【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

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第五部ー君の眠りは僕には辛すぎてー

第三十四話 永遠の子供たち(第五部終)

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「蓮見は、強大な力を秘めている。下手したら、昔の蒼になるかもしれない。蒼の側に長い間居た俺には分かる。……いいか、間違えた教育を絶対にするなよ? それと、聖霊の呪いはまだ解くな――これから、もし、蒼が死んだら、誰がガンジラニーニ達を守る?」
「……迫害が強くなる、ってこと、か。蓮見はどうして? やっぱり、白雪の子供だから?」
「それも強いが――あの子供は、親両方から、妖術に必要な力を吸収している。恐らく今の状態でも、少しは妖術が使える。下手したら、蒼より強くなる――白雪に数式を生み出さないよう言っておけ。数式は、自分と子供の力もレベルアップする。いつか、手に負えなくなるぞ」

 呉の顔は真剣で、それだけに真実みがあり、陽炎は言葉を無くす。
 頷いたり、返事をしなくても、その表情で満足したのか、呉は荷物を背負い、じゃあな、と待合い馬車の方へ歩いていく。
 それを引き留めて、腕を引く。
 蓮見のことが気になって、陽炎は必死に言葉を紡ぐ。鼓動が早まるのを感じながら。
 
「待って! それじゃあ、もし、もしも、だ。白雪が――蒼刻一を殺せるような強い呪いを生み出すことが出来たら?」
「世界最強の主が、変わる瞬間が近い」
 
 そう言うと呉は陽炎の手を振り払い、去っていく――。
 陽炎はそれを呆然と見送り、力なく手をふる。
 
(じゃあ、蒼刻一を、少しは倒せるほど力を持ってる白雪の――子供、蓮見は……)
 
 
 ばさばさっ。
 鴉が己の頭上を迂回している。
 そういえば、あの日以来、鷲座が己にしつこく構うようにはならなくなった。
 本人に聞いたところ「蟹座同様、三度も負けたくないんです。でも君を誰よりも大事にしているのは変わりないから」と答えられた。
 その時に、頬にキスされたのは内緒だ。
 
「知ったら、怒りそうだよなぁ……」

 上で鳴いている、何か悟られたような気がして、陽炎は逃げるように、人混みへ駆けていった。
 
 鴉座は影で人に戻り、陽炎を追いかける。
 
「ちょっと、何か後ろめたいことあるんですね!? 何で逃げるんですか!?」
「それはねっ、お前がどっか真っ黒なオーラ出してるからだよっ!」
「それはそれは――失礼。でも、貴方を十分甘やかしてる気がするんですけれどねぇ?」
「……――人前で何か言ったら、コロス」
「それ、亜弓の真似ですか? そんな言葉、私には通じませんよ――」
 
 鴉座は陽炎を捕まえようとして、陽炎が暴れるので、陽炎ごと転んだ。
 陽炎は痛がり、鴉座の頭を叩き、文句をがみがみと言い、鴉座はしゅん、と拗ねる。
 
 それを遠くから、合流出来た呉と亜弓が遠くから見つめている――。
 
「ねぇ、ああなれるといいね、僕ら」
「……まぁでも、まずはお前の郷に戻って、海幸に殴られにゃいかんな」
「ははっ、海幸と仲悪かったもんねぇ、呉! え、それってもしかして、原因――僕?」
「……はぁ、今更。ああなるには、相当時間がかかりそうだな」

 ため息をつく呉に亜弓は、にーっと笑いかける。すると呉は無言で――無言だと物凄く怖い顔なのだが――頭を撫でて、今度は違う色のため息をつく。何処か表情の和らいだ。
 亜弓は微苦笑し、荷物を持ち直す。

「でも辛抱して待ってくれるんだろ? ね、呉――ゴーストは、どんな夢を見ているかな……。僕、アノコを犠牲にしちゃった。なんだかんだで、犠牲を出しちゃった……」

 亜弓は荷物を背負い直すどころか、呉の荷物に対して「持とうか?」と聞いてくる。
 此処で荷物を持たれてはこの先が不安な呉は遠慮して、幽霊座を思い出す。
 あんなにも純粋で――世間知らずな妖仔。
 それを慕う、兄の悪魔座。呉は、彼らに関しての話を知っていた――。
 だから、分かるのだ。
 
「いつか、目覚める。だから、犠牲じゃねぇよ。お前は安心して――ほら、言えよ。今まで聞けなかった分、山ほど言って貰おうじゃねーの! っはは!」
「嬉しそうだね、ちきしょー! この馬鹿! 呉なんか、酪農家で餌にされちゃえ!」
「馬鹿はお前だ。っはは、ばーか、ばーか! 何も思いだしもしねぇで、ちきしょう! 単細胞!」
「何をだよ!?」
「わかんねぇならいいさ! ほら、口説け?」

 呉は亜弓にちょちょい、と手招きし、にぃと凶悪的な笑みを浮かべる。
 その笑みに普段の大人っぽい表情から一変し、少年っぽさを感じた亜弓は、どきりとして、顔を真っ赤に睨み付ける。

「……さっき言っただろ!? す、っすすす、好きって! あー恥ずかしッ、恥ずかしッ! 呉の馬鹿ッ、馬鹿ッ。大嫌いだッ」
「……どっちにもとれるな。何回聞いても、良い物だが、好き、のが良いな。やっぱり」
「馬鹿ッ! 大嫌いは大嫌いの意味だッ! もう僕は言葉を制限されないんだから! あー、もう! にやけるなああああ!!! そんな表情作ったって、僕には判るんだぞ!」
 
 呉は幸せを噛みしめ笑い、幽霊座をふと思う。
 
 ――父親に似た姿が、側にいることが、どんなに幸せなことか。
 彼の夢はきっと、ベルベットシティの夢。
 その夢で、父親に、鴉座に会えたこと、悪魔座と遊んだこと、亜弓と己のことを、報告しているだろう。
 そして、蒼刻一のことも――。
 
 永久に生まれぬ子の、永遠の幸福。
 父を慕う、兄を慕う、永久の赤子の幸せな夢は――プラネタリウム。
 
 プラネタリウムに執着するところは、何処かこの騒動に関連する人々に似ているな、と呉は苦笑して、荷物を背負い直した。
 
 
 “幸せに”
 
 その時、一つの風が吹き、子供のような柔らかい声が一緒に届いたが、呉は知らぬ振りをした。
 己が振り向かなくても、その子供は此処にはいないから。
 それでもきっと笑っているだろう。
 
 
 とても、幸せそうに――。
 生まれぬ予定だった弟を、抱えて、大事そうに撫でながら――。
 元従僕だったからか、己に風に乗せて伝言を伝えた。それは、あの眠る弟の代わりに、己に伝えにきたのかもしれない――。
 
 水子達の、幸せへの祈り。叶えさせないわけにはいかない。
 
 亜弓を、呉はそっと撫でて、朗らかな表情を浮かべる。
 
 「いつか、遊びに来るがいいさ。――あの馬鹿が目覚めた時にな。一生起きないなんて、元主人としちゃ許さねぇぜ?」
 
 呉は一人、呟いて笑った。
 
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