218 / 358
第五部ー君の眠りは僕には辛すぎてー
第三十二話 父さんであって父さんでない
しおりを挟む「ね、ぼくたちって、誰が親なのかなぁ?」
「もう堕ろされたんだから、関係ないね」
「……堕ろされた? 嘘。だって、ぼくぅたちは、まだ、赤子だよ?」
「だからね、一緒に生まれたかったよ、ぼくだって。でもね、堕ろされたんだよ――」
「嘘だ、嫌だ、生きたい。生きたいよ、兄ちゃん……」
「ぼかぁ言われても、何でも出来る神様じゃないね。もう諦めるしかないんだね」
赤子の魂二つは、ふらふらと天国へ案内しようとする死に神に見つけられて、片方は怯えて、片方は肝を据える。
だがその時、魂二つは掴まれて、死に神が消える。
「お前達、何処へ行くんですか?」
「だ、だぁれ?」
「アトューダ。神官です。お前達は、これから蒼の所に行きなさい」
「ソウ?」
「ええ、その方を、一生の主人だと思って過ごしなさい――居た。蒼! 蒼、此処です、私です!」
己達幽霊を捕まえたその神官は、誰かを見つけると、手を振って、その人間に己達を見せる。
黒い髪のオッドアイの人間が、己達を見ることが出来るのか、じっと黙って己達を見ている。
それに何だか二人はどきどきとした。だがそんなの気にしないように、神官は人間に頼み事をする。
「蒼、確か死んだ人間を妖仔に出来ましたよね? 出来ないとは言わせませんよ、世界最強の妖術師? それともそんなこと出来ないと、言ってしまいますか? 負けず嫌いのお前が?」
「るせぇな。……出来るっちゃ出来るけど、どーしてだ? 誰か死んだか、好きな女でも?」
「違います。つい先ほど、私の子を宿した女性が勝手に子供を堕ろしてしまいまして――酷いことを。私は、欲しかったのに、子供……。だから、いつか貴方の手でこの子達を蘇らせて欲しいんです」
「……アトューダの子供とはまた。……よし、引き受ける。一つ条件があるけどな」
「何ですか?」
「――ベルベットシティの水仔はこれから全員僕の所に、これからは連れてこい。テメェが死ぬまで、な」
「――はい。私の仔だけでは、不平等ですものね。では宜しくお願いしますよ、蒼。限りない命の貴方にしか、頼めませんから――」
「名前はどうする?」
「……もし、このことを覚えていたら、でいいんですが……そうですね……」
生まれたばかりの頃の記憶。これからも一生誰にも言うことのない記憶。
幽霊座はきっと覚えていないだろう。己の父が、鴉座のモデルだなんて。それでも彼は、それを知ってるような親しみで、彼を模した妖仔に懐いた。蒼刻一の夢の中で、あの神官に懐いた。
「幽霊座はね、純粋すぎたんだね――ほら、純粋な奴って思い詰めやすいんだね」
幽霊座を抱えて、悪魔座は笑う。
この記憶を己だけが保持するのも何だから、鴉座に話す。何故だか、彼と似ている、それだけで話したい衝動にかられるからだ。ずっとずっと昔から――だから、木に括られた長いすのようなブランコに揺さぶられ、悪魔座は幽霊座を抱えて、ブランコを鴉座に揺らして貰いながら、話す。
彼と、あの人を重ねてはいけないのに――。
陽炎は今、亜弓と呉を見送っている――あの二人はこれから未来を努力していく、といった。
そこにはきっと己のような、能力はいらない。
「幽霊座――カレン――は、さ。いつだって純粋すぎて、こっちが参った。いつもカラス兄さんを心配して、プラネタリウムの中から見ていたね。陽炎とカラス兄さんが結ばれた時は、十二宮全員で喜んだね。闇の十二宮は作られなくても、プラネタリウムの中で生きているね。――ぼかぁね、それでもあいつに、アトューダ様を重ねるなって言ったね」
「……――どうして? ここまで似ているのなら、重ねてしまう、でしょう?」
「だって、カラス兄さんとアトューダ様は違う人間だもの。前に、絵本で言ってたでしょ、アトューダ様の絵が。似ていると同じは、違うってね――」
悪魔座は眠る幽霊座の髪の毛を、さらりと撫でて、幾分も幼いその顔に優しくキスをする。
そして悲しいような、困ったような笑みを浮かべて、ぺしり、と幽霊座を叩く。
幽霊座はすやすやと穏やかに眠る――白く大きなブランコが揺れるのが気持ちよさそうに。
「カレンなんかより、ぼかぁ、自分のが要らない能力だと思うね。だって、怖いじゃないかね。人を発狂させる能力だなんて――流石、悪魔座。闇統括の能力だぁね」
「――カレン、なんて、女の子だと勘違いしたんですかねぇ。貴方の名前は?」
「……――クガレ。でも、悪魔座で慣れてるから、悪魔座でいいね。それにその名を呼んで良いのは、父ちゃん一人って決まっているね」
「左様で――アトューダとは、話したことはあるんですか?」
「夢の中だけなら。他は、あったかもしれないけれど、記憶のキャパシティが越えていて、覚えていないんだね。あの人が父親、それだけ覚えていれば、十分。違うかね?」
鴉座は、きししっと小悪魔めいた笑いを浮かべる悪魔座に、柔らかに、陽炎に向ける笑みとは違う種類の、それでも特別な笑み方で微笑んで一回幽霊座の頭を撫でてから、翼を出す。
「白雪は母国に説得しようか考え途中、で、柘榴様は字環の捜索中、蒼刻一様は城で療養、幕引きにしてはまぁまぁですね。悪魔座、貴方も来ますか?」
「冗談だね。登場人物は多いと、人は混乱するんだね」
悪魔座の遠慮は聞く前から分かっていた気がした。
だから、鴉座は苦笑を浮かべると鴉の姿になり、羽ばたき、空へ。
目指すは――。
「……でも、それが理想だね。理想通りにはいかないね。間違えて、――父ちゃんって呼びそうになったりするんだね、カラス兄さん……」
陽炎達の居る場所――。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
【完結】元魔王、今世では想い人を愛で倒したい!
N2O
BL
元魔王×元勇者一行の魔法使い
拗らせてる人と、猫かぶってる人のはなし。
Special thanks
illustration by ろ(x(旧Twitter) @OwfSHqfs9P56560)
※独自設定です。
※視点が変わる場合には、タイトルに◎を付けます。
超絶美麗な美丈夫のグリンプス ─見るだけで推定一億円の男娼でしたが、五倍の金を払ったら溺愛されて逃げられません─
藜-LAI-
BL
ヤスナの国に住む造り酒屋の三男坊で放蕩者のシグレは、友人からある日、なんでもその姿を見るだけで一億円に相当する『一千万ゼラ』が必要だという、昔話に準えて『一目千両』と呼ばれる高級娼婦の噂を聞く。
そんな中、シグレの元に想定外の莫大な遺産が入り込んだことで、『一目千両』を拝んでやろうと高級娼館〈マグノリア〉に乗り込んだシグレだったが、一瞬だけ相見えた『一目千両』ことビャクは、いけ好かない高慢ちきな美貌のオトコだった!?
あまりの態度の悪さに、なんとかして見る以外のことをさせようと、シグレは破格の『五千万ゼラ』を用意して再び〈マグノリア〉に乗り込んだのだが…
〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜
シグレ(26) 造り酒屋〈龍海酒造〉の三男坊
喧嘩と玄人遊びが大好きな放蕩者
ビャク(30〜32?) 高級娼館〈マグノリア〉の『一目千両』
ヤスナでは見かけない金髪と翠眼を持つ美丈夫
〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜
Rシーンは※をつけときます。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。

どこにでもある話と思ったら、まさか?
きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる