6 / 358
第一部――第一章 ただ星空がいつでも見たいだけ
第五話 ひどく美しく暴力的な男
しおりを挟む
鳳凰座を見せてから、また今度会おうと劉桜と約束した陽炎。
劉桜はあれ以外にも、鴉座の見えないルートの情報を持っていそうで、二人の情報をあわせたら完璧な気がしたし、何より親友に会える理由が出来たので、陽炎は上機嫌だった。
「陽炎様、嬉しそうねぇ」
美しい金の縦ロールに、豊満な胸元が開いた簡素な赤いドレスは彼女のスタイルを現していて。白いマラボーは背中から腕へとかけられていて。眼は垂れ眼の青眼で、口は真っ赤な口紅で彩られている。
肌は真っ黒で、何処か妖しい雰囲気で、思いっきり娼婦っぽい姿の女性は、艶やかに微笑んだが、本人は至って普通に微笑んだだけだ。
この隣で歩いている星座が忠実じゃなかったら、どれだけよかっただろうという普段の思考は今の陽炎には抜けている。
「これ、凄い奇跡的な運命だよな! いやぁー、まさか劉桜に会うなんて思わなかった!」
「劉桜、は、……ええと、何の痛み虫でしたっけ?」
「……あーっと、確か金棒のえぐり取る肉の痛み虫」
「……ご自身じゃ弱い方っていってらしたのに、凄い痛ませ方法を持ってらっしゃるわ」
ふふと、もう一回鳳凰座は笑った。
それと同時に、少し立ち止まり振り返り、あら、と少し戸惑った声を出した。
鳳凰座の声に気づいた陽炎はどうした、と問いかけ振り返る前に、背中から衝撃を喰らい、眼鏡を落とし、壁にがっと頭をぶつけさせられて、手は後ろ手に押さえられていた。
痛みに涙を堪えながらも、正体が誰だか分からないので、鳳凰座をすぐに消えさせて、戦闘態勢に入ろうと思ったため蟹座を呼ぼうとするが、プラネタリウムからの反応はない。
「おい、蟹座! 蟹! カニ男! 鍋にするぞ、この野郎ー!」
「……オレがその蟹座だが、お前ごときがこのオレを鍋に?」
くっと加虐的な笑い声が後ろから聞こえるなり、全身に鳥肌が立ち陽炎は慌てて星座を消そうとしたが、どうも愛傾向の星座は自我が強いらしくて、願っても消えないことがある。
特にこの、鋏男には。
反応が無くて当然だ、既に出ていて主人に危害を与えているのが蟹座なのだから。
彼が自ら現れるときはいつも脳内の警戒音はレベル最大だ。
体中に「苦手」の二文字が現れているのを蟹座は鳥肌を見て、それを悟り、やけに妖しげな軽笑を浮かべたが、それはすぐにかき消えたので、陽炎はただ威圧感だけを蟹座から受け取る。笑ったことなど、声でしか気づけないだろう。先ほどのような、笑い声でしか。
「前に、鳳凰座が出来たとき、オレは言ったよな、陽炎」
「覚えてないね! 言うこと聞かない蟹の言葉なんて。何て言った?」
「次にまた星座を作ったら、精神的な殺しをお前にしてやると。これ以上、お前の保護者は増えなくて良い」
「蟹男ー……、お前は、何でそうやって反抗的なんだよ……。殺したきゃ普通に殺せよ、人に乗り移ってよぉ」
「……馬鹿か、お前。お前を殺したら、オレだって消滅するんだ。またいつ誰があの不気味で不吉な黒玉を拾うか、オレを作るか、判らないだろう? お前、気づかないふりしているが、あれは破壊兵器だ」
蟹座はそこで漸く手を離したかと思えば、陽炎の頭を片手で鷲掴みにして軽い動作で、壁へと叩き付ける。ただ手の位置を直しただけだった。
がんっと物凄い衝撃と音に目眩がし、額が割れるが痛み虫のお陰で出血は思ったより少ないし、割れてもすぐにくっつき痛みも徐々に引いていく。
蟹座へと無理矢理向き直らせられる陽炎。
蟹座は、青と赤い髪をしていた。どっちもごちゃまぜになったような。
いつだったか、変な頭だなとコミュニケーションのつもりで軽くからかったら、半殺しにされかけたっけと鬱になりながら、それをうっすらと陽炎は思い出した。
瞳も青と赤のオッドアイで、それは茹でられる前と茹でられた後の蟹を思い出させる。
それは流石に殴られるのが判っていたので、言わなかったが、こうした暴力は日常から結構受けているので、どうせなら言っておけば良かったと昔思った。
服装は今流行のマントに身を包ませていた。それを見て陽炎は、明日にでも服屋に行くかと思いついた。寒いし、お金もそろそろ大丈夫になってきただろう。
蟹座はやけに壮麗な顔で、今にも己を殺しそうな残酷な笑みを浮かべる。
「一つ教えてやろう、これでもオレとて星座だからな、お前に作られた。偶には下僕らしいことをしてやる」
「……なんだよ、情報なら鴉座から……」
「黙れ。空を飛ぶ者に、地を這う生き物のことなど判るか? ……一応、お前を心配はしているんだよ、陽炎?」
その言葉とは裏腹に、酷く楽しげに陽炎から滴る血を見やり、片方の手でその血を掬い、口に含んだ。
口に含むと、その指を軽く噛んで、再びそこから陽炎の血の味がしないだろうか、と己でも馬鹿だと思う子供じみた仕草をする。己がその名残惜しく思うような出血をさせたかと思うと、蟹座は満足して、こくりと頷いた。
劉桜はあれ以外にも、鴉座の見えないルートの情報を持っていそうで、二人の情報をあわせたら完璧な気がしたし、何より親友に会える理由が出来たので、陽炎は上機嫌だった。
「陽炎様、嬉しそうねぇ」
美しい金の縦ロールに、豊満な胸元が開いた簡素な赤いドレスは彼女のスタイルを現していて。白いマラボーは背中から腕へとかけられていて。眼は垂れ眼の青眼で、口は真っ赤な口紅で彩られている。
肌は真っ黒で、何処か妖しい雰囲気で、思いっきり娼婦っぽい姿の女性は、艶やかに微笑んだが、本人は至って普通に微笑んだだけだ。
この隣で歩いている星座が忠実じゃなかったら、どれだけよかっただろうという普段の思考は今の陽炎には抜けている。
「これ、凄い奇跡的な運命だよな! いやぁー、まさか劉桜に会うなんて思わなかった!」
「劉桜、は、……ええと、何の痛み虫でしたっけ?」
「……あーっと、確か金棒のえぐり取る肉の痛み虫」
「……ご自身じゃ弱い方っていってらしたのに、凄い痛ませ方法を持ってらっしゃるわ」
ふふと、もう一回鳳凰座は笑った。
それと同時に、少し立ち止まり振り返り、あら、と少し戸惑った声を出した。
鳳凰座の声に気づいた陽炎はどうした、と問いかけ振り返る前に、背中から衝撃を喰らい、眼鏡を落とし、壁にがっと頭をぶつけさせられて、手は後ろ手に押さえられていた。
痛みに涙を堪えながらも、正体が誰だか分からないので、鳳凰座をすぐに消えさせて、戦闘態勢に入ろうと思ったため蟹座を呼ぼうとするが、プラネタリウムからの反応はない。
「おい、蟹座! 蟹! カニ男! 鍋にするぞ、この野郎ー!」
「……オレがその蟹座だが、お前ごときがこのオレを鍋に?」
くっと加虐的な笑い声が後ろから聞こえるなり、全身に鳥肌が立ち陽炎は慌てて星座を消そうとしたが、どうも愛傾向の星座は自我が強いらしくて、願っても消えないことがある。
特にこの、鋏男には。
反応が無くて当然だ、既に出ていて主人に危害を与えているのが蟹座なのだから。
彼が自ら現れるときはいつも脳内の警戒音はレベル最大だ。
体中に「苦手」の二文字が現れているのを蟹座は鳥肌を見て、それを悟り、やけに妖しげな軽笑を浮かべたが、それはすぐにかき消えたので、陽炎はただ威圧感だけを蟹座から受け取る。笑ったことなど、声でしか気づけないだろう。先ほどのような、笑い声でしか。
「前に、鳳凰座が出来たとき、オレは言ったよな、陽炎」
「覚えてないね! 言うこと聞かない蟹の言葉なんて。何て言った?」
「次にまた星座を作ったら、精神的な殺しをお前にしてやると。これ以上、お前の保護者は増えなくて良い」
「蟹男ー……、お前は、何でそうやって反抗的なんだよ……。殺したきゃ普通に殺せよ、人に乗り移ってよぉ」
「……馬鹿か、お前。お前を殺したら、オレだって消滅するんだ。またいつ誰があの不気味で不吉な黒玉を拾うか、オレを作るか、判らないだろう? お前、気づかないふりしているが、あれは破壊兵器だ」
蟹座はそこで漸く手を離したかと思えば、陽炎の頭を片手で鷲掴みにして軽い動作で、壁へと叩き付ける。ただ手の位置を直しただけだった。
がんっと物凄い衝撃と音に目眩がし、額が割れるが痛み虫のお陰で出血は思ったより少ないし、割れてもすぐにくっつき痛みも徐々に引いていく。
蟹座へと無理矢理向き直らせられる陽炎。
蟹座は、青と赤い髪をしていた。どっちもごちゃまぜになったような。
いつだったか、変な頭だなとコミュニケーションのつもりで軽くからかったら、半殺しにされかけたっけと鬱になりながら、それをうっすらと陽炎は思い出した。
瞳も青と赤のオッドアイで、それは茹でられる前と茹でられた後の蟹を思い出させる。
それは流石に殴られるのが判っていたので、言わなかったが、こうした暴力は日常から結構受けているので、どうせなら言っておけば良かったと昔思った。
服装は今流行のマントに身を包ませていた。それを見て陽炎は、明日にでも服屋に行くかと思いついた。寒いし、お金もそろそろ大丈夫になってきただろう。
蟹座はやけに壮麗な顔で、今にも己を殺しそうな残酷な笑みを浮かべる。
「一つ教えてやろう、これでもオレとて星座だからな、お前に作られた。偶には下僕らしいことをしてやる」
「……なんだよ、情報なら鴉座から……」
「黙れ。空を飛ぶ者に、地を這う生き物のことなど判るか? ……一応、お前を心配はしているんだよ、陽炎?」
その言葉とは裏腹に、酷く楽しげに陽炎から滴る血を見やり、片方の手でその血を掬い、口に含んだ。
口に含むと、その指を軽く噛んで、再びそこから陽炎の血の味がしないだろうか、と己でも馬鹿だと思う子供じみた仕草をする。己がその名残惜しく思うような出血をさせたかと思うと、蟹座は満足して、こくりと頷いた。
0
あなたにおすすめの小説
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
使用人と家族たちが過大評価しすぎて神認定されていた。
ふわりんしず。
BL
ちょっと勘とタイミングがいい主人公と
主人公を崇拝する使用人(人外)達の物語り
狂いに狂ったダンスを踊ろう。
▲▲▲
なんでも許せる方向けの物語り
人外(悪魔)たちが登場予定。モブ殺害あり、人間を悪魔に変える表現あり。
ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜
キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」
(いえ、ただの生存戦略です!!)
【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】
生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。
ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。
のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。
「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。
「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。
「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」
なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!?
勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。
捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!?
「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」
ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます!
元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる