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第七部 鬼夢花
第三十四話 鬼と人の子
しおりを挟む「オニぃ? ちょっと、もうすぐ逢魔が時が近いんだから、不吉なこと言わないでくれよ。オニってのは、怖いもんさ。地方には居ないのに、都心にはくる。きっと人が多いところを狙ってくるんだろうねぇ」
と語る茶店の女将から。
「オニっつーのは、人間より昔からこの国に住んでいたって聞くぜ。人間がこの国を統一した頃から、人前に姿を現すのは逢魔が時だけになったらしい。何でだろうなァ、居心地悪くなったんじゃねーかね」
と語る浪人まで話を聞き、更に他の人に話を聞こう、そう思ったとき――。
『バイオレット』
「――……誰か、僕のこと呼んだか?」
『予だよ、バイオレット』
その声は伊織だった――伊織が、梅の香りに声を届けさせて、陽炎、鴉座にも声を聞かせる。
『オニに関わりたイノ?』
「――せや。オニにあの兵器作ったこと知らせよう、思うてな」
『よした方がイイ。翡翠が悲しムよ――翡翠が可哀想ダヨ』
「じゃあオニは死んでもええっちゅうんか、おんどれ」
『――オニは、覚悟している。いずれ、自分たちは去らなければならない、判ってイル。判ってルノニ、此処に来ざるをエナイだけナンダ』
時は沈みかけ――人の気配が消えると、空から、夢の人、伊織が現れる。
伊織は、羽衣を漂わせ、己の口元に袖口をあてながら、花がしおれるような笑みを見せる。
「それでも関わりたい、とイウカ?」
一瞬それに見蕩れる一同だったが、伊織はもう一度同じ言葉を違うイントネーションで口にしたので、陽炎は菫の服の裾をちょいと引っ張り、菫にはっとさせ、我を戻させる。
菫は真剣な表情で頷く――それに伊織はため息をつき、ふわり、と浮いた。
「翡翠が彼らを遠ざけ――バイオレットが、彼らに近づく。アクシュミだよ。とてつもなく」
「……――何でやの」
「――おや、君は知らないノかね。翡翠は、オニの子供ダヨ。昔滅んだオニと、現在居るオニの間の子、ナンダ。そしてバイオレットはオニと人の間の子だ――ネ、アクシュミでしょ。オニがオニを滅ぼし、半分オニの子が逃げろって言いにイク」
「――ッおとんが、オニ?!」
陽炎の声も、鴉座の声も遮って、菫の声が響くのも仕方ない。
何せ、彼はそれならば自分の種族を滅ぼそうとしている――柘榴とは逆のことをしようとしているのだから。
何故、オニを選ばず、人の王になる? 何故、人との間に子供をなした?
疑問はどんどん出てきて、混乱しているうちに、伊織は悲しげに顔を伏せて、言葉を続ける。
「可哀想。この国は、トテモ不器用に生きて、発展している――翡翠が、万華鏡を作り出してから、発展しだした。あれは、風水的にもトテモイイモノ。ダカラ、壊したら、イケナイ」
「……伊織、おんどれ……だから、僕に構ってきたんか」
「――翡翠は、王になってから、予に構わなくナッタ。昔は、梅の花を咲かセルと喜んダのに、いつからか、笑うコトスラしなくなったんだ。君のように、幸せな笑みもミセナイ。……カナシイ。君たち親子を、救いたいのに、ドウニモデキナイ」
陽炎は、そこに少し既視感を覚えた。
つい昨夜ほどの自分を思い出す――柘榴、鴉座、菫をどうにかしてやりたいのに、どうにも出来ない自分を。
陽炎は伊織に何も言葉をかけることが出来なかった。励ましも、戒めも、同情も。
鴉座は事情を脳内で整理している様子だった。
菫は、少し黙り込んでいる――陽炎は、菫に話し掛けようとしたら、菫は伊織を、そうこの国では破邪の名を、殴った。
ぎらぎらと燃ゆる瞳で、拳を片手で押さえて、ふぅふぅと怒りを抑えながらも。
伊織はきょとんとして、頬を抑えながら、菫に向き直り、小首を傾げた。
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