【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

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第五部ー君の眠りは僕には辛すぎてー

第三十二話 父さんであって父さんでない

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「ね、ぼくたちって、誰が親なのかなぁ?」
「もう堕ろされたんだから、関係ないね」
「……堕ろされた? 嘘。だって、ぼくぅたちは、まだ、赤子だよ?」
「だからね、一緒に生まれたかったよ、ぼくだって。でもね、堕ろされたんだよ――」
「嘘だ、嫌だ、生きたい。生きたいよ、兄ちゃん……」
「ぼかぁ言われても、何でも出来る神様じゃないね。もう諦めるしかないんだね」
 
 赤子の魂二つは、ふらふらと天国へ案内しようとする死に神に見つけられて、片方は怯えて、片方は肝を据える。
 だがその時、魂二つは掴まれて、死に神が消える。
 
「お前達、何処へ行くんですか?」
「だ、だぁれ?」
「アトューダ。神官です。お前達は、これから蒼の所に行きなさい」
「ソウ?」
「ええ、その方を、一生の主人だと思って過ごしなさい――居た。蒼! 蒼、此処です、私です!」

 己達幽霊を捕まえたその神官は、誰かを見つけると、手を振って、その人間に己達を見せる。
 黒い髪のオッドアイの人間が、己達を見ることが出来るのか、じっと黙って己達を見ている。
 それに何だか二人はどきどきとした。だがそんなの気にしないように、神官は人間に頼み事をする。

「蒼、確か死んだ人間を妖仔に出来ましたよね? 出来ないとは言わせませんよ、世界最強の妖術師? それともそんなこと出来ないと、言ってしまいますか? 負けず嫌いのお前が?」
「るせぇな。……出来るっちゃ出来るけど、どーしてだ? 誰か死んだか、好きな女でも?」
「違います。つい先ほど、私の子を宿した女性が勝手に子供を堕ろしてしまいまして――酷いことを。私は、欲しかったのに、子供……。だから、いつか貴方の手でこの子達を蘇らせて欲しいんです」
「……アトューダの子供とはまた。……よし、引き受ける。一つ条件があるけどな」
「何ですか?」
「――ベルベットシティの水仔はこれから全員僕の所に、これからは連れてこい。テメェが死ぬまで、な」
「――はい。私の仔だけでは、不平等ですものね。では宜しくお願いしますよ、蒼。限りない命の貴方にしか、頼めませんから――」
「名前はどうする?」
「……もし、このことを覚えていたら、でいいんですが……そうですね……」
 
 
 
 
 生まれたばかりの頃の記憶。これからも一生誰にも言うことのない記憶。
 幽霊座はきっと覚えていないだろう。己の父が、鴉座のモデルだなんて。それでも彼は、それを知ってるような親しみで、彼を模した妖仔に懐いた。蒼刻一の夢の中で、あの神官に懐いた。

「幽霊座はね、純粋すぎたんだね――ほら、純粋な奴って思い詰めやすいんだね」

 幽霊座を抱えて、悪魔座は笑う。
 この記憶を己だけが保持するのも何だから、鴉座に話す。何故だか、彼と似ている、それだけで話したい衝動にかられるからだ。ずっとずっと昔から――だから、木に括られた長いすのようなブランコに揺さぶられ、悪魔座は幽霊座を抱えて、ブランコを鴉座に揺らして貰いながら、話す。
 彼と、あの人を重ねてはいけないのに――。
 
 陽炎は今、亜弓と呉を見送っている――あの二人はこれから未来を努力していく、といった。
 そこにはきっと己のような、能力はいらない。
 
「幽霊座――カレン――は、さ。いつだって純粋すぎて、こっちが参った。いつもカラス兄さんを心配して、プラネタリウムの中から見ていたね。陽炎とカラス兄さんが結ばれた時は、十二宮全員で喜んだね。闇の十二宮は作られなくても、プラネタリウムの中で生きているね。――ぼかぁね、それでもあいつに、アトューダ様を重ねるなって言ったね」
「……――どうして? ここまで似ているのなら、重ねてしまう、でしょう?」
「だって、カラス兄さんとアトューダ様は違う人間だもの。前に、絵本で言ってたでしょ、アトューダ様の絵が。似ていると同じは、違うってね――」
 
 悪魔座は眠る幽霊座の髪の毛を、さらりと撫でて、幾分も幼いその顔に優しくキスをする。
 そして悲しいような、困ったような笑みを浮かべて、ぺしり、と幽霊座を叩く。
 幽霊座はすやすやと穏やかに眠る――白く大きなブランコが揺れるのが気持ちよさそうに。
 
「カレンなんかより、ぼかぁ、自分のが要らない能力だと思うね。だって、怖いじゃないかね。人を発狂させる能力だなんて――流石、悪魔座。闇統括の能力だぁね」
「――カレン、なんて、女の子だと勘違いしたんですかねぇ。貴方の名前は?」
「……――クガレ。でも、悪魔座で慣れてるから、悪魔座でいいね。それにその名を呼んで良いのは、父ちゃん一人って決まっているね」
「左様で――アトューダとは、話したことはあるんですか?」
「夢の中だけなら。他は、あったかもしれないけれど、記憶のキャパシティが越えていて、覚えていないんだね。あの人が父親、それだけ覚えていれば、十分。違うかね?」
 
 鴉座は、きししっと小悪魔めいた笑いを浮かべる悪魔座に、柔らかに、陽炎に向ける笑みとは違う種類の、それでも特別な笑み方で微笑んで一回幽霊座の頭を撫でてから、翼を出す。
 
「白雪は母国に説得しようか考え途中、で、柘榴様は字環の捜索中、蒼刻一様は城で療養、幕引きにしてはまぁまぁですね。悪魔座、貴方も来ますか?」
「冗談だね。登場人物は多いと、人は混乱するんだね」
 
 悪魔座の遠慮は聞く前から分かっていた気がした。
 だから、鴉座は苦笑を浮かべると鴉の姿になり、羽ばたき、空へ。
 
 目指すは――。
 
「……でも、それが理想だね。理想通りにはいかないね。間違えて、――父ちゃんって呼びそうになったりするんだね、カラス兄さん……」
 
 
 陽炎達の居る場所――。
 
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