【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

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第五部ー君の眠りは僕には辛すぎてー

第三十三話 亜弓と呉の門出

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 ――盗み聞きは趣味が悪い。そうよく聞くけれど、してみてからそれを実感するのは初めてな気分がした、白雪だった。
 聞いてみてから、盗み聞きしてはいけない内容だったのだ、と悔やまれる。
 悪魔座の聞いてはいけない独り言まで、聞いてしまったのだから。
 それでも己は、秘密事を作るのが得意な部類なので、己のうちに溜め続ければ大丈夫だろう、と思い至り、嘆息をつく。
 足下には蓮見。蓮見は己の足に抱きつき、にこーっと笑っている。家内である牡羊座は今はオムツの買い出しに行っている。

「……親子、か」

 過去に思うのは、何なのか。
 白雪が過去に感じる、生まれたときに受けていた筈の思いは何だったのか。
 彼らを見ると、酷く痛感する。
 蓮見が生まれて判ったことがある、子供はとても可愛い。それも自分の子供となると余計に。だからこそ、上手く育てられるか不安になったり、もどかしい思いを味わったりすることはあるが――昔、己の両親も果たして本当にそうだったのだろうか?
 愛情は感じられない、責務は感じられる、王族の古から続く血を感じられる。
 血族だけを王位に就かせるため、必死に強い血を求める国の力も――。

(――そんな親相手に、蓮見を渡せませんって、交渉しに行けって? ……馬鹿げている)

 白雪は嘆息をつく、また。
 ――彼らはきっと悪くない。偶々王族の生まれで、偶々己が人から怖がられる目をしていただけ。
 そう、きっと全てはあの安っぽい人形のような目の所為だったのだ――そう言い聞かせるしかなくて。母や、父への接し方を思い出すと。
 壊れ物のように、決して触れまいとされていた幼少時代を思い出すと――。
 ワルイモノは居ない――居ないからこそ、悪は自分になった。自分の目に。
 
 窓辺から見ると、白いブランコに揺られる、悪魔座と幽霊座。
 ――彼らを見ていると、親を信じようという気を少し与えられる。疑心が薄れる。
 健気に親を思う彼らを見ると、親もそれに答えなくては、と思ってしまう。
 だからこそ、決心してしまうのだろう。この茨の道を。
 
「蓮見、パパはね、君が大好きだよ――」
「パパー! しゅきー」
「だからね、君とママを、此処に少し置いて、旅立ってしまうのを許してくれるかい?」
「……?」
「……お爺ちゃんに、君を渡さないよう、交渉してくる」
 
 なけなしの、愛がもしもあるというのならば、それに縋ってみる。ソレも悪くない。
 どうせ、己は既に愛情など求めていない――それならば、利用するだけ利用してやる。

(世の中の親子が愛し合ってるとは限らない。もしかしたら、オレの家はそうなのかもね――? そう言ったら、陽炎君、君はどう答えるだろう。聖霊の仔、君はきっと必死な顔でそんなの居ないって否定するんだろうね。それとも肯定した上で、認めようとしない、かな――?)
 
 白雪は蓮見を抱き上げて、これからのことを相談しようと、柘榴の元へ向かう。
 

 
「陽炎さん、本当にごめんねっ!! 呉がっ呉がっ呉がっ! 嗚呼、もう僕恥ずかしい!」
「勝手に恥ずかしがるな。痛ェ」

 亜弓は呉の頭を力ずくで陽炎に頭を下げさせて、己も一生懸命謝る。
 これで何度謝ったか分からない。それでも何回謝っても足りないのか、亜弓は謝り続ける。
 呉どころか、陽炎までうんざりとしてきたところで、亜弓は漸く謝るのをやめて、本題に入ってくれた。
 
「僕ね、いつか呉となら、大丈夫になれる気がするんだ。ゴーストには悪いことしたけれど、あのお陰で孔雀は居なくなったし――何より、僕の聖霊の呪いが解けた」
「良かったな」

 陽炎が微笑むと、亜弓はにへっと笑い、えへえへと笑い続ける。
 そんな亜弓が愛しいのか、呉は亜弓の頭をなで続けて、苦笑を浮かべている。
 
「何だよ、呉ッ。にやにやしちゃって、やらしい!」
「うるせぇな、口説け、ほら。俺は言ってやる、愛してる」
「馬鹿ッ! こんな道ばたでッ……呉、耳ッ!」
 
 そういって、亜弓は呉にこそっと耳打ちをする。すると呉は随分と情けなく照れている様子だった。少年のような爽やかな笑みを浮かべているのだ、あの呉が!
 これがあの人間鑑定士かと思うと、少し戦慄く――鳥肌が立つ。
 本命にはこういう感じなのか、と陽炎は何処か納得し、二人を見守る。
 陽炎の視線に気づいた亜弓が顔を真っ赤にして、また「ごめんなさい」と謝る。
 
「……僕、気をつける。これから、まだ何が起こるか、分からないけれど、多分、呉なら酸素になってくれると思うから」
「……だといいな。まぁ亜弓にふられても、こっちに八つ当たりしにくるなよ、呉?」
「……――どうだろうなァ」

 亜弓の人格は信用できるが、呉に関してはまだまだ疑わしい部分がある。
 それでも呉は、何処か人と距離を置いてる気がしたので、何か深い事が起こったときでない限り、関わることはもうないのだろうな、と思った。
 何より、亜弓への愛情を、どう疑えようか――。あの時、亜弓への愛情深さを見せられたからこそ、皆は呉を許すことが出来たのだと思う。
 まぁそれは、白雪以外だが、白雪は白雪で酷いことをしたので、それは仕方がないと思う陽炎だった。
 陽炎は、んんっと咳払いをし、それから鋭い、百の痛み虫というかつての二つ名を思い出させる睨み方で、呉を指さす。
 
「いいか。お前が少しでも亜弓を泣かせたり、怪我させたら許さないからな?」
「――分ぁった分ぁった」
「へへっ、僕は嬉しいな。柘榴兄みたいに、親身になってくれる人が居てくれて。あ、そろそろ待合い馬車の出る時間だ! 呉、行くよ!」

 亜弓がばかでかく酷く重そうな沢山の荷物を背負い、呉に声をかけると、呉は少し考え込んで、亜弓に返事をする。言った方がいいのかどうか迷ったが、迷惑をかけた詫びに少しでもなればいいと思い。

「ああ、行く――ちょっと先に行ってろ、亜弓」
「ん? うん、分かった。それじゃあ陽炎さん、柘榴兄に宜しくね! 白雪には何か悪態ついておいて!」
「怖いから無理だよ」
「あははっ! それじゃあね――またね!」
 
 亜弓は来るときに持ってきた荷物の三倍ある荷物を軽々と抱えて――土産とか入っているそうだ――、待合い馬車が載っている地図を見ながら、歩き出し、人混みに消えていく。
 
 それを見つめてから、呉は真剣な顔で陽炎に言葉をかける。
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