287 / 358
第七部 鬼夢花
第十四話 菫の役目
しおりを挟む朝起きればシャワー、なんて便利なものはあるわけなく。
浴場の時間も決まっていて、今は掃除の時間らしく、朝シャワー派の陽炎は不快な思いをしながら、袖に腕を通す。
鴉座の所で話していたが、蠍座が戻ってきてそれどころではなくなったので、密かに退散し、柘榴と話し込んでいた。
「何故菫に伊織は構うのか」「何を菫は仕事としてしているのか」この話題で二人は、色々意見を述べたが、どれも違う気がして、疲れ果てもう投げだし「寝ようか」と寝たのが昨日だ。
それならば直接翡翠に会って話を聞こう、と決意したのが朝起きてから。
何せ己は制限無く会って良いと言われたのだから。
朝、着替えを終えて布団をたたみ、少しせかすように柘榴がたたみおえるのを待って、部屋から出ようとすると、そこには白雪。
白雪がサングラスを二日連続取り外したままで居る状態だなんて珍しくて、陽炎は思わず口を真一文字で黙り込んでしまった。
代わりに柘榴が言葉を発する。
「どうしたの、白雪」
「え、何が? おはようの挨拶しにきたんだけど?」
そういって、白雪は陽炎の頬にキスをして、おはようとにこり微笑む。
その光景を見れば、確かに陽炎は特別扱いされてるのだなぁとよくよく思う柘榴だった。
「いや、何かいつもサングラスしてるのに、今日も昨日も外していたから」
「ああ、これね。サングラスしたいんだけれど、この国では色つき眼鏡は良い印象を持たれないようだからね――」
白雪はそういうと、卓の近くに歩み寄り、ミカン籠の中から、四角い小さな小さなチョコレートサイズの黒い物を取り出す。
それを見せつけて、「これ、オレの盗聴器。ユグラルドから貰った」と誇らしげに語る。
ようは、二人の話を聞いていた、と言いたいのだろう。二人は、言葉を無くし、呆れる。
身内相手に盗聴器とは、この男、何を考えているのか。
「――何でこんなことしたの」
「君たちが余計なことを企まないようにね。筆談も駄目だよ、書く音で判るから」
「まだあんの、盗聴器?!」
「……――昨日は、随分と興味深い話をしていたじゃないか、聖霊の仔」
白雪は襖をしめて、中に入り込み直し、正座をする。
着物に皺がよらないように座り直すところなんか様になっていて、お前はミシェルの人間かとつっこみたいくらいに、堂々としている。
柘榴は頬をかき、陽炎に発言権を委ねる。己が口を開けば、これは喧嘩モードになる予感がしたからだ。
「兄さん、どの話かな」
「ええとね、蒼刻一を殺さないという話し、それから緑銀の仔について。あとね、不老不死――」
「で、どれを一番最初に話したい?」
「そうだなぁ、緑銀の仔についてかな。陽炎君、翡翠に彼のことを聞いては駄目だよ――彼は琴線なんだ、この城では。とても脆い、城壁だ、そのくせ強い効力を持ってるんだ。良いことを城内で聞いた」
「いいこと?」
「翡翠はショタコン、ロリコンだと思っていたら、過去に一人、大人でも愛せた人が居たらしい。その人は、不幸な事故で亡くなったが、子供を身に宿してから、数々と不思議な出来事が彼女に起こった――」
白雪はお茶を自分で作り、緑茶を口にして、苦い顔をした。
こう見えて白雪は甘党なので、ただ苦い、それも口の中でふわっとした粉が広がるようなお茶は苦手なのだ。
見かけもよく見てみれば、粉がふわっと口の中と同じように浮いている。
まぁそれは世間で言う高級茶、玉露なのだが、どんなに高級茶でもこの国で冷やしあめと飴湯に勝てるものはないな、と密かに白雪は思った。
「その子供の名前は菫――……彼はなるべくして、能力を持ったんだよ。でもその子供を生け贄に、捧げなくてはならない物がある」
「……――何ソレ」
「君たちが知りたがっている、緑銀の仔の職さ。――オニ殺しの兵器を作っている。否、あれはオニどころか他国も滅ぼせるかも知れない、と意見を聞いたけれど」
「……それが何でスミレの寿命と関係してくるの?」
「――決まってるじゃないか。彼の能力の全てを、その兵器に記憶させるべくして能力を全開で使ってるからさ」
「は?!!」
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
【完結】元魔王、今世では想い人を愛で倒したい!
N2O
BL
元魔王×元勇者一行の魔法使い
拗らせてる人と、猫かぶってる人のはなし。
Special thanks
illustration by ろ(x(旧Twitter) @OwfSHqfs9P56560)
※独自設定です。
※視点が変わる場合には、タイトルに◎を付けます。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。

どこにでもある話と思ったら、まさか?
きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる