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#346話 施餓鬼会⑪
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不快な唸り声が地響きのように聴こえてくる。
が、それより私の注意を引いたのは、掛け布団の奇怪な形状だ。
中にビーチボールでも入っているかのように、中央部が丸く膨らんでいるのである。
最初、勇樹はうつ伏せに寝ているのかと思った。
腹ばいになり、尻を突き出す格好をすれば、掛け布団がドーム状に膨らんでいるのも納得できる。
しかし、すぐにそうではないと気づいた。
掛け布団の上部に布団のへりをつかんだ指が見えているのだが、その向きは明らかに仰臥した姿勢のものだ。
そこまで目で追って、私は次の異状を発見する。
布団から出ている指。
茶色く変色したそれは、まるで枯枝そのものではないか。
しかも、私の目の錯覚なのか、三本しかない。
人差し指と中指、薬指と小指が癒着してしまったかのように変形して、何か奇妙な鳥の脚のようにも見える。
布団の中に居るのは、本当に勇樹なのか。
もしそうなら、病状は相当進行してしまっているのではないのか。
再度医者に診せる必要があるのは、亜季ではなく、この勇樹のほうではないのだろうか。
「おい、本当に大丈夫なのか」
身を乗り出し、悪臭に耐えながら、掛け布団に手を伸ばした時だった。
「触らないで」
意外なほど近くで女の声がした。
びっくりして振り返ると、いつのまに帰ってきたのか、戸口に亜季が立っていた。
清楚な水色のワンピースを着ている。
ただし、サイズが小さいのか、凹凸の激しい身体のラインが目に毒なほどくっきり浮き出てしまっている。
「い、いや、し、しかし…」
しどろもどろになる私に、畳みかけるように亜季が言う。
「勇樹は大丈夫。ただおなかが空いているだけ」
「おなかが空いている…?」
「どいて。とりあえず、水を飲ませるから」
亜季の左手には500ミリリットルのペットボトルが握られている。
おそらく、井戸に冷やしてあったのを、ここへ来る途中で持ってきたに違いない。
「あら、兄さん、見に来てくれてたの?」
そこに、妹が現れた。
贈れたのは、ガレージに車を入れていたからだろう。
「どうなってっるんだ?」
亜季の険のある視線を避けて、その肩越しに私は妹に話しかけた。
気まずい雰囲気のなか、まさに地獄に仏の気分だった。
「この子は異常なしだって。勇樹のほうは、動きたがらないから、往診を頼んできたわ」
亜季の肩に手をかけて妹が答えた。
「往診って行っても、患者が多ければ、後回しにされるんじゃないか?」
「容態が悪いから、なるべく早くってお願いしてはみたんだけど」
「なんかこの部屋・・・」
言いかけて、私は口をつぐんだ。
とある有名なホラー映画のタイトルを口にしようとしたのだが、刺すような亜季の視線に出くわしたのだ。
ー余計なこと、言わないで。
いかにもそう言いたげに、少女はじっと私を睨みつけていたのである。
が、それより私の注意を引いたのは、掛け布団の奇怪な形状だ。
中にビーチボールでも入っているかのように、中央部が丸く膨らんでいるのである。
最初、勇樹はうつ伏せに寝ているのかと思った。
腹ばいになり、尻を突き出す格好をすれば、掛け布団がドーム状に膨らんでいるのも納得できる。
しかし、すぐにそうではないと気づいた。
掛け布団の上部に布団のへりをつかんだ指が見えているのだが、その向きは明らかに仰臥した姿勢のものだ。
そこまで目で追って、私は次の異状を発見する。
布団から出ている指。
茶色く変色したそれは、まるで枯枝そのものではないか。
しかも、私の目の錯覚なのか、三本しかない。
人差し指と中指、薬指と小指が癒着してしまったかのように変形して、何か奇妙な鳥の脚のようにも見える。
布団の中に居るのは、本当に勇樹なのか。
もしそうなら、病状は相当進行してしまっているのではないのか。
再度医者に診せる必要があるのは、亜季ではなく、この勇樹のほうではないのだろうか。
「おい、本当に大丈夫なのか」
身を乗り出し、悪臭に耐えながら、掛け布団に手を伸ばした時だった。
「触らないで」
意外なほど近くで女の声がした。
びっくりして振り返ると、いつのまに帰ってきたのか、戸口に亜季が立っていた。
清楚な水色のワンピースを着ている。
ただし、サイズが小さいのか、凹凸の激しい身体のラインが目に毒なほどくっきり浮き出てしまっている。
「い、いや、し、しかし…」
しどろもどろになる私に、畳みかけるように亜季が言う。
「勇樹は大丈夫。ただおなかが空いているだけ」
「おなかが空いている…?」
「どいて。とりあえず、水を飲ませるから」
亜季の左手には500ミリリットルのペットボトルが握られている。
おそらく、井戸に冷やしてあったのを、ここへ来る途中で持ってきたに違いない。
「あら、兄さん、見に来てくれてたの?」
そこに、妹が現れた。
贈れたのは、ガレージに車を入れていたからだろう。
「どうなってっるんだ?」
亜季の険のある視線を避けて、その肩越しに私は妹に話しかけた。
気まずい雰囲気のなか、まさに地獄に仏の気分だった。
「この子は異常なしだって。勇樹のほうは、動きたがらないから、往診を頼んできたわ」
亜季の肩に手をかけて妹が答えた。
「往診って行っても、患者が多ければ、後回しにされるんじゃないか?」
「容態が悪いから、なるべく早くってお願いしてはみたんだけど」
「なんかこの部屋・・・」
言いかけて、私は口をつぐんだ。
とある有名なホラー映画のタイトルを口にしようとしたのだが、刺すような亜季の視線に出くわしたのだ。
ー余計なこと、言わないで。
いかにもそう言いたげに、少女はじっと私を睨みつけていたのである。
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