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第七部 鬼夢花
第四十一話 吹っ切れた悪魔座
しおりを挟む白雪が迎えにきた時、陽炎は驚き、菫のことを聞くと、白雪は顔を伏せた。
まさか、と一気に陽炎は青ざめ、目に涙を浮かべるが、それを見た瞬間、流石にこれ以上はまずいと判断した白雪が、すぐに生きてるよ、と口にした。
事情を説明し、陽炎がほっとした所で、白雪は陽炎を撫でる。すると、彼は苦笑を浮かべ、鴉座に報告しに行く。
――陽炎は、翡翠の元へ行き、得意げな顔をしてみせる。
どうだ、分かり合うことが出来るのだと言いたげな、満面の笑み。
翡翠は、苦笑し、陽炎に問いかける。
鴉座も隣に居るが、翡翠は鴉座のことを気にしてない。
「――此度の件には礼を言おう。何でも言え、叶えてやろう」
「……兄さんの国交は呑むの?」
「ああ、それと蓮見に精術を教えることとなった」
「……――ん」
「何もないのか?」
翡翠の問いかけに、陽炎は、少し考え込んでから口にする。
「あるよ。物理で世界最強の人、知らない?」
「――知り合いに居るが。何だ、弟子入りでもするつもりか?」
「うん。強く、なりたいんだ」
陽炎の眼差しには、確かに強い光りが宿っていて、覚悟は硬いと思わせる。
この目は、頼りたくなる目をしている――頼った結果が、これなのだろう。だとすると、この目も悪くはない、と翡翠は思った。
「今回、俺は鴉座も柘榴も守れなかった――もう、嫌なんだ。自分の弱さに、歯がゆい思いをするのは」
「――判った。手紙をしたためておく。結構な変わり者だからな、気をつけよ」
「うん、判った――スミレとはどう?」
「――まぁ、ぎこちないが、夜はなるべく共に食事をとるように努めている」
「そっか」
「――残念だな。もうすぐそち達は帰るだろう、可憐とか可憐とか可憐とか可憐とか可憐が居なくなったり、菫の思い人が居なくなるのは残念だ」
「可憐? ――まさか、カレン?!」
今まで翡翠に反応しなかった鴉座がその単語に反応した、陽炎はその単語に女か、と思ったが、鴉座が慌てて、幽霊座ですよ! と教えてくれたので、驚き、目を見開く。
「幽霊座が起きた!?」
「――ぬ? 今まで寝ていたのか? ああ、起きた……と、思う。ああ、可憐……何と愛らしいことか。まっこと残念だ――予の愛妾になってくれんかの」
「カレンが妾なんて! 許しませんよ!」
「――何故、そちが怒る?」
翡翠の冷静なつっこみに、鴉座ははっとし、陽炎を見やる。
何とか誤魔化そうと、鴉座は――その場から逃げ出した。
「ちょっと、待てこらあああ! お前、あいつとどういう関係だ!?」
「言えないんです! 誰にも言えないんです!」
「浮気か、お前も?!」
「も、ってなんですか! 私は違いますよ! もっと純粋な関係ですー!」
「ならちゃんと説明しやがれええ!」
どたどたと駆ける鴉座と陽炎を、遠くから見て、ため息をつく存在が一人――悪魔座だ。
悪魔座は、己とまだ決着はつけてない。
もやもやとした気持ちが広がっていて、白雪の言葉を思い出す。
(君が君の気持ちに向き合うときまで、オレは翡翠の味方だ――邪魔してはならない、君もね。だってどうして邪魔する必要があるんだ? ただの弟の恋路ならば)
「……だって、ぼかぁただ一人の兄ちゃんだ。どうすればいいんだね? 教えてよ、カラス兄さん……アトューダ様!」
「何、して、るの。アクマ」
「ぎゃあああああああ!!!!」
突然現れた幽霊座に、悪魔座は心臓が飛び出るかと思うほど、叫び、飛び上がった。
幽霊座はきょとんとし、それから、にこぉと笑った。その笑みに胸がどきん、とときめくのも恋する彼ならば仕方がない。
幽霊座は足音に気付き、視線を向ければそこに鴉座が居たので、嬉しげに駆けようとした――だが、その手を、悪魔座は取った。
急に、手放したくなくなり――この手をとった瞬間、勇気が湧いた。
この存在を、手にしたいと。
「どうし、たの」
「何でもないんだね。転びそうにみえたからだね。ほら、離したよ。ぼかぁ、白雪に用事があるから、ちょっと行ってくるんだね。あと、翡翠にも――ゴースト、カラス兄さんと話しておいで」
「う、うん……いってくる、ねぇ……!」
幽霊座がどたばたと五月蠅いその足音に紛れた後、悪魔座はその背を眺め、くすくすと笑う。
(――ぼかぁ、君が好きなんだ。今更、もう諦めるつもりはないんだね。だから、ちゃんとあの二人に宣言してくるね。君を手に入れるって。いつかちゃんと、兄だということも認めさせて)
「長い時間をかけて、の方が、有効的だね」
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