【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

文字の大きさ
305 / 358
第七部 鬼夢花

第三十二話 メロメロの殿

しおりを挟む
 
「何を、言ったの?」
「――辛いことを言ったんだよ」
「……辛い、こと? アクマ、を、傷つけ、たの?」
「違うよ――いつかは向き合わなければならない問題に、直面させただけだよ」

 まぁこれは詭弁かもしれないけれどね、と付け足して困ったように見つめてくる幽霊座の頭を撫でて、苦笑を浮かべた。

「オレのことは嫌いかな?」
「――スノーホワイトは、……怖いけど、嫌いじゃない、よ」
「じゃあ翡翠のことは嫌いかい?」
「ひすい?」
「さっきの人だよ、君が目覚めて一番に話した人」
「――ああ、あの人。……あの人は、わるいひと、じゃない。けど、悲しい人。悲しみに共鳴して、ぼくぅが多分、起きた……死に携わる人、だから、多分。死の悲しみ、で、起きた…………この国で、沢山、沢山、誰かが死ぬ。それを言ったら、そういう物を作って、るって、言った」

 何も知らないからか打ち明けてくれた言葉は、悲しいものだった。目覚めた理由も、それを少し寂しげに言う翡翠も心寂しいものだった。
 幽霊座は表情を少し悲しげに歪ませたので、白雪は、少し考えてから苦笑を浮かべた。

「――ねぇ、幽霊の妖仔。君はそれを嫌がってるんだね。じゃあ取引をしないかな。オレはその沢山誰かを殺す装置を、探る。その間に君は翡翠に勘づかれないよう、気を引く。ああ、それから蓮見の面倒も頼む。どうかな」
「……ぼくぅに、止められる、の? とめ、られる?」
「君が微笑み一つ向ければ、彼は夢中になるよ――君がうまくやれば、もしかしたら操れるかもしれない」

 操る、その言葉に、幽霊座はびくっとし、口元を袖で隠し、視線を白雪から外す。
 その反応に白雪は、多分この子は利用するとかそういうのに慣れていないのだろうな、と感じて、頭を撫でてやる。

「何かあったら、オレが仕組んだ、そう言いなさい。こうしよう、手を組むんじゃなく、オレに脅された――それで、オーケイ?」

 白雪の提案に、幽霊座は目を伏せて、苦笑を浮かべた。少し恥じ入ってるような、悔しがってるような、じれったい笑み。

「ぼくぅ……卑怯、だね。……――尊者の、所為にすれば、良いと、思ってる」
「それは自然なことだからね、気にしなくて良いし、オレもこういう動き方の方が性に合うようだ――だから大丈夫だよ。卑怯だって何だっていいじゃない、それで救われる人が出てくるなら」

 幽霊座の言葉に、白雪は別に同情することもなく、己の身の在り方を教えた。
 白雪は誰かが己の所為で救われるなら、という偽善的な思いではなく、誰かが己の名を使って動いてくれるならという極めて、明確的な理由を持っていた。だから、幽霊座にはただ動いてくれるよう、己という悪を差し出した。
 悪を差し出せば、被害者、もしくは人質は動くから。そして救われるという単語を使えば、必ず動くのは判る。あんな自己犠牲の出来る純粋な子供なんだから。

「……――うん、わか、た。ぼくぅ、頑張る」

 こく、り。幽霊座が頷くと、白雪はにこ、と微笑み、幽霊座を丁寧に翡翠の元にまで案内する。
 
 
 
 翡翠は、医者が三人付き添いで居て、そこには蓮見や大犬座が居る。
 幽霊座の独特の背筋が寒くなる気配を感じると、翡翠はがばっと上体を起きあがらせて、幽霊座を見るなり、鼻血を出した、というより、鼻から血が爆発した。
 白雪はそれを見て、にこにことしている――思い描いた理想が都合良く行くのはとても楽しいこと。
 久しぶりの感覚に、白雪は一瞬我を忘れるも、すぐに取り戻し、「陛下、それでは私はこれで」と退室する。
 幽霊座は何処に座れば良いのか、躊躇いつつも、翡翠が己の膝を示すので、医者に視線を。
 医者は少し首をふりかけたが、翡翠の凶悪な脅しのオーラに負けて、こくりと頷き、翡翠の鼻血を拭う。
 幽霊座は翡翠の膝に座り、大きなその身を少し縮める。
 
「重く、ない、ですかぁあ? ぼくぅ、背丈、大きいでしょ」
「大丈夫だ。そちが居ない方が、心が重い。嗚呼、何と愛い奴だ……蓮見に、犬、それに可憐……嗚呼、至福だ。何という幸せだ……此処が天か」

 うふ、うふふふふ、と翡翠は遠い目で笑っている、これがあの翡翠か、と大犬座は戦慄く。
 大犬座が戦慄いているところに、こそっと医者の一人が耳打ちをする。

「普段は冷徹で有名な我が王ですが、本来の持ち味はあの子供好きです」
「持ち味!?」
「我が王は、子供に行為を強いることは決して、ない。そこが唯一ほっと出来ることですが、あの見かけでは可憐さんは無理そうですね……外見、大人なので」
「幽霊ちゃんのピンチだわっ! っていうか、何でそんなのが王様なのよ、捕まるわ、普通なら!」
「それだけ優秀で強い王で、しかも長寿だからです……。しかも、子供好きといっても、好みの子供相手にはじっと食い入るように見つめることしかしないんです。セクハラは、年齢が二十代になる前のときですね。嗚呼、世継ぎが居ないのに、更に居なくなる……」

 この国の人も大変なんだなぁ、と大犬座は鳥肌立ちながらも思って、幽霊座にラブラブな翡翠を見やる。
 この人物は、果たして本当に、前半シリアスで、無言のオーラが怖かったあの王様と同一人物だろうかと。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

使用人と家族たちが過大評価しすぎて神認定されていた。

ふわりんしず。
BL
ちょっと勘とタイミングがいい主人公と 主人公を崇拝する使用人(人外)達の物語り 狂いに狂ったダンスを踊ろう。 ▲▲▲ なんでも許せる方向けの物語り 人外(悪魔)たちが登場予定。モブ殺害あり、人間を悪魔に変える表現あり。

ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」 (いえ、ただの生存戦略です!!) 【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】 生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。 ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。 のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。 「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。 「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。 「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」 なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!? 勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。 捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!? 「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」 ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます! 元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!

処理中です...