184 / 358
第四部 亜弓と呉~氷の孔雀編~
第十六話 亜弓を解放しろ
しおりを挟む「仮ご主人様……本気、な、の?」
ゴーストは遠慮がちに呉へ問いかける。
ゴーストの姿は今はただの人間には見えない、半透明の姿を持っていた。
半透明姿で、呉を、蒼刻一の居る雲の城への階段を連れ添って歩いていた。
呉はにやりと不敵に笑い、こくりと頷く。
「そん、なことしなくて、も……カラスさまが目覚めるのを待てば、いい、と思ううう」
「そんなの待てないな。すぐにでもあいつに、愛してると告げたい――そして、嫌いだと言われたい」
「き、きら、い? おかし、いんじゃない? 普通、好き、とか……」
「聖霊の話を忘れたか、ゴースト。ガンジラニーニは愛してると言うと、人を殺してしまうんだ。お前のように、その力は無敵に近い。だから、彼らは愛してると言わない代わりに、嫌いだと言うんだ」
「……ぼくぅのような、力? ……じゃあ、あゆ、みさま、も呪い……の力?」
「ああ。だから、交渉しに行くんだ。あいつだけ例外にしてくれと」
「……――そう、なんだ」
ゴーストは、親近感を持った。
彼には人を呪いで殺すという力があった。その力に彼は怯えている。
(同じ人殺しの力なのに、どうしてあんなに元気だったのだろう――)
ゴーストは不思議ながらも仲間を見つけたような暖かい気持ちに癒され、気づけば微笑んでいた。
微笑むと同時にデビルの声が聞こえて、デビルは何処か不機嫌そうだった。
「ゴースト、聖霊に懐いちゃったかね?」
「……アクマ。うん、ぼくぅ、あゆ、みさま、嫌いじゃない……お兄ちゃんみた、い」
「ゴースト! 見た目的には君のが年上だね」
デビルはより一層不機嫌な顔をして、ゴーストを珍しく睨み付けた。
ゴーストは呉の影に隠れようとするが、同じくらいの背丈の為、隠れられないで、火の玉になることも出来ないので泣きそうな顔をする。
珍しくそれを慰めることもしないで、デビルは呉に諭すように話し掛ける。
「……仮ご主人、向こうに行ったら保証は出来ないね。ぼかぁ蒼刻一様の妖仔だし、ゴーストもだね。何より、僕らには恩があるね。彼と、カラス兄さんのモデルに」
「保証なんて要らねぇ、自分一人でやる」
「……まぁ、でも少しは手助けするよ。……――情がつもると困る。これだから、いやだったんだ、プラネタリウムの主人以外に懐くなんてね」
デビル――悪魔座はため息をついて、ゴースト……幽霊座の手を繋いで、城へと早く行こうとする。
呉は苦笑を浮かべながら、城へと向かい、そこで城主と対峙する。
城主は何世紀過ぎたか分からない年を見せないで、若々しいまま、白い衣装で現れる。
白き妖術師、蒼刻一だ。
「よう、坊主。久しぶりだな」
「――用件は、分かってるんだろ? お前は、何処の国でも都合の悪い言葉は聞き逃さない。特に、聖霊に関しては」
「……ウイ、亜弓は聖霊同士にしか渡さない」
「……――それだけじゃない、あいつのガンジラニーニの呪いも解け」
「何故、そこまで亜弓に拘る? ただの風花のトップじゃねーか」
「――思いを寄せるには十分な理由じゃねぇか。男は強い者に、惹かれるのは道理だろ? 蒼」
蒼刻一はこれ以上何を言っても意志を曲げる気などなく、例え育て親代わりの己と対立してでも、亜弓を解放しろと、呉は言うのだと悟ると、目を半目にして睨み付けてくる。
そして口元だけで笑みを浮かべて、手元をちょちょいと動かし、幽霊座と悪魔座を手招く。
二人は何かを言われる前に一度、呉にぎゅっと抱きついてそれから蒼刻一のもとに戻った。
二人が素直に戻ると二人の頭を、蒼刻一は撫でてやる。幽霊座は物凄く嬉しげに笑っていたが、すぐに呉のことを思い出すと複雑そうに笑った。
「決闘か。否、テメェに相応しい舞台を用意してやるよ――それに耐えられたら、テメェの条件全て飲んでやる」
「言ったな? 早速、舞台を用意してくれ。俺は気が短いんだ――最近、気づいた」
「最近も何も、元からだろう? じゃあ、城の中に入れ」
蒼刻一が城の中に消えるように入ると、それに続いて三人も入っていく。
命を賭けた戦い。
全ては愛の名の下に。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
闇に咲く花~王を愛した少年~
めぐみ
BL
―暗闇に咲き誇る花となり、その美しき毒で若き王を
虜にするのだ-
国を揺るがす恐ろしき陰謀の幕が今、あがろうとしている。
都漢陽の色町には大見世、小見世、様々な遊廓がひしめいている。
その中で中規模どころの見世翠月楼は客筋もよく美女揃いで知られて
いるが、実は彼女たちは、どこまでも女にしか見えない男である。
しかし、翠月楼が男娼を置いているというのはあくまでも噂にすぎず、男色趣味のある貴族や豪商が衆道を隠すためには良い隠れ蓑であり恰好の遊び場所となっている。
翠月楼の女将秘蔵っ子翠玉もまた美少女にしか見えない美少年だ。
ある夜、翠月楼の二階の奥まった室で、翠玉は初めて客を迎えた。
翠月を水揚げするために訪れたとばかり思いきや、彼は翠玉に恐ろしい企みを持ちかける-。
はるかな朝鮮王朝時代の韓国を舞台にくりひげられる少年の純愛物語。
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる