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16:恋人のフリスタート!
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カールと一緒に家に帰り着くと、バタバタバタバタッとシェリーが走ってきた。
期待なのか、目が爛々と輝いている。
「おかえり!デートどうだった!?」
「ただいま。シェリー」
「ただいまー。色々買ってきたよ」
セガールから『俺達、恋人になりました』と言うべきなのか。セガールが期待で目をキラキラ輝かせているシェリーの視線に耐えかねていると、カールがさらっと自然な感じに話した。
「シェリー。俺達、お付き合いすることになりました」
「うっそ!マジで!やったぁ!!結婚はいつするの!?」
「んっとねー、暫くは恋人期間を楽しんでからかな。ほら、色々と相性とかあるじゃない」
「カールとパパはもう仲いいじゃない」
「大人の恋には色々あるのよー」
「そんなもん?」
「そ。シェリーも大人になったら分かるよ」
「ふーん」
「あ、シェリー。一つお願いがあってさ」
「お願い?」
「俺達が恋人なのは、まだ誰にも言わないでほしいんだ。海軍は男所帯だから、男同士で付き合ったり、結婚したりする奴もいるけど、かなり少数派でさ。世間一般では、もっと少数派な訳。俺達が恋人だって噂が広まると、最悪仕事にも差し支えたりするかもだから、結婚するってなった時まで、秘密にしといてくれない?」
「そういうものなの?」
「うん」
「ふーん。分かったわ。内緒にしとく」
「ありがと。助かるよ。林檎いっぱい買ってきたから、昼飯のデザートにしようか」
「うん。ありがと」
実にスムーズにシェリーに説明してくれたカールに拍手を送りたい。セガールでは、こうも上手く伝えられなかっただろう。
セガールの側に、シェリーがつつっと近寄ってきて、セガールを見上げて、本当に嬉しそうに笑った。
「やったね!パパ」
「あ、あぁ」
あまりにもシェリーが嬉しそうなので、シェリーを騙している罪悪感がぶわっと胸の中に湧き上がってくる。良心がじくじくと痛むが、いくらシェリーの為でもカールと結婚する訳にはいかないので、なんとか誤魔化していくしかない。セガールは若干引き攣った笑みを浮かべて、誤魔化すように、シェリーの頭をやんわりと撫で回した。
セガールはカールにシェリーの相手を任せると、逃げるように台所へと移動した。
カールは器用だから、卒なく恋人のフリができるのだろうが、セガールは自他共に認める不器用人間である。既に恋人のフリを上手くやる自信が無くなった。恋人のフリって、何をどうすればいいのか。
一応、シェリーの前で、軽いスキンシップをやるくらいは決めているが、どのタイミングで、何をどうやればいいのか、サッパリである。セガールだって、結婚前は恋人が何人かいたが、全員女で、しかも昔過ぎて、自分がどんな行動をとっていたのか、いまいち思い出せない。
セガールはお揃いのエプロンを着けた2人が台所に来るまで、ぐるぐると頭を悩ませていた。
------
シェリーはセガールとカールが恋人(フリ)になったのが余程嬉しいのか、寝る直前まで、珍しい程はしゃいでいた。
セガールはじくじくと良心と胃を痛めながら、なんとか頑張って笑顔をキープし続けた。
シェリーが寝る時間になり、部屋に引き上げると、セガールはぐったりとソファーに突っ伏した。
カールが向かい側のソファーに座り、のほほんと軽めの酒を飲んでいる。
「セガールさん。大丈夫ですか?」
「……良心と胃が痛い……」
「ありゃま。まぁまぁ。そう深く考えずに。他の人に秘密にするって約束しましたから、外で手を繋いだりとか、そういうのは別にしなくていいですし。当面は普段通りの生活をしてれば大丈夫だと思いますよ」
「そうか?」
「えぇ。ほら。シェリーに何か言われても、『俺達、付き合い始めたばかりだから』って言えばいいんですよ。付き合い始めて、その日にうちにキスしたりとか、普通しないでしょ」
「……それもそうだな」
言われてみれば、確かにそうである。そういえば、10代の頃は、初めてのデートで手を繋ぐことさえできなかった覚えがある。いきなり恋人っぽいスキンシップをしなくていいとなると、なんだか少し気が楽になった。
「カール。うっかり忘れていたが、とっておきのブランデーを飲むか?俺の胃も完全に治ってるし」
「お!いいですね!いただきます!」
「恋人の時間と称して、たまに酒を飲むようにするか?」
「それぐらいがちょうどいいですねー。シェリーにもそう言えば、完全に嘘にはなりませんし」
「あぁ。ブランデーと肴を取ってくる。ブランデーによく合うチーズを買ってあるんだ」
「ありがとうございます!」
「いや。こっちこそ、ありがとう。お前にはずっと助けられてる」
「大したことはしてませんよ」
「俺達父娘には大したことなんだよ」
セガールは小さく笑って、台所へとっておきのブランデーとチーズを取りに行った。
二つのグラスとブランデーの瓶、スライスしたチーズを盛った皿を一緒にお盆に乗せ、居間へと運ぶ。
カールの向かい側のソファーに座り、お盆をローテーブルに置いて、ブランデーを二つのグラスに注いだ。乾杯してからブランデーを口に含めば、ふわっと芳醇な香りが鼻に抜ける。酒精が心地よく喉を焼き、素直に美味い。
一口飲んだカールが、満面の笑みを浮かべた。
「めちゃくちゃ美味いですね。これ」
「だろう?俺のとっておきの一つだ」
「どれくらい、とっておきがあるんです?」
「あと数本くらいだな。嫁は酒を飲まなかったから、基本的に、家ではたまにしか飲まなかったし」
「へぇー。酒豪で有名だったセガールさんが」
「昔の話だ。今はたまにしか飲まないし、量もそれ程飲まないから、多分かなり弱くなってるだろうよ」
「どうでしょ。……あ、チーズもうんまー」
「ナッツでも合うが、このチーズの方が美味いんだよ」
「チーズ単体でも美味いですし、ブランデーともめちゃくちゃ相性いいですね」
「これ、チョコレートとも合うんだよな。買ってくればよかった」
「ふっふっふ……」
「カール?」
「オレンジピールをチョコレートでコーティングしたやつなら、今、俺の部屋にありますよ」
「でかした!」
「今すぐ持ってきます!!」
カールが上機嫌でソファーから立ち上がり、静かに早足で2階へと向かっていった。
セガールは、カールは不思議な奴だなぁと思った。まるで物語に登場する魔法使いみたいに、なんでも問題をパパッと解決してくれる。カールのお陰で、セガールの心は随分と軽くなった。ほんの少し前までは、シェリーを騙す罪悪感で胃が痛かったのに、今はそれが無い。
本当にカールには感謝してもしきれない。婚活パーティーに暫く参加できなくなったのが本当に申し訳ないが、あとほんの少しだけ、セガール父娘に付き合ってほしい。
そもそも、新しい官舎が出来上がるまでの仮住まいだ。そう遠くないうちに、別れの時が来る。職場で顔を合わせたり、シェリーと会ってくれたりするだろうが、一緒に暮らす訳ではない。
セガールはちょっとだけしんみりした気分になったが、褒めて欲しそうなドヤ顔で戻ってきたカールを見て、気づけば自然と笑っていた。
セガールは2人で一瓶飲み干すまで、のんびりと美味いブランデーとカールとのお喋りを楽しんだ。
期待なのか、目が爛々と輝いている。
「おかえり!デートどうだった!?」
「ただいま。シェリー」
「ただいまー。色々買ってきたよ」
セガールから『俺達、恋人になりました』と言うべきなのか。セガールが期待で目をキラキラ輝かせているシェリーの視線に耐えかねていると、カールがさらっと自然な感じに話した。
「シェリー。俺達、お付き合いすることになりました」
「うっそ!マジで!やったぁ!!結婚はいつするの!?」
「んっとねー、暫くは恋人期間を楽しんでからかな。ほら、色々と相性とかあるじゃない」
「カールとパパはもう仲いいじゃない」
「大人の恋には色々あるのよー」
「そんなもん?」
「そ。シェリーも大人になったら分かるよ」
「ふーん」
「あ、シェリー。一つお願いがあってさ」
「お願い?」
「俺達が恋人なのは、まだ誰にも言わないでほしいんだ。海軍は男所帯だから、男同士で付き合ったり、結婚したりする奴もいるけど、かなり少数派でさ。世間一般では、もっと少数派な訳。俺達が恋人だって噂が広まると、最悪仕事にも差し支えたりするかもだから、結婚するってなった時まで、秘密にしといてくれない?」
「そういうものなの?」
「うん」
「ふーん。分かったわ。内緒にしとく」
「ありがと。助かるよ。林檎いっぱい買ってきたから、昼飯のデザートにしようか」
「うん。ありがと」
実にスムーズにシェリーに説明してくれたカールに拍手を送りたい。セガールでは、こうも上手く伝えられなかっただろう。
セガールの側に、シェリーがつつっと近寄ってきて、セガールを見上げて、本当に嬉しそうに笑った。
「やったね!パパ」
「あ、あぁ」
あまりにもシェリーが嬉しそうなので、シェリーを騙している罪悪感がぶわっと胸の中に湧き上がってくる。良心がじくじくと痛むが、いくらシェリーの為でもカールと結婚する訳にはいかないので、なんとか誤魔化していくしかない。セガールは若干引き攣った笑みを浮かべて、誤魔化すように、シェリーの頭をやんわりと撫で回した。
セガールはカールにシェリーの相手を任せると、逃げるように台所へと移動した。
カールは器用だから、卒なく恋人のフリができるのだろうが、セガールは自他共に認める不器用人間である。既に恋人のフリを上手くやる自信が無くなった。恋人のフリって、何をどうすればいいのか。
一応、シェリーの前で、軽いスキンシップをやるくらいは決めているが、どのタイミングで、何をどうやればいいのか、サッパリである。セガールだって、結婚前は恋人が何人かいたが、全員女で、しかも昔過ぎて、自分がどんな行動をとっていたのか、いまいち思い出せない。
セガールはお揃いのエプロンを着けた2人が台所に来るまで、ぐるぐると頭を悩ませていた。
------
シェリーはセガールとカールが恋人(フリ)になったのが余程嬉しいのか、寝る直前まで、珍しい程はしゃいでいた。
セガールはじくじくと良心と胃を痛めながら、なんとか頑張って笑顔をキープし続けた。
シェリーが寝る時間になり、部屋に引き上げると、セガールはぐったりとソファーに突っ伏した。
カールが向かい側のソファーに座り、のほほんと軽めの酒を飲んでいる。
「セガールさん。大丈夫ですか?」
「……良心と胃が痛い……」
「ありゃま。まぁまぁ。そう深く考えずに。他の人に秘密にするって約束しましたから、外で手を繋いだりとか、そういうのは別にしなくていいですし。当面は普段通りの生活をしてれば大丈夫だと思いますよ」
「そうか?」
「えぇ。ほら。シェリーに何か言われても、『俺達、付き合い始めたばかりだから』って言えばいいんですよ。付き合い始めて、その日にうちにキスしたりとか、普通しないでしょ」
「……それもそうだな」
言われてみれば、確かにそうである。そういえば、10代の頃は、初めてのデートで手を繋ぐことさえできなかった覚えがある。いきなり恋人っぽいスキンシップをしなくていいとなると、なんだか少し気が楽になった。
「カール。うっかり忘れていたが、とっておきのブランデーを飲むか?俺の胃も完全に治ってるし」
「お!いいですね!いただきます!」
「恋人の時間と称して、たまに酒を飲むようにするか?」
「それぐらいがちょうどいいですねー。シェリーにもそう言えば、完全に嘘にはなりませんし」
「あぁ。ブランデーと肴を取ってくる。ブランデーによく合うチーズを買ってあるんだ」
「ありがとうございます!」
「いや。こっちこそ、ありがとう。お前にはずっと助けられてる」
「大したことはしてませんよ」
「俺達父娘には大したことなんだよ」
セガールは小さく笑って、台所へとっておきのブランデーとチーズを取りに行った。
二つのグラスとブランデーの瓶、スライスしたチーズを盛った皿を一緒にお盆に乗せ、居間へと運ぶ。
カールの向かい側のソファーに座り、お盆をローテーブルに置いて、ブランデーを二つのグラスに注いだ。乾杯してからブランデーを口に含めば、ふわっと芳醇な香りが鼻に抜ける。酒精が心地よく喉を焼き、素直に美味い。
一口飲んだカールが、満面の笑みを浮かべた。
「めちゃくちゃ美味いですね。これ」
「だろう?俺のとっておきの一つだ」
「どれくらい、とっておきがあるんです?」
「あと数本くらいだな。嫁は酒を飲まなかったから、基本的に、家ではたまにしか飲まなかったし」
「へぇー。酒豪で有名だったセガールさんが」
「昔の話だ。今はたまにしか飲まないし、量もそれ程飲まないから、多分かなり弱くなってるだろうよ」
「どうでしょ。……あ、チーズもうんまー」
「ナッツでも合うが、このチーズの方が美味いんだよ」
「チーズ単体でも美味いですし、ブランデーともめちゃくちゃ相性いいですね」
「これ、チョコレートとも合うんだよな。買ってくればよかった」
「ふっふっふ……」
「カール?」
「オレンジピールをチョコレートでコーティングしたやつなら、今、俺の部屋にありますよ」
「でかした!」
「今すぐ持ってきます!!」
カールが上機嫌でソファーから立ち上がり、静かに早足で2階へと向かっていった。
セガールは、カールは不思議な奴だなぁと思った。まるで物語に登場する魔法使いみたいに、なんでも問題をパパッと解決してくれる。カールのお陰で、セガールの心は随分と軽くなった。ほんの少し前までは、シェリーを騙す罪悪感で胃が痛かったのに、今はそれが無い。
本当にカールには感謝してもしきれない。婚活パーティーに暫く参加できなくなったのが本当に申し訳ないが、あとほんの少しだけ、セガール父娘に付き合ってほしい。
そもそも、新しい官舎が出来上がるまでの仮住まいだ。そう遠くないうちに、別れの時が来る。職場で顔を合わせたり、シェリーと会ってくれたりするだろうが、一緒に暮らす訳ではない。
セガールはちょっとだけしんみりした気分になったが、褒めて欲しそうなドヤ顔で戻ってきたカールを見て、気づけば自然と笑っていた。
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