【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

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第七部 鬼夢花

第十三話 親子の確執

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 梅の木に花がつく――それは己にしか見えない幻。
 梅の幻を見ている。それは幼い頃、己が梅を好きだと口にしたから。
 それを知ったのはつい最近。
 でも梅の幻を見るようになったのは、己が研究に打ち込んでいるとき。
 
 ――オニを倒すための。
 
「研究は順調か?」
「翡翠様――自らおんでるとは思わんかったわ。僕の力、全部かけているんやから、これさえ完成出来ればどんな術が力が来たって、弾き返したるようにしてる……」
「――そうか。体調はどうだ?」
「聞かへんでも、判っとるやろ――おとん」

 翡翠はくつっと笑い、持っていた酒瓶に口を付けて、梅酒を飲む。
 飲んでも酔うほどのアルコールではないので、翡翠はただ渇いた喉を癒しただけだった。
 もしかしたら、気まずさを酒と一緒に飲み流したかっただけかもしれないが。

「父と呼ばれる日が来るとはな」
「わざとや、わざと。嫌味や。父親言うても動揺せぇへんのな。罪悪感はないのな」

 菫は汗をかきながら、暗い室内を照らす、マンモス程ありそうな四角い物体を見上げ、それと己の体を繋ぐ赤い数十本の線をぐっと握る。
 菫の力は、この四角い物体にどんどん吸収されていく――否、寧ろ己がこの物体にどういう力か教え込んでいるのだ、スパルタで。
 意志のない物体は完璧にとは言えなくても、簡単にとは言えなくても、ずうずうと吸収していく。

 ――この物体のために生まれた、己の人生。実の父親に捨てられ、国に来ても、見捨てられる。
 この男はこの国に来たとき、開口一番にこう言ったのだ。

「予はそちを予の子だと思わぬ。だから、そちを見殺しにする――よいな」

 衝撃は今でも覚えている――実の父親がいたのか、そして何より父親だというのにわが子を国のために捨てるのか、と。

(お前、すっかりミシェルの人間って感じがする――)

 そう言った陽炎。彼の言葉はあながち間違いではない。何せ、この国を思わなければ、彼自身やっていけなかったからだ。
 この国は酷く病んでいる――オニに怯えて外に出られぬ民。それを思わねば、何のための己の力だろうか?
 この国に忠誠を誓わねば、やっていけない人生なのだ。
 
「――菫、陽炎に会ったぞ」
「僕も会った。その分、ちゃんと力は多めに吸収させたさかいに、安心してぇな。どやった?」
「――いい目をした青年だった。あともっと年が幼かったらな……惜しい、本当に惜しい」
「ははっ、おとんがそれでも普通の人間を気に入るなんて珍しいことやって伊織が言ってたで」
「伊織にはもう会ったのか。あれがこの国の守り神だ。不必要なことは申すな――」
「はいはい、判った判った。蓮見ちゃんと犬っころはどうやったん?」
「これから予が気に入るよう、雪が仕組むだろう――楽しみだ」
 
 翡翠は、ひた、と歩き、裸足のまま物体に歩み寄る。
 翡翠が歩み寄ると、物体は不気味にぶおおおおんと不明瞭な音で鳴き、翡翠に懐くように、輝きが増す。
 翡翠は目を細め、一節、歌を歌う。すると、その物体は光りを少し控えめにし、大人しくなる。

「万華鏡――か。これで、オニどもはもう予に会いに来なくなる……」
「そもそも何でオニはあんたに会いに来るん?」
「――予が、人でない者の血を引いてるからだ。そちにも流れてる、菫。オニは、首領を求めて此処に来ようとす。だが予はもう、人の子の王――修羅道には戻れん」
「してることは、修羅並やと思うけどな。ジブン信じてついてきてくれた仲間を、わが子の力で排除するなんて、他の奴らには考えられへんこった」
「……――菫、先に言ったはず、予はそちをわが子と思っとらんと。力がこの国に必要だった、その力がそちだった。それだけだ――励め。万華鏡が完成するまで、死ぬのは許さぬ、精々延命に力を注げよ」

 翡翠は義務的にそう言うと、さっさか去ってしまった。
 それが寂しいように“万華鏡”は光りを失う――それに苛立った菫が万華鏡を叩く。

「ぼけ、あんなのに反応すんなや! あんな、非道に――」

 菫は唇を噛んで、拳を作る――すると菫を励ますように“万華鏡”がきらきらと色んな色で輝き、菫を楽しませる。
 無機物の癖に、やるじゃないか、と菫は苦笑し、再び研究に努める――。
 
 
 
「不器用ダネ」
「――伊織」
「君は、子供への接し方は慣れテルのに、何故自分の子となると、そうなるんダネ?」
「……――さぁな。どうせ消える命だ、今更接しても情も湧かん」
「…………あの子供は、君が唯一大人で愛せた女の血が、交じっていルンダヨ? 愛しくはなイノか?」
「何を言ってる、伊織。女は子を産むのが義務だろう――その義務を成しただけだ、そしてその結果だ、あれは。今更、父と名乗ることは必要なかろうて」
「……ッ翡翠の馬鹿! 馬鹿馬鹿馬鹿! 翡翠ナンカ大嫌いだっ!」

 一瞬現れた梅の気配は、すぐに消えて、花びらがちらほらと翡翠の頭に舞う。
 頭にかかった梅の花びらを、煙たそうに翡翠は払うと酒瓶に口をつけ、飲みながら歩く。
 今は、丑の刻――だから、誰もいない。
 こうして自由に出歩けるのは、丑の刻だけ――丑の刻だけは、王の時間。
 
 
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