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15:セガールとおでかけ

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本格的な冬がやって来た。あと1ヶ月で年越しを迎え、年越しを過ぎたら約1ヶ月の航海に出る。毎日、机仕事と訓練訓練また訓練の日々を過ごしている。
シェリーをできるだけ1人にしたくないので、セガールと話し合って、2人の休みをできるだけずらして取るようにしている。しかし、たまには3人で出かけたいので、週に一度は2人の休みを合わせることにした。

シェリーは家庭教師のマルクや新たに友達になったアンナのお陰で、随分と安定しており、胃もすっかり治って、食べられる量も増えてきた。まだまだ痩せているが、少しだけ顔がふっくらしてきている。顔色は人並みによくなったので、安心している。
セガールも胃が完治して、痩けていた頬がじわじわ戻りつつある。顔色もいいし、元のナイス髭ダンディーな男前に殆ど戻った。実にいいことだ。

今日は3人とも休みの日だ。
雑穀粥三昧だった日々のお陰で上達したカール作の朝食を食べながら、カールはシェリーに話しかけた。


「シェリー。どっか出かけようぜ」

「今日はいかなーい。休み明けはまとめテストだもの。満点狙ってるから。範囲が広いから今日は1日勉強しとくわ」

「ありゃ。残念」

「パパと港に行ってきてよ。蟹がまた食べたいわ」

「いいぞー。いいですか?セガールさん」

「あぁ。他に食べたいものはあるか?シェリー」

「海老があれば海老も。あと林檎が食べたいわ」

「林檎は今が旬だしな。じゃあ、午前中に買い物に行ってくるわ」

「お昼ご飯も食べてきなよ。私は適当にサンドイッチを作って食べるから。火を使わなければいいでしょ」

「1人の食事は味気ないだろう?昼飯は一緒に食べよう」

「んーー。じゃあ、喫茶店にでも行ってきたら?美味しい珈琲でも飲んできなよ。折角のデートなんだし」

「ははっ!磯臭いデートだな」

「磯の香りを堪能したらいいじゃない」


カールはシェリーの冗談に笑った。こんな軽い冗談を口にするようになったのだから、いい変化である。
カールは2人と一緒に朝の家事を手早く済ませると、セガールと一緒に家を出た。

冷たい風が頬を撫でる中、丘を下りて、街を抜け、港へと向かう。港に私用で来るのは随分と久しぶりだ。仕事では頻繁に来ているが。港には市場があり、色んな海産物が売られている。見かけたことはあるのだが、ここで買い物をしたことはない。
カールは新鮮な気分で、セガールと共に市場を物色し始めた。


「あっ!セガールさん。サザエありますよ。サザエ!」

「買うか?」

「どこで焼くんです?」

「庭?あぁ。でも網や薪が無いな」

「ですよね」

「焼いてるのも売ってるから、食べたいなら一つ買ってこい」

「そうします。セガールさんもどうです?」

「んー。じゃあ、一つだけ」

「あ、アワビもある!アワビって焼く以外でどうやって食うんでしょうね」

「蒸す?アワビは高級品だから、殆ど食ったことがないな」

「俺もないです。おー。なんか馬鹿デカい魚がある。海で見かけたことはあるんですけど、名前知らないんですよね」

「そういうの多いよな。見たことはあるけど、名前を知らないって魚」

「俺達、基本的に緊急時以外は釣りとかしませんしね」

「あぁ。あ、蟹があった」

「おぉ!デカい毛蟹!これは食いでがありますね。三杯でいいですか?」

「あぁ。あとは……海老もあった」

「あ、小魚。揚げて野菜と甘酢に漬けたら美味いんですよね。俺、揚げ物なんてできませんけど」

「それも買うか。久しぶりに作るから、甘酢の配合が若干怪しいが」

「やった!お願いします」

「蟹は買った。海老も買った。小魚も買った。牡蠣は今回はどうする?」

「小魚がありますから、今回はいいんじゃないですか?次はシェリーを連れてきましょうよ。多分来たことないですよね?」

「俺は連れて来たことがないな。次に休みが合う日はシェリーも一緒に来よう」

「はい」

「じゃあ、サザエを食って、とりあえず帰るか」

「了解であります!」


保冷用の氷を入れてくれた重い荷物を2人で分けて持って、カールはセガールと焼いたサザエが売られているコーナーへ向かった。
鉄網の上で焼かれているサザエから、香ばしくて食欲をそそる匂いがしている。焼き立てを買い、鉄串を借りて、その場で食べる。殻から取り出した熱々の身を口に入れると、ふわっと磯の香りが鼻に抜けて、じゅわっとサザエの旨味が口の中に溢れる。素直に美味い。焼き立てのサザエを食べるなんて、いつぶりだろうか。セガールも美味そうに食べている。酒が欲しくなる美味さだが、残念ながら近くで酒は売ってなかった。
カールはサザエを堪能すると、セガールと共に港を出た。

セガールが昔よく通っていたという珈琲が美味しい喫茶店を目指して、街の中を歩いていく。途中にあった市場で林檎を買い、ついでに昼食と夕食で使う野菜も買った。荷物がかなり増えた状態で、カールはセガールとお目当ての喫茶店に入った。

喫茶店は落ち着いた雰囲気の内装で、珈琲のいい香りが漂っている。どちらかと言えば、大人の男の店という感じで、ふんわりと煙草の匂いもする。子供連れで入る店ではない感じである。
そういえば、セガールも昔は煙草を吸っていた。航海中もたまに暇な時間ができると、看板で煙草を吸っていて、それが妙に格好良かった記憶がある。
磯臭い荷物がなんだか申し訳なくなるが、気にしないでもらうことにして、カールはセガールと一緒にテーブル席に座り、珈琲を注文した。


「セガールさん。そういえば、煙草はやめたんですか?」

「あぁ。結婚する頃にな。嫁が煙草の匂いが苦手だって言うから」

「へぇー。そうだったんですね」

「今はシェリーがいるし、吸うつもりはないが、未だに煙草の匂いを嗅ぐと吸いたくなる時があるな」

「そんなもんですか。あ、珈琲きた」

「……久しぶりに来たが、相変わらず美味いな」

「あ、ほんとに美味い。香りがよくて、飲みやすいですね」

「独身の頃は、陸にいる時はよく来てたんだよ。煙草片手に珈琲飲みながら、本を読んでいた」

「優雅ですねー。ここはシェリーはちょっと連れてこれないですね」

「あぁ。喫煙者が多い店だからな」

「シェリーといえば、今朝面白い冗談言ってましたね。いやぁ、いい傾向ですね。元気になってきた証拠って感じで」


カールが笑ってそう言うと、セガールが何故か目を泳がせ始めた。


「セガールさん?」

「あー……あれな。あれだろ?デートってやつだろ?」

「はい。野郎2人でデートだなんて、ないですよねー。ははっ」

「……カール。残念なお知らせがある」

「え?」

「シェリーは本気で言っている」

「は?」

「どうも俺とお前に結婚して欲しいらしい」

「へ?」

「カールも家族がいいそうだ」

「んんっ!?」

「ということで、今から少々作戦会議だ」

「なんの!?」

「シェリーにどう諦めてもらうかだよ。俺達の結婚を」

「い、いやいやいやいや。普通に無理ですよ。俺、男は無理です」

「俺も無理だ。仮にイケたとしても年の差があり過ぎる。どうにかしてシェリーを諦めさせる必要がある」


セガールが真剣な顔で、テーブルに肘をついて両手を組んだ。目がマジである。マジの話らしい。
シェリーがカールとも家族になりたいと思ってくれているのは素直に嬉しいが、セガールと結婚なんてあり得ない。セガールはナイス髭ダンディーな男前で格好いいが、中年のおっさんだ。海軍にいると、男所帯だから、確かに男同士で恋人になったり、少ないが結婚したりする者達がいると見聞きする。しかし、自分の事となると、本当にあり得ない。男なんて絶対に無理だし、素直に嫌である。
カールは真剣な顔になって、セガールと話し合い始めた。


「普通にセガールさんが告白して、俺がフッたと報告するのはどうでしょう」

「多分、それくらいじゃあの子は諦めないぞ。あの子の諦めの悪さはお前だって知っているだろう」

「あーー……まぁ、なんとなく」

「単に、『告白しました。フラレました』じゃ、絶対に納得しない。『うん』と言うまで口説けとか言われそうな気がする」

「あーー。確かにぃ……」

「一番無難なのは、お前が結婚相手を見つけることだ」

「それができたら苦労はしません」

「そうなんだよなぁ……本当にどうしたもんか。何か妙案はないか?」

「えぇーー。そう言われても……」


カールは頭を抱えて、うんうん考え始めたが、特に何も思いつかなかった。
セガールも同じな様で、疲れた顔をして溜め息を吐き、少し温くなった珈琲を飲んだ。カールも温くなっても美味しい珈琲を飲みながら、ふと思いついた。


「セガールさん。とりあえず恋人のフリをしてみますか?」

「恋人のフリ?」

「はい。それで、なんかお互い合わないなって思ったから別れたってことにすれば、シェリーも納得してくれるかもです」

「なるほど。シェリーはガッカリするだろうが、少なくとも恋人のフリをしている間はシェリーからのプレッシャーが無くなるな。相性が悪くて別れる恋人なんて掃いて捨てる程いるし」

「です。シェリーも、俺達が実際恋人になってみて、お互い合わなかったってなったら、一応納得してくれるんじゃないかと。いやまぁ、正確には恋人のフリですけど」

「とりあえず、その作戦でいくか」

「はい。ちなみにスキンシップはどこまでしますか」

「どれだけ頑張ってもハグまでが限界だ」

「俺もギリギリ、ギリッギリハグまでなら大丈夫かと」

「じゃあ、とりあえず暫くは恋人のフリをするということでいいか?」

「はい。シェリーを今すぐガッカリさせずに、尚且つ、結婚しないことを納得してもらうには、これしかないかと。ていうか、他にいい案が思い浮かばないです」

「俺もだ。じゃあ、そういうことで」

「はい。なんとか2人でこの難関を乗り切りましょう」

「あぁ。敵は手強いが、なんとか頑張ろう」


カールはセガールとガシッと握手をした。
シェリーには申し訳ないが、セガールと結婚する気はまるでない。
なんとしてでも、『恋人になったけど相性悪くて別れちゃった大作戦』を成功させねば。
カールはセガールと細かい打ち合わせをしてから、多い荷物を持って、丘の上の家へと帰った。
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