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第六部~梅花悲嘆~
第九話 パパのお嫁さん
しおりを挟むとりあえずは薬が出来るまでは、成長した姿でいることを蓮見は許された。
蓮見は喜び、母親に抱きつくが、母親は未だに意識がない。真っ青になっていて、びくびくと震えている。彼女もまた、白雪の反応を恐れている節があった。
夜――蓮見は、寝室を白雪の研究部屋が良いと言ってきたので、一同は困った。
何せ彼の部屋は妖術に関する研究道具、数式を書いた黒板、妖術を詳しく書いた本だらけなのだ。
数式を覚えられては厄介だと言うことは、呉が言っていた。
世界最強になられても困る一同は、射手座と共に寝て貰うことにした。
「ちぇ、パパの部屋が良かったのに」
「何で白雪の部屋がいいんだ?」
陽炎は射手座の部屋に行き、蓮見のベッドの支度を済ませながら、尋ねてみる。
すると蓮見ははにかんで、頬をかく仕草を見せる。甥馬鹿はそんな仕草でさえノックダウンだ。
「あのね、パパがいるような感じがするから」
「……あー」
その返事に陽炎は、蓮見の切なさを感じて、どんな顔をすればいいか判らなかった。だが蓮見ははにかんだまま、言葉を続ける。
「今、居ないじゃない? 何でだかは知らないけれど。でもパパが居ないのは、凄く寂しいんだ……」
「蓮見はパパが好きなんだな」
「うん、ぼくね、将来パパのお嫁さんになるの」
子供独特の夢だが、相手を間違えている。それを言うざるべきか、言わざるべきか、陽炎は悩んだが、まぁいいかどうせその気持ちは今だけだろうと侮り、見過ごすことにした。
ベッドの支度を整えると、陽炎はよし、と頷いて、エキストラベッドがぎしぎしと鳴らないか確認し、降りて、蓮見にこのベッド、と彼のベッドがどれかを教える。
「一人で寝るのは怖いよ、かげろちゃん。ママと寝ちゃ駄目?」
「ママはねーまだショックが続きそうだからなぁ、一人で寝させなきゃならないんだ。いざとなったら射手座呼べ、射手座。窓の外からでも見守ってくれる筈だし、この部屋の主だから」
「怖いけどやりそうだね。何で一緒に寝ようとしてくれないんだろう」
蓮見がけらけら笑うと、その面影に白雪を見いだし、陽炎は少し怯える。
仕置きが怖い。あの白雪が帰ってくる前に、早く元に戻る薬が出来ればいいと願いながら。
蓮見が窓を覗き、小首を傾げた。
「窓の外、誰か居るよ、かげろちゃん」
「え?」
「……――誰かを見つめてる」
「……蓮見、窓から離れろ、ちょっと俺、行ってくる」
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