【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

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第一部――第五章 太陽にお願い、月を助けて!

第二十七話 依存水への警戒心

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「そこの鴉くんと、蟹座は何か飲む?」
「ご一緒して宜しくて? 私は我が愛しの君や、あなた方のジョッキの片付けをしようと現れたのですけれどね」
「どーぞ、どーぞ。だってあんたは、親交は邪魔しないんだろ?」
 そう言って改めて、何かするのを柘榴は制する。
 その言葉を聞いて鴉座はにこりと微笑むが、一瞬寂しそうな笑みを浮かべる。


「……親交は邪魔しないのですが、愛しの君にもついに心奪われる相手が現れましたか。悲しいことです」
「は?」
 その言葉に顔を顰めたのは、柘榴と陽炎。
 思いっきり嫌そうな顔をして、鴉座へ魅入っている。鴉座はにこりと笑みを浮かべて、だって、と言葉を続ける。


「だって、今まで人とはあまり接触しようとはしなかったじゃないですか。それに昨日とてデートもされてたみたいですし。嗚呼、そうですか、愛しの君に恋人が……」
「ば、馬鹿! 断じて違う! 俺はホモなんかじゃない!!」
 陽炎は酒でただでさえ赤い顔を赤らめて、怒り、疑いの眼差しを向ける鴉座のためにも、柘榴から少し距離を置き、劉桜に近い席へ大犬座を抱えて移る。
 柘榴はため息をついて、そういう出方に出たか、と頭を掻いた。


(そんなこと言われたら、意識してなくても意識しだして避けるようになっちゃうもんねぇー? 変な誤解を避けるために。結構な策略家じゃん、鴉の兄さん。あんた、何であいつの時は現れなかったのさ?)


 柘榴は、失礼だなぁーと嫌悪感をそのままに鴉座へと向けるが、鴉座はにこにことしたまま、ご一緒して宜しいのでしょう? と聞き直って、席へと着く。

「蟹座っち、いつまでも立ちっぱなしは目立つわよ」
「酒場に不釣り合いなガキのが目立つと思うがな」
「貴方は驚くほど酒場がお似合いよね。嗚呼それとも、海の磯の方が似合うのかしら」
 火花が散った後、蟹座は陽炎の隣に座り、不機嫌そうにワインを頼む。驚くほどに普段から赤い血に染まる姿を見ているからか、赤ワインが似合う。
 鴉座は一同の飲み代を気にしてか、サワーを頼む。
 つまみを選ぶのは劉桜。陽炎と相談して、どれを頼もうかと楽しそうに騒いでる。
 その光景を見て、柘榴は眼を細めた。

(……――るおーには結構気を許していて、それを星座達も認めてはいるようだ。つまり、やはり新しく関わる外側の人間に対しての警戒心が強いんだろう。るおーは、昔からの親友っていうのがあるから、許しているのだろう。人見知りを懐かせる術、か……)


「柘榴、お前、鳥の天ぷら食べるか?」
「ああーおいらはね、塩辛がいいかな。たこわさでもいいけど」
 陽炎から突然に声をかけられた柘榴はふと思想から現実に戻り、視線を向けて、少し食べ物で思案してから自分の好物を述べてみる。
 焼酎の飲み方といい、つまみのセンスといい柘榴のどこか年齢に似合わない物を陽炎は感じて、苦笑する。


「……お前、渋いよな。蟹座、前もって言っておくけど、店で騒動起こしたら鳳凰座姉さん呼ぶから。呼んだ後大犬座に知識吹き込ませて迫らせるから」
「……――ッち」
 暴力をふるう気満々だったらしく、不満そうな視線を陽炎へ蟹座は送ってから、騒動を起こさない程度の暴力、例えば隣にいる陽炎の頬を引っ張るとか、密かに足を踏みつぶすとかを少ししてみた。
 陽炎は痛がり、大犬座は蟹座に文句を言って止めて、鴉座は劉桜との親睦を深めていく。
 柘榴は一同を眺めて、成る程こういう位置かと納得した。

(水瓶座が現れなかったのは、何故だろう――。嗚呼、あとで酒さましで水を飲ませるつもりだからか)

 柘榴はこの雰囲気を殺伐とした物に変えるのは忍びないが、改めて忠告をしておく。
 あの水の怖さは、――目の当たりにしたから。

「かげ君、かげ君。あとで、水瓶座の水は飲んじゃ駄目だからね」
「前にもお前そう言ったよな。何でだ? あいつ、落ち込んでたぞ」
 その言葉に首を傾げて陽炎は心底不思議そうにした。
 陽炎が首を傾げると、柘榴はにこーっと微笑んだまま、水瓶座の水瓶の水について語る。


「あれはね、主人をプラネタリウムから離さない為の麻薬みたいなもんなの」
 流石に詳しい成分は知らないが、大体あっている筈だと確信に近いものを持ちながら柘榴は陽炎の反応を待つ。
 陽炎は柘榴に思いっきり顔を顰めてから、頭の中で言葉を反芻する。

「……は?」
「前の俺の友達が、それで水瓶座から離れられなくなったんだわさ」
「……ふぅん」
 声色が自然と低くなった陽炎は、鴉座に視線で、知っていたの? と冷たい問いかけをする。
 鴉座はその視線を受け入れて、ため息をつく。
 そのため息は、以前だったら真っ向から否定にかかっていたはずだろうという虚しさと、ばれてしまったかと苛つきを隠して、主人への申し訳ないという態度を表す為。

「すみません。申し上げるべきでした。ですが、どうしようもない怪我を負って瀕死になってもそんな情報を得ていたら、貴方はきっと拒むだろうし、水も得られない状況に陥ったときも拒むでしょうから……」
「……そっか。でも出来ればそういう情報知ってから、飲みたかったね。水瓶座も知っているの、水の成分について」
 鴉座が何かを言う前に大犬座が陽炎に抱えられている姿勢のまま、陽炎を見上げた。

「知ってて飲ませていたのよ、あいつ!」
「――へぇ」
 陽炎の冷たい声に鴉座は顔を俯かせて、蟹座はただワインを口で転がすだけだった。それはでも口の中の苦さをワインの味で誤魔化しているだけにすぎない。
 その様子が何とも面白くて、柘榴は笑みを隠すのに必死だった。

(有難う、わんこ。これで水瓶座への警戒心は一気に強まった。もう水を飲もうとしないでしょーね?)

 そして、その笑みを隠している柘榴に気づいたのか大犬座は柘榴へにこりと微笑んだ。
 成る程、彼女は味方という認識であってるようだ、と柘榴は感心して大犬座に笑いかけた。
 蟹座はその二人を見てか、少しの沈黙後――くくっと喉奥で笑い、グラスのワインを全て煽ってから二人をハエでも見るような目で見やる。
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