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第七部 鬼夢花
第二十九話 交渉材料の伏兵
しおりを挟む「え、あれ? 何で知って居るんだね?」
「まぁまぁいいじゃないか、めでたいじゃないか。それで? 彼は何処に?」
「それが……さっきから、見つからない。今朝、いつも寝かせている場所から居なくなってるし、気配がするから、起きたのは確実なんだがね、何処に行ったか皆目検討もつかないんだね」
「そうか――翡翠が何か知っているかも知れない。行ってみようか」
「うん。そうするね」
白雪は蓮見から手を離して、悪魔座が急かしても決して急がず、ゆったりと歩く。
蓮見はその背を悲しげに見やる――ここは、恋愛先輩としての自分が何か言わねば、と大犬座はこほんと咳払いをした。
「大犬さん?」
「蓮見ちゃん、貴方、ずばり、恋してるでしょう!」
「恋?」
「――諦めた方が楽よ、恋って。まぁあたしは諦められないんだけれど、少しでも近くにいられる、それだけでいいの! 諦めようとすればするほど、泥沼につかるから、無理して気持ちを殺そうとしないほうがいいわよ。本人にばれなきゃいいだけなんだから」
「な、何言ってるか、判らない、大犬さん」
「大きくなったら判るわ。今だけの気持ちかもしれない。今は体が少し大きくなってるから。でも、まだ成長し直してもその気持ちがあったら、その時は、あたしが愚痴相手になってあげるから、感謝しなさい? さ、行くわよッ。とっとと翡翠ちゃんをおとして、帰るんだからッ」
「う、うん……」
白雪はいつも会う場所へ向かうと、医療室に人が集まっているようなので、白雪は人垣をかきわけて、中へ入る。
すると、そこには簾越しに翡翠が居るらしく、皆は滅多に人前に現れぬ翡翠だからこそ見に来たのかと、白雪は理解する。
「殿下――何をそこで?」
「雪か。いや、ちと……困って、な。ある大人を見ると、血が穴という穴から止まらん」
「ケツもですか」
「下品なことを申すな、雪。だから、そちは嫌いぞ。――……少し、向こうに行っててくれ、可憐」
「――は、はぃい……」
「ゴースト!!」
簾から出てきたのは、和装の幽霊座。
幽霊座を見つけると、悪魔座は目に涙を浮かべて、喜びを顔に表し、幽霊座に抱きついた。
抱きつかれた幽霊座は、ふらふらとしながら、はにかんで、黒目を見せた。
にこ、りと微笑む彼を見て、白雪はぴーんときた。
外見、大人だが、中身は幼い。というより、赤子そのもの。
これこそ、まさに翡翠の求めていた人物、そのものではないか!
にやりと笑う気配がした悪魔座は嫌な予感を即座に感じ取り、幽霊座を抱えて、うおおおおおと何処かへ行ってしまった。
それを見て白雪は、ちっと舌打ちをする。
「――ごーすと? 可憐では、ないのか?」
「カレン――確かに、カレンと言いますが、彼はプラネタリウムの妖仔の一人です。気が遠くなるほど昔の、水子の魂が妖仔となりました」
「成る程、道理でかかかかかっかかか可愛かわ、かわ、可愛い……いや、何でもない」
ごほっごほっと咳で誤魔化す彼は気付いてない、簾にびちゃっと血がかかったことに。
成る程、子供好きというのは本当で、無垢な人間が好きなのだろう――そう悟れば、白雪はにこりと翡翠に笑いかける。
「彼は手強いですよ。保護者が二人もいるんです」
「――それを何とかするのが、そちの役目だろうが!」
「嫌ですねぇ、タダで何とかしろと? それにあんな無垢な者に、力で脅して構わないのですか? 力で脅せば屈しますが、きっと大人には疑心暗鬼になるでしょうねぇ」
「っく……ど、どうすればいい?」
「――カレンの攻略方法を、考えましょう。ですので我がユグラルドの同盟、それから蓮見への精術の伝授をお忘れ無きよう……」
思わぬ交渉アイテムの登場に、白雪は悪魔座に心の底で詫びながら、ほくそ笑んだ。
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