ライバルがそこにいたって、君なら平気だろ、鴉座。
それからね、もう一つあるんだ、プラス思考。
「水瓶座どの、これ。治療によさそうな文献を見つけましたよ」
仄かに芽生える恋心の手前。
君が抑制する星座であるのも、運命なのかもしれないな、なんて思う。
「水瓶座どの? 聞いているのか? 君から言い出したんだぞ、もっと治療水を作りたいと」
「うん、ごめんね、聞いてる聞いてる」
でも彼はきっと気付かない。
だって彼は、自分の気持ち以外見ないから。自分が、諦めようという気持ちしか。
今はそんな余裕ないんだろうな。かといって僕から動くつもりもない。
僕はただ――彼と話せる時間がとても大好きで、これが恋じゃなくたって、とても大事にしたい時間だということだ。
陽炎さん、柘榴様――あなた方にとって、互いの存在は、こんな気持ちなのでしょうか?
だとしたら、同じ気持ちを分かり合えて嬉しいな。
だからこそ、僕はいつの日も、君への恋心ではなく、親しみだけを持つよう考えている。
これがマイナス思考ではないことを信じている。
「――鷲座」
「うん、どうした――水瓶座」
鷲座の目は、きっと窓の方には向いてない。文献に夢中だろう。
それでいても、何故か彼には判ってるのだろうと、ふと思う。彼には、陽炎さんが今、城を出ていったことが。
「君の目は、どこまで届くの?」
「――陽炎どのに、安堵が訪れるまで、どこまでも届きたいね。折角妖術を覚えたんだから、使わない手はないでしょう?」
鷲座は届かない文献に苛ついて、脚立を使うことをようやく思いついて、いそいそと使う。
欲しい文献を手に取ると、脚立を使ってる状態で、僕に振り返る。
「記憶のない君が、どうしてそこまであの方に惹かれるか不思議だ。君だけでない、他の者も、以前のように変わらぬ思いを抱いている」
「そうだね、何故だろうね――言っちゃ悪いけど、ただの人間なのに」
人間がしてきたことを覚えているわけじゃない。
ただ判るのは、僕らは彼らの道具だということ。
そして掠める記憶は、僕が主人に、小瓶で水を渡すところという場面。
その人はどんな表情で受け取ったのだろう。あの時、確か死にそうな目にあったような気がするんだけれどな。
この水の成分を変えたのも、あの人だと最初教えられた。こっそりと鷲座に。
今までの水と違って効力が変だからおかしいと思ったんだ。
「ただの人間。そう、ただの人間なんですよ、柘榴も陽炎どのも」
鷲座は脚立から降りながら、文献を開き、埃をさらっと小さな手で払う。
「でも小生から言わせてみたら、今までの主人の中で、一番変人です。誰がプラネタリウムの従僕と、自分を同レベルに扱える?」
「……――心から、友達みたいに接してる」
「みたい、じゃない。もう彼らの中では、小生達は気心知れた友人なんだ。そんな人間を、ただの人間と言うには、小生は戸惑ってしまいますね」
やっぱり。
やっぱり、鷲座には敵わないな。
あの人のことが大好きの度合いも負けそうだ。鷲座の持つ記憶がとても羨ましい。
蟹の記憶も羨ましい。
だけど一番羨ましいのは、記憶を持ってない己を選ばれた鴉座。
けど、だけど。
「ねぇ、鷲座。僕ね、少しプラス思考を最近実行できてるんだ」
「へぇ、君が? それは何ですか? 知りたいですね、君ほどのネガティブがプラス思考だなんて」
これも柘榴様のお陰かな。柘榴様も、陽炎さんも優しくて、そしてマイナス思考を取り除こうと必死になってくれるから。
哀れむんじゃなくて、否定するんじゃなくて、全てを聞いた上で、色々言ってくれるから。
僕は君が君のままでいられることを祈る。だから、君が選んだ鴉座と、僕の大好きな君がうまくいくことを祈っている、いつの日も。
城から追い出されたって、ライバルがそこにいたって、君なら平気だろ、鴉座。
それからね、もう一つあるんだ、プラス思考。
「水瓶座どの、これ。治療によさそうな文献を見つけましたよ」
仄かに芽生える恋心の手前。
君が抑制する星座であるのも、運命なのかもしれないな、なんて思う。
「水瓶座どの? 聞いているのか? 君から言い出したんだぞ、もっと治療水を作りたいと」
「うん、ごめんね、聞いてる聞いてる」
でも彼はきっと気付かない。
だって彼は、自分の気持ち以外見ないから。自分が、諦めようという気持ちしか。
今はそんな余裕ないんだろうな。かといって僕から動くつもりもない。
僕はただ――彼と話せる時間がとても大好きで、これが恋じゃなくたって、とても大事にしたい時間だということだ。
陽炎さん、柘榴様――あなた方にとって、互いの存在は、こんな気持ちなのでしょうか?
だとしたら、同じ気持ちを分かり合えて嬉しいな。
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