【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

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第四部 四章――斯くして彼は大変傷付いた

第二十四話 誰にも閉じた真実を隠蔽した (第四部終)

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 夜――白雪は研究を進めて、他の闇の十二宮について解読を続けて、そろそろ休憩でもしようか、とふと席を立ち、廊下に出たとき、視線を感じた。
 その視線はきっと,ずっと前からあったのだろうけれど、室外に出てその微弱な気配を察知出来た。
 それ程までに存在感を微弱に出来るとは、――来そうな予感はしていたけれどいつだか分からない感覚が、己の感覚を狂わせたか、それとも全て彼の計算通りなのか。
 白雪は、ふっと口元を緩ませた。――但し、良い笑みとはほど遠い。
 
「――そろそろ来る頃じゃないかと思っていたよ」
「そうか、ばれていたか」

 暗闇から、白い魔が現れる。白い魔、蒼刻一は相変わらず白が似合う不思議な人間だった。それも黒の中にあれば白というのは大概目立つ筈なのに、この白は闇とはほど遠い色の癖に、闇に溶ける白、という不思議な白だった。
 にやにやと笑みを浮かべて、蒼刻一は白雪に近づく。
 白雪は近づかれると、サングラスを掛け直し、穏やかに言葉を発する。
 静かに流れる川のように、緩やかな声で、表情を無表情に戻しながら。

「――蒼刻一、月を、否、字環を蘇らせるのが目的だったのかな、今回絵本を送りつけた」
「聡いな。聡いから、テメェは嫌いだ――うざってぇ」

 くつくつと蒼刻一は嘲り笑う。
 その笑い声に気を悪くしたわけでもないが、ただ警戒しなければならないのがこの男に対しての常の態度だと心得ている白雪は髪の毛を紫に染めて、いつでも妖術を唱えられるようにしておく。

「月は確か、君を唯一殺せる存在だからか?」
「――妖仔になったばかりのテメェには分かンねぇだろうよォ。時代の移り変わりを何百回と眺めていくこの辛さが……」
「知りたくもないけれど、まぁ知るんだろうね、これから。――……一つ、教えてくれないかな。どうして、字環だったんだ? 字環、君も知りたいだろう? 君が生き埋めされた理由を――」

 そう白雪が声をかけると、すぅっと現れる字環。サリーは神秘的な輝きで、闇に映えていた。水晶を手元に、字環の額の印が薄くだが、赤く光っている――。
 字環はぎらぎらと燃えるような瞳で、蒼刻一だけを睨み付けていた。

「どうして、僕を“生き埋め”したんだ、蒼」
「――どうして、だろうな。暇つぶしじゃねぇのは、覚えてるンだけどよォ」
 
 蒼刻一はこの時ばかりは真剣に、神妙な面持ちで応えたのに、それは字環の満足のいく答えではなかったようで、字環は苛立ちを見せる。

「僕は君だからこそプラネタリウムを見せたのに、どうして妖術道具なんかにした上に、僕を生き埋めにしたりしたんだ!?」
「……――多分、もう、失いたくなかったんだ……聖霊のように、死んで欲しくなかったんだ。だって、アザワ。テメェは、自警団に……ッ」

 蒼刻一が珍しくせっぱ詰まった顔つきで字環に訴えかける。だが字環は目を鋭くし、蒼刻一を睨み付ける。

「それで永遠の命を貰っても嬉しくもない。永遠の嫌さを君は分かっていただろうが」
「……――それでも、テメェは特別だったんだよ。字環先生。こうするしかなかったんだ――こうするしか」

 蒼刻一が悔やむように呟くが、字環は聞き入れないで睨み付けている。
 二人のやりとりを眺めていた白雪は、ふぅとため息をついて、頬をぽりぽりとかく。
 
 三すくみ状態だった。
 
 白雪は蒼刻一に警戒を、蒼刻一は字環に警戒を、字環は白雪に警戒していた。
 だから、動けるものが誰一人居なかった――。
 
 だが、そこで動けたのは蒼刻一で、蒼刻一は珍しく逃げるようにこの場から消えた。
 それを眺めやって、手をひらひらとふって白雪は見送ると、字環に振り返り、「今度は消えないでね」と苦笑交じりに注意した。
 
 
「君自身はどうなの? 陽炎くんや鷲の妖仔を苦しめてまで出てみた世界は――」
「虐めるな。ほんの少し、悪かったと思う。――そうだな、今はとりあえず……陽炎さんを手に入れたいね」
「本当に――我が義弟は、妖仔に好かれやすいこと。あんまり泣かせるようなことをしたら、分かってるね、その時は――?」
「……貴方にだけは逆らえない仕組みだから。白雪様」
「……――うん。宜しい。とりあえず、調べてくれないかな。闇の十二宮で今、誰が出来ているのか……蒼刻一はそれで何を企んでいるのか」
「……調べはしてみる、だがそれで分かるかは不明だ。あいつのすることは昔から意味のあることから、ないことまでだったから……」

 そう呟くと字環は消えていく――白雪はそれを眺めて、髪の色を元の色に戻した。
 そしてポケットから教科書から得た情報を見やり、それをくしゃくしゃと丸めて床に捨て、部屋に歩き出す。
 
 
 そこに書かれていた情報は――。
 
『君に捧げる――星を誰よりも愛してる君へ、君を誰よりも愛してる僕より。字環先生がこの妖術道具を喜ぶと良い。きっと愛した星々が話せるようになれば喜ぶだろう。月と太陽についてはまだ予測不可能だから、どうなるか分からないが、どうか喜んでくれますように』
 
 
「あいつにもそんな純情な時期があったんだね――何処で、すれ違ったんだろうね? ねぇ、蒼刻一……永久に消えないブルー」
 
 ついでに、もう一つ情報を書いた紙を丸めて捨てる。
 その情報は、陽炎を助けてから必死に何時間も格闘し続けた結果の、素晴らしい出来映えである暗号の解読文なのに。
 白雪にとっては、暗号文を解読するのは楽しいだけだが、この解読文は白雪にだけ真実を与えてしまった。その真実を、楽しめるかどうかと聞かれれば答えはノー。
 
『字環先生が襲われた。単身乗り込んだ過激派に襲われて、もめてたら殺してしまったらしい。正当防衛なのに、字環先生は気に病んで自警団に自首しようとした。先生を守るために、空きがあった月にした。どうすることも出来なかった。時間とは敵対できるのに、どうして時間を味方に出来ないのだろう』
 
 永遠に消えない色。
 永久だけども、種類のある青色。
 
「人の内緒事は、勝手に暴露してはいけません――ってね」
 
 それは空の青色。
 色の種類は変わるけれど、青いということだけは変わらない。
 ただ、夕方の色を除けば――。
 
 青い空色は、何を思って字環を月にしたのか、白雪には何となく分かりそうな気がしたが、考えたくもなかった。
 考えれば、昔の己に戻りそうな気がしたから――意味のない妖術オタクに。
 
 今は。
 今は義弟の幸せと、己の妻子の幸せだけを考えたかった。
 
「時の流れに、身を任せようか――ねぇ、陽炎君」
 
 きっと今頃の時間は、もう闘争心を露わにしだした鷲座が鴉座と陽炎の邪魔をしているのだろうな、と思うと、少し笑えた。
 空の色は、今日も限りなく夢に近いブルー。
 
 ちなみに夜空は……。
 
「鷲座……あの、何でさっきからくっついて離れないんだ…?」
「もう小生は自分の気持ちに嘘はつきません。君が好きだ陽炎どの。君が嫌いだ、鴉座」
「……わーしーざぁああああ!!」
「陽炎どの、甘い言葉が欲しいなら小生だって努力致します。ええと、可愛い、人? でしたっけ? それとも愛しの我が君?」
「真似するなぁああ! 陽炎、こんなやつひっぺがして追い払ってください!」
「いや、俺に言われてもッ。鷲座、頼むからちょっと離れてくれよ? な?」
「――お断り致します。もう、遠慮はしないって決めたんですから。ね?」
 
 今日も奮闘中。
 
 絵本は星に、思いも寄らぬ恋を再燃させた。
 絵本を使えば、全てが雪のようになる筈なのに、またしても妖術の仕組みを変える陽炎。
 陽炎は、きっと気づかない。
 
 絵本の内容が、己と鷲座の物語になっていることに。
 絵本には、可愛らしい絵で、書かれる、鷲座と陽炎の冒険記。
 その絵本は密かに、鷲座の部屋に。
 
「君を、愛してる。陽炎どの――小生の永遠の夜色」
 
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