15 / 74
15:セガールとおでかけ
しおりを挟む
本格的な冬がやって来た。あと1ヶ月で年越しを迎え、年越しを過ぎたら約1ヶ月の航海に出る。毎日、机仕事と訓練訓練また訓練の日々を過ごしている。
シェリーをできるだけ1人にしたくないので、セガールと話し合って、2人の休みをできるだけずらして取るようにしている。しかし、たまには3人で出かけたいので、週に一度は2人の休みを合わせることにした。
シェリーは家庭教師のマルクや新たに友達になったアンナのお陰で、随分と安定しており、胃もすっかり治って、食べられる量も増えてきた。まだまだ痩せているが、少しだけ顔がふっくらしてきている。顔色は人並みによくなったので、安心している。
セガールも胃が完治して、痩けていた頬がじわじわ戻りつつある。顔色もいいし、元のナイス髭ダンディーな男前に殆ど戻った。実にいいことだ。
今日は3人とも休みの日だ。
雑穀粥三昧だった日々のお陰で上達したカール作の朝食を食べながら、カールはシェリーに話しかけた。
「シェリー。どっか出かけようぜ」
「今日はいかなーい。休み明けはまとめテストだもの。満点狙ってるから。範囲が広いから今日は1日勉強しとくわ」
「ありゃ。残念」
「パパと港に行ってきてよ。蟹がまた食べたいわ」
「いいぞー。いいですか?セガールさん」
「あぁ。他に食べたいものはあるか?シェリー」
「海老があれば海老も。あと林檎が食べたいわ」
「林檎は今が旬だしな。じゃあ、午前中に買い物に行ってくるわ」
「お昼ご飯も食べてきなよ。私は適当にサンドイッチを作って食べるから。火を使わなければいいでしょ」
「1人の食事は味気ないだろう?昼飯は一緒に食べよう」
「んーー。じゃあ、喫茶店にでも行ってきたら?美味しい珈琲でも飲んできなよ。折角のデートなんだし」
「ははっ!磯臭いデートだな」
「磯の香りを堪能したらいいじゃない」
カールはシェリーの冗談に笑った。こんな軽い冗談を口にするようになったのだから、いい変化である。
カールは2人と一緒に朝の家事を手早く済ませると、セガールと一緒に家を出た。
冷たい風が頬を撫でる中、丘を下りて、街を抜け、港へと向かう。港に私用で来るのは随分と久しぶりだ。仕事では頻繁に来ているが。港には市場があり、色んな海産物が売られている。見かけたことはあるのだが、ここで買い物をしたことはない。
カールは新鮮な気分で、セガールと共に市場を物色し始めた。
「あっ!セガールさん。サザエありますよ。サザエ!」
「買うか?」
「どこで焼くんです?」
「庭?あぁ。でも網や薪が無いな」
「ですよね」
「焼いてるのも売ってるから、食べたいなら一つ買ってこい」
「そうします。セガールさんもどうです?」
「んー。じゃあ、一つだけ」
「あ、アワビもある!アワビって焼く以外でどうやって食うんでしょうね」
「蒸す?アワビは高級品だから、殆ど食ったことがないな」
「俺もないです。おー。なんか馬鹿デカい魚がある。海で見かけたことはあるんですけど、名前知らないんですよね」
「そういうの多いよな。見たことはあるけど、名前を知らないって魚」
「俺達、基本的に緊急時以外は釣りとかしませんしね」
「あぁ。あ、蟹があった」
「おぉ!デカい毛蟹!これは食いでがありますね。三杯でいいですか?」
「あぁ。あとは……海老もあった」
「あ、小魚。揚げて野菜と甘酢に漬けたら美味いんですよね。俺、揚げ物なんてできませんけど」
「それも買うか。久しぶりに作るから、甘酢の配合が若干怪しいが」
「やった!お願いします」
「蟹は買った。海老も買った。小魚も買った。牡蠣は今回はどうする?」
「小魚がありますから、今回はいいんじゃないですか?次はシェリーを連れてきましょうよ。多分来たことないですよね?」
「俺は連れて来たことがないな。次に休みが合う日はシェリーも一緒に来よう」
「はい」
「じゃあ、サザエを食って、とりあえず帰るか」
「了解であります!」
保冷用の氷を入れてくれた重い荷物を2人で分けて持って、カールはセガールと焼いたサザエが売られているコーナーへ向かった。
鉄網の上で焼かれているサザエから、香ばしくて食欲をそそる匂いがしている。焼き立てを買い、鉄串を借りて、その場で食べる。殻から取り出した熱々の身を口に入れると、ふわっと磯の香りが鼻に抜けて、じゅわっとサザエの旨味が口の中に溢れる。素直に美味い。焼き立てのサザエを食べるなんて、いつぶりだろうか。セガールも美味そうに食べている。酒が欲しくなる美味さだが、残念ながら近くで酒は売ってなかった。
カールはサザエを堪能すると、セガールと共に港を出た。
セガールが昔よく通っていたという珈琲が美味しい喫茶店を目指して、街の中を歩いていく。途中にあった市場で林檎を買い、ついでに昼食と夕食で使う野菜も買った。荷物がかなり増えた状態で、カールはセガールとお目当ての喫茶店に入った。
喫茶店は落ち着いた雰囲気の内装で、珈琲のいい香りが漂っている。どちらかと言えば、大人の男の店という感じで、ふんわりと煙草の匂いもする。子供連れで入る店ではない感じである。
そういえば、セガールも昔は煙草を吸っていた。航海中もたまに暇な時間ができると、看板で煙草を吸っていて、それが妙に格好良かった記憶がある。
磯臭い荷物がなんだか申し訳なくなるが、気にしないでもらうことにして、カールはセガールと一緒にテーブル席に座り、珈琲を注文した。
「セガールさん。そういえば、煙草はやめたんですか?」
「あぁ。結婚する頃にな。嫁が煙草の匂いが苦手だって言うから」
「へぇー。そうだったんですね」
「今はシェリーがいるし、吸うつもりはないが、未だに煙草の匂いを嗅ぐと吸いたくなる時があるな」
「そんなもんですか。あ、珈琲きた」
「……久しぶりに来たが、相変わらず美味いな」
「あ、ほんとに美味い。香りがよくて、飲みやすいですね」
「独身の頃は、陸にいる時はよく来てたんだよ。煙草片手に珈琲飲みながら、本を読んでいた」
「優雅ですねー。ここはシェリーはちょっと連れてこれないですね」
「あぁ。喫煙者が多い店だからな」
「シェリーといえば、今朝面白い冗談言ってましたね。いやぁ、いい傾向ですね。元気になってきた証拠って感じで」
カールが笑ってそう言うと、セガールが何故か目を泳がせ始めた。
「セガールさん?」
「あー……あれな。あれだろ?デートってやつだろ?」
「はい。野郎2人でデートだなんて、ないですよねー。ははっ」
「……カール。残念なお知らせがある」
「え?」
「シェリーは本気で言っている」
「は?」
「どうも俺とお前に結婚して欲しいらしい」
「へ?」
「カールも家族がいいそうだ」
「んんっ!?」
「ということで、今から少々作戦会議だ」
「なんの!?」
「シェリーにどう諦めてもらうかだよ。俺達の結婚を」
「い、いやいやいやいや。普通に無理ですよ。俺、男は無理です」
「俺も無理だ。仮にイケたとしても年の差があり過ぎる。どうにかしてシェリーを諦めさせる必要がある」
セガールが真剣な顔で、テーブルに肘をついて両手を組んだ。目がマジである。マジの話らしい。
シェリーがカールとも家族になりたいと思ってくれているのは素直に嬉しいが、セガールと結婚なんてあり得ない。セガールはナイス髭ダンディーな男前で格好いいが、中年のおっさんだ。海軍にいると、男所帯だから、確かに男同士で恋人になったり、少ないが結婚したりする者達がいると見聞きする。しかし、自分の事となると、本当にあり得ない。男なんて絶対に無理だし、素直に嫌である。
カールは真剣な顔になって、セガールと話し合い始めた。
「普通にセガールさんが告白して、俺がフッたと報告するのはどうでしょう」
「多分、それくらいじゃあの子は諦めないぞ。あの子の諦めの悪さはお前だって知っているだろう」
「あーー……まぁ、なんとなく」
「単に、『告白しました。フラレました』じゃ、絶対に納得しない。『うん』と言うまで口説けとか言われそうな気がする」
「あーー。確かにぃ……」
「一番無難なのは、お前が結婚相手を見つけることだ」
「それができたら苦労はしません」
「そうなんだよなぁ……本当にどうしたもんか。何か妙案はないか?」
「えぇーー。そう言われても……」
カールは頭を抱えて、うんうん考え始めたが、特に何も思いつかなかった。
セガールも同じな様で、疲れた顔をして溜め息を吐き、少し温くなった珈琲を飲んだ。カールも温くなっても美味しい珈琲を飲みながら、ふと思いついた。
「セガールさん。とりあえず恋人のフリをしてみますか?」
「恋人のフリ?」
「はい。それで、なんかお互い合わないなって思ったから別れたってことにすれば、シェリーも納得してくれるかもです」
「なるほど。シェリーはガッカリするだろうが、少なくとも恋人のフリをしている間はシェリーからのプレッシャーが無くなるな。相性が悪くて別れる恋人なんて掃いて捨てる程いるし」
「です。シェリーも、俺達が実際恋人になってみて、お互い合わなかったってなったら、一応納得してくれるんじゃないかと。いやまぁ、正確には恋人のフリですけど」
「とりあえず、その作戦でいくか」
「はい。ちなみにスキンシップはどこまでしますか」
「どれだけ頑張ってもハグまでが限界だ」
「俺もギリギリ、ギリッギリハグまでなら大丈夫かと」
「じゃあ、とりあえず暫くは恋人のフリをするということでいいか?」
「はい。シェリーを今すぐガッカリさせずに、尚且つ、結婚しないことを納得してもらうには、これしかないかと。ていうか、他にいい案が思い浮かばないです」
「俺もだ。じゃあ、そういうことで」
「はい。なんとか2人でこの難関を乗り切りましょう」
「あぁ。敵は手強いが、なんとか頑張ろう」
カールはセガールとガシッと握手をした。
シェリーには申し訳ないが、セガールと結婚する気はまるでない。
なんとしてでも、『恋人になったけど相性悪くて別れちゃった大作戦』を成功させねば。
カールはセガールと細かい打ち合わせをしてから、多い荷物を持って、丘の上の家へと帰った。
シェリーをできるだけ1人にしたくないので、セガールと話し合って、2人の休みをできるだけずらして取るようにしている。しかし、たまには3人で出かけたいので、週に一度は2人の休みを合わせることにした。
シェリーは家庭教師のマルクや新たに友達になったアンナのお陰で、随分と安定しており、胃もすっかり治って、食べられる量も増えてきた。まだまだ痩せているが、少しだけ顔がふっくらしてきている。顔色は人並みによくなったので、安心している。
セガールも胃が完治して、痩けていた頬がじわじわ戻りつつある。顔色もいいし、元のナイス髭ダンディーな男前に殆ど戻った。実にいいことだ。
今日は3人とも休みの日だ。
雑穀粥三昧だった日々のお陰で上達したカール作の朝食を食べながら、カールはシェリーに話しかけた。
「シェリー。どっか出かけようぜ」
「今日はいかなーい。休み明けはまとめテストだもの。満点狙ってるから。範囲が広いから今日は1日勉強しとくわ」
「ありゃ。残念」
「パパと港に行ってきてよ。蟹がまた食べたいわ」
「いいぞー。いいですか?セガールさん」
「あぁ。他に食べたいものはあるか?シェリー」
「海老があれば海老も。あと林檎が食べたいわ」
「林檎は今が旬だしな。じゃあ、午前中に買い物に行ってくるわ」
「お昼ご飯も食べてきなよ。私は適当にサンドイッチを作って食べるから。火を使わなければいいでしょ」
「1人の食事は味気ないだろう?昼飯は一緒に食べよう」
「んーー。じゃあ、喫茶店にでも行ってきたら?美味しい珈琲でも飲んできなよ。折角のデートなんだし」
「ははっ!磯臭いデートだな」
「磯の香りを堪能したらいいじゃない」
カールはシェリーの冗談に笑った。こんな軽い冗談を口にするようになったのだから、いい変化である。
カールは2人と一緒に朝の家事を手早く済ませると、セガールと一緒に家を出た。
冷たい風が頬を撫でる中、丘を下りて、街を抜け、港へと向かう。港に私用で来るのは随分と久しぶりだ。仕事では頻繁に来ているが。港には市場があり、色んな海産物が売られている。見かけたことはあるのだが、ここで買い物をしたことはない。
カールは新鮮な気分で、セガールと共に市場を物色し始めた。
「あっ!セガールさん。サザエありますよ。サザエ!」
「買うか?」
「どこで焼くんです?」
「庭?あぁ。でも網や薪が無いな」
「ですよね」
「焼いてるのも売ってるから、食べたいなら一つ買ってこい」
「そうします。セガールさんもどうです?」
「んー。じゃあ、一つだけ」
「あ、アワビもある!アワビって焼く以外でどうやって食うんでしょうね」
「蒸す?アワビは高級品だから、殆ど食ったことがないな」
「俺もないです。おー。なんか馬鹿デカい魚がある。海で見かけたことはあるんですけど、名前知らないんですよね」
「そういうの多いよな。見たことはあるけど、名前を知らないって魚」
「俺達、基本的に緊急時以外は釣りとかしませんしね」
「あぁ。あ、蟹があった」
「おぉ!デカい毛蟹!これは食いでがありますね。三杯でいいですか?」
「あぁ。あとは……海老もあった」
「あ、小魚。揚げて野菜と甘酢に漬けたら美味いんですよね。俺、揚げ物なんてできませんけど」
「それも買うか。久しぶりに作るから、甘酢の配合が若干怪しいが」
「やった!お願いします」
「蟹は買った。海老も買った。小魚も買った。牡蠣は今回はどうする?」
「小魚がありますから、今回はいいんじゃないですか?次はシェリーを連れてきましょうよ。多分来たことないですよね?」
「俺は連れて来たことがないな。次に休みが合う日はシェリーも一緒に来よう」
「はい」
「じゃあ、サザエを食って、とりあえず帰るか」
「了解であります!」
保冷用の氷を入れてくれた重い荷物を2人で分けて持って、カールはセガールと焼いたサザエが売られているコーナーへ向かった。
鉄網の上で焼かれているサザエから、香ばしくて食欲をそそる匂いがしている。焼き立てを買い、鉄串を借りて、その場で食べる。殻から取り出した熱々の身を口に入れると、ふわっと磯の香りが鼻に抜けて、じゅわっとサザエの旨味が口の中に溢れる。素直に美味い。焼き立てのサザエを食べるなんて、いつぶりだろうか。セガールも美味そうに食べている。酒が欲しくなる美味さだが、残念ながら近くで酒は売ってなかった。
カールはサザエを堪能すると、セガールと共に港を出た。
セガールが昔よく通っていたという珈琲が美味しい喫茶店を目指して、街の中を歩いていく。途中にあった市場で林檎を買い、ついでに昼食と夕食で使う野菜も買った。荷物がかなり増えた状態で、カールはセガールとお目当ての喫茶店に入った。
喫茶店は落ち着いた雰囲気の内装で、珈琲のいい香りが漂っている。どちらかと言えば、大人の男の店という感じで、ふんわりと煙草の匂いもする。子供連れで入る店ではない感じである。
そういえば、セガールも昔は煙草を吸っていた。航海中もたまに暇な時間ができると、看板で煙草を吸っていて、それが妙に格好良かった記憶がある。
磯臭い荷物がなんだか申し訳なくなるが、気にしないでもらうことにして、カールはセガールと一緒にテーブル席に座り、珈琲を注文した。
「セガールさん。そういえば、煙草はやめたんですか?」
「あぁ。結婚する頃にな。嫁が煙草の匂いが苦手だって言うから」
「へぇー。そうだったんですね」
「今はシェリーがいるし、吸うつもりはないが、未だに煙草の匂いを嗅ぐと吸いたくなる時があるな」
「そんなもんですか。あ、珈琲きた」
「……久しぶりに来たが、相変わらず美味いな」
「あ、ほんとに美味い。香りがよくて、飲みやすいですね」
「独身の頃は、陸にいる時はよく来てたんだよ。煙草片手に珈琲飲みながら、本を読んでいた」
「優雅ですねー。ここはシェリーはちょっと連れてこれないですね」
「あぁ。喫煙者が多い店だからな」
「シェリーといえば、今朝面白い冗談言ってましたね。いやぁ、いい傾向ですね。元気になってきた証拠って感じで」
カールが笑ってそう言うと、セガールが何故か目を泳がせ始めた。
「セガールさん?」
「あー……あれな。あれだろ?デートってやつだろ?」
「はい。野郎2人でデートだなんて、ないですよねー。ははっ」
「……カール。残念なお知らせがある」
「え?」
「シェリーは本気で言っている」
「は?」
「どうも俺とお前に結婚して欲しいらしい」
「へ?」
「カールも家族がいいそうだ」
「んんっ!?」
「ということで、今から少々作戦会議だ」
「なんの!?」
「シェリーにどう諦めてもらうかだよ。俺達の結婚を」
「い、いやいやいやいや。普通に無理ですよ。俺、男は無理です」
「俺も無理だ。仮にイケたとしても年の差があり過ぎる。どうにかしてシェリーを諦めさせる必要がある」
セガールが真剣な顔で、テーブルに肘をついて両手を組んだ。目がマジである。マジの話らしい。
シェリーがカールとも家族になりたいと思ってくれているのは素直に嬉しいが、セガールと結婚なんてあり得ない。セガールはナイス髭ダンディーな男前で格好いいが、中年のおっさんだ。海軍にいると、男所帯だから、確かに男同士で恋人になったり、少ないが結婚したりする者達がいると見聞きする。しかし、自分の事となると、本当にあり得ない。男なんて絶対に無理だし、素直に嫌である。
カールは真剣な顔になって、セガールと話し合い始めた。
「普通にセガールさんが告白して、俺がフッたと報告するのはどうでしょう」
「多分、それくらいじゃあの子は諦めないぞ。あの子の諦めの悪さはお前だって知っているだろう」
「あーー……まぁ、なんとなく」
「単に、『告白しました。フラレました』じゃ、絶対に納得しない。『うん』と言うまで口説けとか言われそうな気がする」
「あーー。確かにぃ……」
「一番無難なのは、お前が結婚相手を見つけることだ」
「それができたら苦労はしません」
「そうなんだよなぁ……本当にどうしたもんか。何か妙案はないか?」
「えぇーー。そう言われても……」
カールは頭を抱えて、うんうん考え始めたが、特に何も思いつかなかった。
セガールも同じな様で、疲れた顔をして溜め息を吐き、少し温くなった珈琲を飲んだ。カールも温くなっても美味しい珈琲を飲みながら、ふと思いついた。
「セガールさん。とりあえず恋人のフリをしてみますか?」
「恋人のフリ?」
「はい。それで、なんかお互い合わないなって思ったから別れたってことにすれば、シェリーも納得してくれるかもです」
「なるほど。シェリーはガッカリするだろうが、少なくとも恋人のフリをしている間はシェリーからのプレッシャーが無くなるな。相性が悪くて別れる恋人なんて掃いて捨てる程いるし」
「です。シェリーも、俺達が実際恋人になってみて、お互い合わなかったってなったら、一応納得してくれるんじゃないかと。いやまぁ、正確には恋人のフリですけど」
「とりあえず、その作戦でいくか」
「はい。ちなみにスキンシップはどこまでしますか」
「どれだけ頑張ってもハグまでが限界だ」
「俺もギリギリ、ギリッギリハグまでなら大丈夫かと」
「じゃあ、とりあえず暫くは恋人のフリをするということでいいか?」
「はい。シェリーを今すぐガッカリさせずに、尚且つ、結婚しないことを納得してもらうには、これしかないかと。ていうか、他にいい案が思い浮かばないです」
「俺もだ。じゃあ、そういうことで」
「はい。なんとか2人でこの難関を乗り切りましょう」
「あぁ。敵は手強いが、なんとか頑張ろう」
カールはセガールとガシッと握手をした。
シェリーには申し訳ないが、セガールと結婚する気はまるでない。
なんとしてでも、『恋人になったけど相性悪くて別れちゃった大作戦』を成功させねば。
カールはセガールと細かい打ち合わせをしてから、多い荷物を持って、丘の上の家へと帰った。
15
お気に入りに追加
238
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ファントムペイン
粒豆
BL
事故で手足を失ってから、恋人・夜鷹は人が変わってしまった。
理不尽に怒鳴り、暴言を吐くようになった。
主人公の燕は、そんな夜鷹と共に暮らし、世話を焼く。
手足を失い、攻撃的になった夜鷹の世話をするのは決して楽ではなかった……
手足を失った恋人との生活。鬱系BL。
※四肢欠損などの特殊な表現を含みます。
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺(紗子)
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる