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第49話 理事長に見覚えがあった理由。

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 捜索は、休みながらで夕方まで続いて終了しました。
 お昼は図書室の長テーブルで食べられるように軽食を出して貰った。ルクスさんが気をきかせて理事長より先に・・・・・・・昼食をどうしたいか聞いてくれたので、理事長からの昼食のお誘いは未然に防げた感じ。本当に有難いです……。
 ルクスさんは、私達に昼食をどうしたいか聞いた後で理事長に『殿下方は調査を優先したいご意向のようです。昼食はサンドイッチを図書室にお出ししようかと……』と言いに行ってくれたのだ。
 多分、文句を言われただろうなぁと思うのだけれど、その事はまったくおくびにも出さない。その後のお茶も、上手い事言ってくれたらしくて、図書室に準備された。
 普通、図書館や図書室は飲食禁止だから、不思議な気分だけれど、理事長の態度とか色々考えて配慮して貰ったのだろうと思われた。
 結局本に関しては、読みこめる時間が取れず、何冊か借りる事に。ちなみに確認が済んだ本の中には有用な情報は無かったです。
 本の返却は、ベルク先生にお願いする事になってしまった。

 『私が相手なら理事長はお茶に誘おうとは思いませんからね』

 何でベルク先生かと言えば、これが理由である。
 多分、邸にいても居留守を使うはずだとベルク先生。それなら、先生も嫌な思いをせずにすむと思うのでお願いした。
 おそらく理事長は夕飯こそは!と意気込んでいただろうと思うのだけれど、急ぎの連絡が学園からベルク先生に入った事にしてもらい・・・・・難を逃れる事に成功……。
 このアイディアはルクスさんからのもの。その流れで、お城からの呼び出しの案が出たのだけれど、探られると面倒そうなのでベルク先生が『学園からの呼び出しにしましょう』と言ったのだ。
 学園長は事情を話せば協力してくれるだろうと言うのが一番の理由。理事長に事情を探られても、上手くかわしてくれるだろうとの事だったので、申し訳ないけれどお願いした。
 ルクスさん達はそれで大丈夫なのかと心配になったけれど、晴れ晴れとした顔で『そうして貰った方が有難いんです』と言われてしまった……。

 『まぁ、僕達に理事長がやらかす事を考えたら、そのほうがマシだよね……』

 そうエドガー様に言われて、ルクスさんが苦笑したのが答えだと思う。
 理事長や夫人、ワルステッドに嫌味を言われる方が精神的にまだましなのだろう……。本当に申し訳無いです……。他家の事に口出しが出来ないのが何とも歯がゆい。
 『正当な後継者』が現れれば――とかいつ現れるかも分からない相手に期待したくなってしまった。
 それから、寮に帰って雪ちゃんと戯れていた時に私はふと、理事長を見た事あったって感じたのを思い出したので、それを考える事に。
 そして私は、理事長を何処で見たのかを思い出した――……。思い出して良かったのか悪かったのか……。
 いや、思い出して良かったんだろうけど、ルクスさんの事を考えると複雑な気持ちです……。何にしても、皆に相談するべきだろう。なので、放課後――研究室にて理事長宅で確認出来た情報の報告をする前に、私はその事を話す事にしたのだ……。

 「昨日の事を話合う前に、少し宜しいですか??」

 「うん?何かあったの?」

 「えぇ、理事長についてなのですけれど……私、どこかで見た事がありましたの――それで、昨日寮の部屋に戻ってから考えてみたのですわ……それで、思い出しましたのよ。あの方――『悪役令嬢』の協力者ですわ……」
 
 ゲームの中の『悪役令嬢』は、ヒロインを貶める過程で、様々な悪人と出会う事になる。裏組織とかだと暗殺者とかね……。
 けれど、彼女は安易に暗殺を選らばなかった……ヒロインを、もっとも苦しめる方法として違法奴隷にしようとするのだ。その奴隷商とつながりがあったのが理事長――彼は悪役令嬢に協力していたものの、ヒロイン誘拐がバレて追われる事になった時、全ての罪を背負わされて悪役令嬢に殺される役である――。
 ちなみに、ゲーム本編では理事長が聖女になるかもしれない娘なら高く売れるだろうと誘拐した事になっていた。悪役令嬢が黒幕だったと分かるのは、確かトゥルーエンド。魔王になる彼女の暗黒面が次々と暴露される時にその件も発覚したはず。
 レイナが、断罪されて当然だよ!悪役令嬢大嫌い!!と騒いでいたのを思い出す。確か、ファンブック?を見ながらだったと思う。その中に理事長の設定資料もあったんだよね。
 ガマガエルをイメージして作られたキャラだっけかな??私は理事長よりガマガエルの方が可愛いと思うよ……。変な目で見て来ないし、余計な事を言わないしね。
 なので、その話を皆にしました。現在大変空気が重いです。

 「――……それは、理事長が現在すでに奴隷商と繋がりがあるかもしれないと言う事か??」

 ベルナドット様が眉間に皺を寄せてそう吐き捨てた。

 「えぇ――……」

 「まずいね……入学当初は付けられていなかったけれど、俺には最近監視がついててね……ルクス殿にはあぁ言った手前、父には目を瞑って貰ったのだけれど、理事長とのやり取りや、ワルステッド殿とのやり取りは筒抜けだなんだ……。抗議は入れないと言っていたけれど、父の事だ――理事長の周辺を調べるだろうな……」

 私の肯定する言葉に、アルが眉根を寄せて苦悩の表情を見せた。
 おそらくだけれど、ルクスさん達の事を心配しての事だと思う。奴隷を違法に売買する事は、鉱山送りの刑が与えられるような罪だ。死ぬまで働け――という刑なので実質死刑と変わらない。
 こう言った犯罪の場合、一族連座の可能性が高くなる。王国法で禁じられている奴隷の売買に関わると言う事はそう言う事だ。主犯以外は罪一等を減じられる事もあるけれど、それでも家名は取り上げられる。
 ルクスさんも心配だけれど、同じように心配なのが使用人の人達。そんな家に使用人として仕えていたとなれば、雇おうとしてくれる人がどれだけいるか……。脛に傷があると足元を見られれば、低賃金で酷使されるような事態も考えられた。

 「それでは……」

 暗い顔をしたベルク先生がそう呟いた。こちらも心配しているのは理事長では無い。ベルク先生もやっぱりルクスさんを心配しているようだった。
 どうやら、直接面識は無かったものの、ベルク先生の2学年下の後輩になるらしく、当時は優秀だと評判だったらしい。家名は隠していたようで、理事長の息子だとは思ってもみなかったみたい。
 彼なら、卒業した後でも――何処かで名前を聞くだろうと思っていたのに、まるで消えてしまったかのように噂ひとつ聞かなかったから、若くして亡くなってしまったのだろうかと訝しんでいたとか。

 「彼が、家名を名乗らなかったのは、家の事を慮ってのことでしょうね……。当時、我々は高等部の生徒でしたが、中等部の方で既にワルステッド殿が愚者として有名でしたから――……妾腹の長男の方が優秀だと言う外聞が出ないようにしたのかと。あの理事長や夫人がそれを許す事は無いでしょうし――殿下……理事長の件――……ルクス殿も罰せられますか……?」

 「いや、思いついた事がある。この件は任せてくれないかな?ルクス殿に悪いようにならないように配慮するから……」

 ベルク先生の言葉に、アルが安心させるような笑顔でそう言った。
 何か思いついた事があるらしい。けれど、アルがそう言ってくれるのなら、任せて大丈夫だと思える。皆がそうだったようで、部屋の中の緊張した空気が抜けるように緩んだ。

 「分かりました。宜しくお願い致します――」

 ベルク先生は、そう言っ深々と頭を下げた。
 先生は、卒業後のルクスさんがどこかの業界で名を上げる人になると思っていた――けれど、実際はどうだろう?一切、名を聞かず亡くなったのかもと思われるような状況――代わりに愚者として評判だったワルステッドは年に一回行われる術具関係の学会で、既存の術式を改良――魔力の流れの無駄な部分を省いて簡略化し伝達速度を上げる等の優秀な・・・研究結果を発表しているらしい。
 そこまで聞けば、嫌でも分かってしまった。
 ワルステッドが優秀になったんじゃ無い。ルクスさんの研究をワルステッドの名前で発表してるんだ……。開いた口が塞がらないとはこの事だろう。エドガー様が憮然とした顔をして溜息を吐いているのが見えた……。
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