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第七部 鬼夢花
第四十話 真の策士
しおりを挟む「って、ええええ?!」
菫が来る頃には、白雪たちが、万華鏡を粉々に砕き終えていた頃だった。
菫の突然の登場、白雪が居て壊していたこと、互いに存在に躊躇い、目を丸くする。
「何や、何や、これえええ!? 何で壊れてるん?!」
「えー、ノリかな?」
「嘘つくなやああ! 何か、あったんやろ! あんたらが、そないなこと、急に思いつくなんて思えへんわ!」
「――我が主の望みに、答えただけですよ」
「主? それって……フルーティ?」
菫は目を見開き、此処には居ない柘榴の姿を探す。
白雪はそれを見て、己は肩を竦めて、嘆息をつく。
「何がどうなっているか、判らない――みたいだね。でも、オレ達も、いきなり君たちの状況を教えられ、こうするようせがまれた、それだけだ」
「でも、あいつ、此処におらんやん!」
「――全ては、夢の力さ」
月明かりに浮かび上がったのは、字環――字環は一瞬白雪に怯えるが、一同に微笑みかけて、事情を説明する。
「彼は眠ることで、睡眠学習で蒼から睡眠学習を受けている――だけど、彼の見る夢が変わった。彼の見る夢が、誰かの願うハッピーエンドだった。だから、彼は“寝言”で妖術を使い、皆に伝えた。それだけさ」
「寝言? そんなこと、可能なんか!?」
「可能だよ――蒼が師匠、ならね」
それに反応したのは、星座と白雪。特に白雪は眉をひそめて、サングラスの下、字環を睨み付けた――だが、字環は怯えることなく、植木鉢を持って、とん、と菫に歩み寄り、ソレを手渡した。
字環の背中には、小さな子供がひっついていて。
「――何や、これ」
「――伊織だよ。柘榴様が、“寝言”で、伊織が消える寸前に、延命させたんだ。新しい姿という呪いでね――君には妖術が効かなくても、伊織なら効くだろう? ほら、この僕の背中の仔が、伊織だよ」
「い、おり……伊織ッ!」
「バイオレット……その、ゴメン、ネ」
「もう怒っとらんわ! 怒っとらんから、こっち来ぃ! 早う!」
菫が怒鳴ると、背中にいた三歳児の姿を持つ伊織は、ふわふわと浮遊し、菫に抱きついた。
伊織の感触に、菫はわんわんと泣き、心から柘榴に感謝した。
何もかも知ったような顔して、何でも相談されることに慣れてるような、苦手で嫌いなタイプだったけれど、今は、彼に感謝することしか知らないように、有難う、有難うと口にした。
――その背後で、気配がしたので、振り返る。
「翡翠……――」
「――驚いた、伊織も居るのか」
「何しに……」
「――その、今更、だが……」
翡翠は、項垂れ、言いにくそうに黙ってから、それから真正面を向き、ずかずかと菫に歩み寄り、伊織ごと抱きしめた。
「わが子を、抱きしめに」
「――何を、本当に今更」
「こうして始めることしか、知らんからだ! ――もう、そちの親という立場から逃げるのは、嫌だ。だから、恥ずかしいが、こうして始めることからしか知らんのだから、赤子の時に出来んかったことをしてる!」
「……翡翠」
「仲良くシナカッタラ、予はまたキエルよ」
『それは駄目!』
翡翠と菫ははもって、伊織に怒鳴りつけ――そして、互いにきょとんとして、苦笑を浮かべた。
その光景を見て、白雪はふむ、と呟く――。
(結果的に、菫と翡翠の交流に手助けした――これは、国交を勧めるに、此方の思う通りに出来やすい。これも奴のハッピーエンドの策の一つか。オレが幸せになるための。忌まわしい)
心ではそう思っても、白雪は何処か暖かな幸せを目で見ることが出来て、嬉しさをつい口端に浮かべてしまうのだった。
(参ったな、彼のが策士だったか――それも、天然の。これが蓮見の前に立ちはだかることになるのか……)
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