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第七部 鬼夢花
第三十三話 鬼に逃げて貰う
しおりを挟む「陽炎、こっち来ぃや!」
「勝手に陽炎に触れないでください。彼の体は、全身持て余すところなく、私と繋がって居るんです」
「嫌なこと言うなや! 陽炎、あ、あの茶店行ったか? あそこのあんこ、めっちゃウマイんやで!」
「あーっ、判ったから、二人して逆方向に手を引っ張るなー!!」
陽炎はそれぞれ連れ回そうとしている菫と鴉座に蹴りを食らわせ、漸く解放される。
菫は弱ってるから力加減が緩められたが、鴉座には容赦なくはいったので、鴉座はげほっとむせて、少し涙目になり、菫を睨み付ける。
菫は菫で手加減の蹴りでも弱った体にはこたえるらしく、けほっと咽せ、鴉座を睨み付ける。
互いににらみ合って少し険悪な空気が流れる――それは全て己が悪いのだと判っているが、どうにかならないだろうか、この関係は、と陽炎はため息をつく。
「――菫、これからお前、どうしたいんだ? 俺たちは別に目的はない、お前がしたいことをすればいい」
「んー、そりゃあ、陽炎といちゃつくとかぁ。手繋いだり、キスしたり、そっから先したり……って、あいたたた。悪かったって、本気で答えるから、脛蹴りはやめたって! ……オニんとこ、行こうかと思うてんねん」
「は、オニ?」
陽炎は脛を蹴るのをやめて、鴉座の顔を見やってから菫を見やる。
――そういえば、昨夜この二人で何を話していたかなんて、さっぱりつかめていない。
判るのは、翡翠に対する思いだけで、他は何を話したかなんて聞いてない。
この二人の会話は聞いては見たいが、それはそれで恐ろしいので聞く気にもなれない。
菫は少し真顔で、大分高くなった朝日を睨み付け、小さな声で言う。
「慕っていた頭(かしら)が自分殺してくるなんて発想でないやろ? 教えにいくんや」
「――何で。だって、オニは危ないし、倒されたって当然……」
「当然な存在? そんなのあらへんわ。――死んで当然の生き物なんて、ないに決まってる。……自分が何を生み出したか、知ってる。判ってる、あいつら殺す兵器や。それなのに、すまんって謝ってすむ問題とちゃうなんて判っとる。――せやけど、抵抗の時間を持って欲しいやんか。黙って殺されてほしゅうないんじゃ……」
「……――菫…。それだったら完成せず、出て行けばよかったんじゃ……」
「あれはいずれ完成するもんやった。僕の力を予め生まれたときにインプットしとったんやろ、それの力の強化や。時間かけて強うなった僕の力の覚え直しや。せやから、時間は精々百年あれば完成したやろな。時間かけとうないっちゅーことは、何かしら焦ってるっちゅーこっちゃ。何か、オニが持ってる可能性が高い……それとも、翡翠が怯えてるだけか、もな」
「……――ひとつ、約束しろ。もう力は使わないと。お前のその力で、愛しの我が君が心配されるのが、私、むかつくんです。病弱キャラは似合わない、およしなさい」
鴉座がそう言って菫の眼前に指さすと、菫はその指を掴み、おろして、嘆息をつく。
答える先は鴉座ではなく、陽炎ににこりと笑いかけ、頭をかく。
「――大丈夫、僕はオマエに迷惑かけとうないからな。何とか自力でも、戦う方法探してみるわ」
「菫――信じて良いんだな」
と、躊躇いがちに聞いてみると、菫はこくりと頷く。
陽炎には信じられなかった、菫の死期が近いなどと。どうせ、翡翠の躊躇からくる誤解だろうと思うことにして、まずは菫の武器を買うことにした。
菫の武器は、ミシェル刀――片刃の剣だが、切れ味がとてつもなく良さそうで、叩くわけでもなく、突くわけでもない、切る剣だった。
鞘がついていたので、鞘を帯に挟み、いつでも抜き出し切れることが出来るようにした。
そしてオニについての噂を、まずは周辺で集めることにした。
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