【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

文字の大きさ
上 下
303 / 358
第七部 鬼夢花

第三十話 話したいことが山ほどあるんだ

しおりを挟む

 幽霊座の常に白目を剥く癖は抜けていて、黒目をぱちぱちと見開き、悪魔座にお姫様抱っこされたまま城の内部をきょろきょろと見つめる。
 今、一体何時の時代なのだろうか、鴉座は何処に居るのだろうか、陽炎は生きているだろうか、そんなことを考えていると、いつの間にか悪魔座が外に出て、屋根を上り、一番上の瓦屋根まで移動して、ぜいぜいと息をついて、座り込んだ。

「アクマ、此処、どこ……?」
「ちょっと! 会っていきなり言う言葉が、それかね!? こっちは言いたいことが沢山、沢山あって……!!! っきしょ、何で、本当に起きると言いたかった言葉、全部消えるんだ……!」

 怒ることも出来るのに。
 それでも今浮かぶ言葉は、ただ「おはよう」だった。
 目覚めたとき一番に言いたい言葉は用意していたのに、候補が全部頭からすっ飛んで、おはよう、と呟くことしか出来なかった。
 幽霊座はそう言われると、きょとんとしてから、にこぉと微笑み、「おはよう」と返事を返してくれた。

「アク、マ――……ごめんね」
「もう、いいんだね。もう、もう……もう! もう、何処にも行かないと約束してくれたら、それだけでいいんだね!」
「うん、ぼくぅ何処に、も、行かない。カラス様のお側で、アク、マと、遊ぶんだぁあ……」
「……うん、うんっ。山ほど、遊ぶんだねっ!」

 悪魔座は未だに、少し泣きそうなほど感極まっていた。
 何せ、あの幽霊座が目を覚まし、己の前に居てくれる。
 幽霊座を隣に座らせて、悪魔座は今まであったこと、鴉座のこと、それから柘榴のことを教える。
 勿論、亜弓と呉についても。
 亜弓が出してくれる手紙の宛名に悪魔座の名があるから、と柘榴は手紙を見せてくれる。
 その中に書かれている手紙の内容は、真面目なことから笑えることまでバラエティに富んでいて、最後はいつも「呉はしょうがない奴だよ」で締めくくられる。
 何だか毎回その締めくくりを見ていると、どれだけ愛情がそれに籠もっているかが伝わってくるので不思議だ。
 悪魔座は笑いながらそう言うと、幽霊座はにこにこと黙って聞いていた。

「――仮ご主人と聖霊は結ばれたね。ぼくちゃんのお陰だね」
「――……ちがう、よぉ。あの人達は、きっとどんな結果でも、結ばれ、て、いた……そう思いたい」
「うん。でもさ、君が一番大きい。何せ、ご主人の呪いを亜弓から消したんだから」
「……――消して、良かった?」
「え?」

 幽霊座は表情を曇らせて、悪魔座の服をぎゅっと掴み、泣きそうな声で問いかけてくる。

「あの、呪いが、あって、守れる、こと、ある、んじゃない? あの呪いの力が、あるか、ら、助かることとか……」
「ばぁか、考えすぎだね。何のための仮ご主人だね。そんときゃ、呉様が何とかするね。そうだ、いつかぼくちゃんが目覚めたら、遊びに来いって言ってたね!」
「……行って、いいの? い、行きたいぃ……! 亜弓様、呉様、元気、なんだね……幸せ、なんだ、ね……」

 泣きそうな顔はどこへいったやら、幽霊座はほっと安堵の息をつけば、嬉しげに微笑んだ。
 そんな顔を見ていると、今まで兄として接していた、面倒を見ていた気持ちが何処かへいきそうで、悪魔座は、狼狽えた。
 久しぶりに己の気持ちとの対面に怯み、つい幽霊座から視線をそらした。
 幽霊座は小首傾げて、アクマ? と呼びかける。
 ――嗚呼、声を聞くことが、こんなにも嬉しいことだなんて。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】元魔王、今世では想い人を愛で倒したい!

N2O
BL
元魔王×元勇者一行の魔法使い 拗らせてる人と、猫かぶってる人のはなし。 Special thanks illustration by ろ(x(旧Twitter) @OwfSHqfs9P56560) ※独自設定です。 ※視点が変わる場合には、タイトルに◎を付けます。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

どこにでもある話と思ったら、まさか?

きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

処理中です...