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#378話 施餓鬼会㊶
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私は息を呑んだ。
青白い閃光に照らし出されたのは、ほっそりした少女の肢体だった。
「亜季…」
雷鳴に続き、いったん闇に沈んだ亜季の姿を、すぐさま青白い光が再び浮かび上がらせる。
亜季は妙な格好をしていた。
黒い水着を身に着けているのだ。
お椀型に盛り上がったふたつの乳房。
その頂点に突き出た一対の固そうな突起。
くびれた腰と平らな腹に、流線形に刻まれた臍の窪み。
そして、鋭く切れ上がった水着のVゾーンと、その両側の生白く長い脚。
身体の線をくっきり浮き上がらせたそのスクール水着は、なぜか濡れていてひどく煽情的だった。
「この子が、亜季さん…?」
私の背中に隠れた菜緒が、顔だけ出してつぶやいた。
「亜季、おまえ、いつのまに…?」
ごくりと唾を飲み干し、私はようやく口を開いた。
亜季は答えず、菜緒のほうはまったく無視して、じっと私の顔に視線を注いでいる。
翡翠の色をした瞳の奥で燃えている熾火のような輝きは、あの夜、間近で見たのと同じものだ。
亜季が一歩前に踏み出した刹那、ふいに雨音が激しくなり、暴風が雨戸を揺るがした。
「危ない!」
菜緒が叫び、突き飛ばすようにして私の腰に抱きついた。
バタンッ!
雨戸が倒れ、横殴りの冷たい雨が怒涛のごとく吹き込んでくる。
暗い空をひっきりなしに稲妻が引き裂き、コマ送りのフィルムでも見るかのようにあたりが断続的に照らされる。
「み、水が!」
悲鳴を上げる菜緒。
無理もなかった。
見渡す限り、庭は泥の海と化していた。
井戸も鶏小屋も便所もすべて濁流に沈み、異臭を放つ水がごうごうとこちらに押し寄せてくるのだ。
唖然と見守るうちに、水位が廊下を越えた。
「屋根裏部屋に、早く逃げないと!」
金切り声で菜緒が叫ぶ。
黒い蛇のような濁流の触手が何本も部屋に入ってきたかと思うと、後は一気だった。
足が泥水に沈み、部屋中が茶色で覆いつくされた。
その中を、何の動揺も見せず、平然とした足取りで、亜季が歩いてくる。
まるでこうなることがわかっていたかのような水着姿で、生白い脚を交互に動かし、悠然とした足取りで、泥水の中を進んでくるのだ。
「あっ!」
亜季の右手が伸び、子供でも扱うかのように、軽々と菜緒を私から引きはがした。
泥水の海の中に倒れ込む菜緒には目もくれず、私の両肩に手を置いた。
私は吸い込まれるように、その美少女の皮を被った淫魔のごとき妖艶な顔を見つめた。
切れ長の目の中で亜季の瞳孔が猫のそれのように細くなり、
にちゃあ。
真っ赤な唇が唾液の糸を引いて左右に大きく広がった。
そして、その血の色の空洞の奥からー。
青白い閃光に照らし出されたのは、ほっそりした少女の肢体だった。
「亜季…」
雷鳴に続き、いったん闇に沈んだ亜季の姿を、すぐさま青白い光が再び浮かび上がらせる。
亜季は妙な格好をしていた。
黒い水着を身に着けているのだ。
お椀型に盛り上がったふたつの乳房。
その頂点に突き出た一対の固そうな突起。
くびれた腰と平らな腹に、流線形に刻まれた臍の窪み。
そして、鋭く切れ上がった水着のVゾーンと、その両側の生白く長い脚。
身体の線をくっきり浮き上がらせたそのスクール水着は、なぜか濡れていてひどく煽情的だった。
「この子が、亜季さん…?」
私の背中に隠れた菜緒が、顔だけ出してつぶやいた。
「亜季、おまえ、いつのまに…?」
ごくりと唾を飲み干し、私はようやく口を開いた。
亜季は答えず、菜緒のほうはまったく無視して、じっと私の顔に視線を注いでいる。
翡翠の色をした瞳の奥で燃えている熾火のような輝きは、あの夜、間近で見たのと同じものだ。
亜季が一歩前に踏み出した刹那、ふいに雨音が激しくなり、暴風が雨戸を揺るがした。
「危ない!」
菜緒が叫び、突き飛ばすようにして私の腰に抱きついた。
バタンッ!
雨戸が倒れ、横殴りの冷たい雨が怒涛のごとく吹き込んでくる。
暗い空をひっきりなしに稲妻が引き裂き、コマ送りのフィルムでも見るかのようにあたりが断続的に照らされる。
「み、水が!」
悲鳴を上げる菜緒。
無理もなかった。
見渡す限り、庭は泥の海と化していた。
井戸も鶏小屋も便所もすべて濁流に沈み、異臭を放つ水がごうごうとこちらに押し寄せてくるのだ。
唖然と見守るうちに、水位が廊下を越えた。
「屋根裏部屋に、早く逃げないと!」
金切り声で菜緒が叫ぶ。
黒い蛇のような濁流の触手が何本も部屋に入ってきたかと思うと、後は一気だった。
足が泥水に沈み、部屋中が茶色で覆いつくされた。
その中を、何の動揺も見せず、平然とした足取りで、亜季が歩いてくる。
まるでこうなることがわかっていたかのような水着姿で、生白い脚を交互に動かし、悠然とした足取りで、泥水の中を進んでくるのだ。
「あっ!」
亜季の右手が伸び、子供でも扱うかのように、軽々と菜緒を私から引きはがした。
泥水の海の中に倒れ込む菜緒には目もくれず、私の両肩に手を置いた。
私は吸い込まれるように、その美少女の皮を被った淫魔のごとき妖艶な顔を見つめた。
切れ長の目の中で亜季の瞳孔が猫のそれのように細くなり、
にちゃあ。
真っ赤な唇が唾液の糸を引いて左右に大きく広がった。
そして、その血の色の空洞の奥からー。
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