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第五部ー君の眠りは僕には辛すぎてー
第二十八話 君はやっぱり不敵だ
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だが。
「愛人の間違いじゃないのか?」
「蟹座!」
「――……っく、月め。忌々しい術をかけたな……目は、まだ見えんが、お前のことは分かる。安心しろ、陽炎」
「蟹座、蟹座……よかった!」
蟹座は確かに己を取り戻すことが、出来たようだ。手を人間のものに戻して、陽炎の手をぎゅっと力強く掴む。
陽炎が微笑むと、それがまるで見えているように、蟹座は柔らかに微笑んだ。
以前だったら怯えるその笑みも、今は少し安心できる笑みで、先ほどのように鋏を向けられなくて良かったと、安堵する。
蟹座は頭をふり、視界が試しに晴れないか試してみるが、それも効果がない。
とりあえず、かちゃ、と音がしてそれが鉄格子だと気づくと、陽炎に後ろに下がれと命じて、己は容易に鉄格子を曲げて、陽炎をそこから救い出す。
「待って、亜弓が倒れたままだ」
「……――早くしろ。まだ五月蠅い声が聞こえる。いつ、また先ほどみたいになるか分からんぞ」
「……そんときゃ、俺が殴るよ。メイスで。なぁ、どうしてお前が此処に?」
「――鴉と来た。鴉は見てないのか?」
「――うん、来てない。そうか、鴉座が……」
陽炎はほっと安堵したが、先ほどの蟹座のような術をかけられていたらどうしよう、と少し不安がよぎった。
だが蟹座が手をぎゅっと握ってくれたので、それで安堵できた。
言葉では言ってないが、心配するなと言ってくれているのだろう。あいつなら、大丈夫だと。
陽炎はその行動がキザ臭くて、少し恥ずかしくなり頬を染めて、有難う、と呟く。
陽炎は鉄格子から出て、亜弓を背負い、蟹座に己の服を掴ませて、歩く。
――此処は、何処なのだろう。
どこもかしこも、湿っぽくて。そして何処か薄暗い。そのくせ壁の色は白くて――何処か古ぼけて、ひび割れている。
足で蹴って触ってみると柔らかくて、変な感じだ。
だから陽炎は、気味悪く思い、そこから逃げるように出て行く――出て行くと、丁度エントランスまで出て、陽炎はそのまま出て行こうかと思った。
だが外に行くには何か結界が張られているようで、陽炎は舌打ちし、鴉座を探すことにした。
螺旋階段を上り、二階へ行くと、そこには幽霊座と遊んでいる鴉座がいた。
「その積み木を使うと、崩れますよ」
「あぅ……じゃ、じゃあ、ええ、と、どれをぉお、使えば、いいのぉ……?」
「そこには、これを。ほら、どうぞ」
「う、うん――えへ、へ。尊者と遊べて、嬉し、い」
「私も嬉しいですよ」
にこり、と鴉座が微笑みかけている。
その笑みを独占したいだなんて思う日がくるなんて、とうとう己も嫉妬する日がきたか、と陽炎は苦笑して、鴉座に声をかける。
思ったより低い声だったらしく、蟹座が隣でぶっと噴き出して、にやにやとしている。妬いてるのがばれたらしいが、陽炎は顔をしかめて、もう一度鴉座に声をかける。
案の定、鴉座にも術がかけられていて――一瞬冷たい目をしていた。
だが、陽炎の何かを訴えるような瞳を見るだけで、我を取り戻した鴉座は、蟹座同様、目が見えなくなった。
「陽炎――陽炎!」
「あ、戻ったか、鴉座。流石だな、お前。蟹座なんて、俺を殺そうとしていたのに」
「――蟹座も居るんですか? ああ、良かった。蟹座も戻ったのですね――。字環に、実は出くわしまして――」
「……――そっちに居るの、誰?」
陽炎の声が一瞬鋭くなった――鴉座は、目が見えなくなる前の視界を思い出して、嗚呼、と呟いて、彼を紹介する。何故彼と居たのかなんて、思い出せないけれど。
多分字環の気紛れか何かで、足を向けさせられたのだろう。己を慕う図体のでかい幼子の元に。
「幽霊座です」
「何で一緒に居たの」
「――やきもちですか? そうですか、貴方がやきもちを……それはそれは」
「にやにやするなっ!」
陽炎に怒られても怖くなく、寧ろそれは恥ずかしさを打ち消そうとするような怒り方なので、鴉座は喜ぶ心を抑えきれず、にやけてしまう。
きっと己の顔は今、だらしない顔つきなのだろう、と思ってから、嘆息をついて、きりっと表情を真面目なものに戻す。
「――さて、冗談は兎も角。字環――居ますか? これで、証明出来たでしょう? 操っても、どうにもならないときがあるんですよ」
“実に不愉快だ――”
「愛人の間違いじゃないのか?」
「蟹座!」
「――……っく、月め。忌々しい術をかけたな……目は、まだ見えんが、お前のことは分かる。安心しろ、陽炎」
「蟹座、蟹座……よかった!」
蟹座は確かに己を取り戻すことが、出来たようだ。手を人間のものに戻して、陽炎の手をぎゅっと力強く掴む。
陽炎が微笑むと、それがまるで見えているように、蟹座は柔らかに微笑んだ。
以前だったら怯えるその笑みも、今は少し安心できる笑みで、先ほどのように鋏を向けられなくて良かったと、安堵する。
蟹座は頭をふり、視界が試しに晴れないか試してみるが、それも効果がない。
とりあえず、かちゃ、と音がしてそれが鉄格子だと気づくと、陽炎に後ろに下がれと命じて、己は容易に鉄格子を曲げて、陽炎をそこから救い出す。
「待って、亜弓が倒れたままだ」
「……――早くしろ。まだ五月蠅い声が聞こえる。いつ、また先ほどみたいになるか分からんぞ」
「……そんときゃ、俺が殴るよ。メイスで。なぁ、どうしてお前が此処に?」
「――鴉と来た。鴉は見てないのか?」
「――うん、来てない。そうか、鴉座が……」
陽炎はほっと安堵したが、先ほどの蟹座のような術をかけられていたらどうしよう、と少し不安がよぎった。
だが蟹座が手をぎゅっと握ってくれたので、それで安堵できた。
言葉では言ってないが、心配するなと言ってくれているのだろう。あいつなら、大丈夫だと。
陽炎はその行動がキザ臭くて、少し恥ずかしくなり頬を染めて、有難う、と呟く。
陽炎は鉄格子から出て、亜弓を背負い、蟹座に己の服を掴ませて、歩く。
――此処は、何処なのだろう。
どこもかしこも、湿っぽくて。そして何処か薄暗い。そのくせ壁の色は白くて――何処か古ぼけて、ひび割れている。
足で蹴って触ってみると柔らかくて、変な感じだ。
だから陽炎は、気味悪く思い、そこから逃げるように出て行く――出て行くと、丁度エントランスまで出て、陽炎はそのまま出て行こうかと思った。
だが外に行くには何か結界が張られているようで、陽炎は舌打ちし、鴉座を探すことにした。
螺旋階段を上り、二階へ行くと、そこには幽霊座と遊んでいる鴉座がいた。
「その積み木を使うと、崩れますよ」
「あぅ……じゃ、じゃあ、ええ、と、どれをぉお、使えば、いいのぉ……?」
「そこには、これを。ほら、どうぞ」
「う、うん――えへ、へ。尊者と遊べて、嬉し、い」
「私も嬉しいですよ」
にこり、と鴉座が微笑みかけている。
その笑みを独占したいだなんて思う日がくるなんて、とうとう己も嫉妬する日がきたか、と陽炎は苦笑して、鴉座に声をかける。
思ったより低い声だったらしく、蟹座が隣でぶっと噴き出して、にやにやとしている。妬いてるのがばれたらしいが、陽炎は顔をしかめて、もう一度鴉座に声をかける。
案の定、鴉座にも術がかけられていて――一瞬冷たい目をしていた。
だが、陽炎の何かを訴えるような瞳を見るだけで、我を取り戻した鴉座は、蟹座同様、目が見えなくなった。
「陽炎――陽炎!」
「あ、戻ったか、鴉座。流石だな、お前。蟹座なんて、俺を殺そうとしていたのに」
「――蟹座も居るんですか? ああ、良かった。蟹座も戻ったのですね――。字環に、実は出くわしまして――」
「……――そっちに居るの、誰?」
陽炎の声が一瞬鋭くなった――鴉座は、目が見えなくなる前の視界を思い出して、嗚呼、と呟いて、彼を紹介する。何故彼と居たのかなんて、思い出せないけれど。
多分字環の気紛れか何かで、足を向けさせられたのだろう。己を慕う図体のでかい幼子の元に。
「幽霊座です」
「何で一緒に居たの」
「――やきもちですか? そうですか、貴方がやきもちを……それはそれは」
「にやにやするなっ!」
陽炎に怒られても怖くなく、寧ろそれは恥ずかしさを打ち消そうとするような怒り方なので、鴉座は喜ぶ心を抑えきれず、にやけてしまう。
きっと己の顔は今、だらしない顔つきなのだろう、と思ってから、嘆息をついて、きりっと表情を真面目なものに戻す。
「――さて、冗談は兎も角。字環――居ますか? これで、証明出来たでしょう? 操っても、どうにもならないときがあるんですよ」
“実に不愉快だ――”
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