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第六部~梅花悲嘆~
第三十一話 花の香りすべてを眩ませる
しおりを挟む悪魔座は目を見開き、そういえばそんなこともあったなぁ、と昔の事件を思い出していた。鷲座には陽炎を助けるために、宮廷妖術師になったことがあったのだった。
鷲座は「便利ですよね、これ」と言って、慣れた様子で入ってる辺り、もしかしたら時折こうして禁書を読みに来ているのかもしれない、と悪魔座は呆れた。
「術のコーナーはここから、あそこまで……君は、二列目からあたって。小生は、ここからあたります」
「判ったね、どう探せばいいんだね? ぼかぁ昔の文字しか読めないし」
「それなら大丈夫。ここの本は殆どが昔の字です。古書ですから。探し方は、数字の少なさ。この世の物には、決まった数字が与えられてます。例えば、この本を、五と名付けたとして、この本に少しでも関わるものならば、何処にでも五という数字が現れる。それが妖術です。数字が少なく記述されてるものは、少し違う術で、亜流ということです」
鷲座はそういって手に取った本を流し読みして、元に戻す。
記憶を陽炎がなくしたということ以外に、本を読みながら悪魔座に、鴉座という単語に陽炎が嫌そうな反応を示したということを、鷲座は教わった。
鷲座はそれを聞くと、恐ろしいほどのスピードで捲っていたページを止めて、少し考え込む。
「――字環は、関わってないんですか?」
「そういう結果にしたのは自分だって言ってたね」
「つまり直接、そうしたのは自分ではない、ということですね。捻くれた答え方だ。……となると、僧龍派? 否、でもケッシー術も……」
「本当に、博識なんだね、ワシ兄さん」
悪魔座は既に読むのに少し飽きつつあった。だが、読んでいくうちに、ふと気になる箇所を見つけた。
――花の香、全てを眩ませる。
(花の香り? ……確かに、あの時、いつもの陽炎とは違う匂いがしたね。……何の香りかは判らなかったけど、花の香りなのかな)
悪魔座はその本を持ち、鷲座の服をくいくいっと引っ張る。
鷲座は本に熱中してて気付かなかったが、悪魔座が強くまた引っ張ると気づき、悪魔座の持ってる本を見やる。そして、己の持ってる本を持たせて、悪魔座の本を読む。
「――……これは、まだ解明されてない術。由来は東洋、とありますね。花の香りがしたんですか」
「うーん、判らないけど、何か、いつもの陽炎の匂いがしなかったんだね。違う香りがしたんだね」
「……――ちょっと、待ってくださいね。この術なら、先ほどの僧龍派と掛け合わせて、数式に変換すると……――」
ぶつぶつと鷲座は呟くと、ポケットから小さなメモ帳と万年筆を取り出す。
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