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#347話 施餓鬼会⑫
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その夜ー。
真夜中に目が覚めた。
私にあてがわれた部屋は、母屋の奥。
寝たきりの父の居る和室の隣である。
父に何かあったらすぐ対処できるようにと、仏間だった部屋を母が私にあてがったのだ。
目覚めた原因は、かすかな物音だった。
父の部屋のほうから、カサカサという、何かが動く時に立てるような音が聴こえてくる。
私はそっと半身を起こした。
庭に面した障子戸は開いていて、月の光が外の廊下を明るく照らし出している。
音はやはり、父の部屋との境を仕切る襖の向こうから聴こえてくるようだ。
父が目覚めたのだろうか。
認知症を発病して長い父は、すでに生きる屍に近い。
布団から出ることもなければ言葉を発することもない。
母は慣れたもので、自身のストレス緩和のため、昼間は訪問ヘルパーの女性にそんな父の介護を任せ、自分はそれ以外の時だけ診るようにしている。
息子が帰省した今は、息子の私に夜の番を任せようというのだろう。
喉が渇いたのだろうか。
一度廊下に出、外から父の部屋に回ることにした。
隣の和室の障子戸は閉まっている。
「どうした、父さん・・・?」
30センチほど開けて、中に首を突っ込んだ私は、その刹那、うっと声を詰まらせた。
8畳ほどの和室の真ん中に布団が敷かれているのだが、その上に黒々としたものが乗っているのだ。
猫?
私は首を傾げた。
が、すぐに思い直す。
いや、現在、この家にペットの類いはいないはずだ。
昨年の冬に15年飼っていた犬が死に、母が二度と生き物は飼わない、と宣言していたのを思い出したのである。
じゃあ、あれは…?
目を凝らすと、そこだけひと際闇が濃くなって凝固したようなその影は、猫というより何やら巨大な蜘蛛に似ていた。
球状の胴体から節くれだった長い脚が四方に突き出ている。
遠目にも、その下で、木乃伊のようにやせ細った父が、白目をむいているのが見えた。
「おい!」
とっさに叫んだとたん、黒い影が動いた。
恐ろしく素早い動作で壁を駆け上がると天井に貼りつき、私の頭上を駆け抜けたのだ。
慌てて後ろを振り返った時にはすでに遅く、謎の闖入者は植え込みの中に逃げた後だった。
その行方を追うべきかしばし逡巡したものの、私はまず父の様子を確かめることにした。
嫌な予感がしてならなかったからである。
真夜中に目が覚めた。
私にあてがわれた部屋は、母屋の奥。
寝たきりの父の居る和室の隣である。
父に何かあったらすぐ対処できるようにと、仏間だった部屋を母が私にあてがったのだ。
目覚めた原因は、かすかな物音だった。
父の部屋のほうから、カサカサという、何かが動く時に立てるような音が聴こえてくる。
私はそっと半身を起こした。
庭に面した障子戸は開いていて、月の光が外の廊下を明るく照らし出している。
音はやはり、父の部屋との境を仕切る襖の向こうから聴こえてくるようだ。
父が目覚めたのだろうか。
認知症を発病して長い父は、すでに生きる屍に近い。
布団から出ることもなければ言葉を発することもない。
母は慣れたもので、自身のストレス緩和のため、昼間は訪問ヘルパーの女性にそんな父の介護を任せ、自分はそれ以外の時だけ診るようにしている。
息子が帰省した今は、息子の私に夜の番を任せようというのだろう。
喉が渇いたのだろうか。
一度廊下に出、外から父の部屋に回ることにした。
隣の和室の障子戸は閉まっている。
「どうした、父さん・・・?」
30センチほど開けて、中に首を突っ込んだ私は、その刹那、うっと声を詰まらせた。
8畳ほどの和室の真ん中に布団が敷かれているのだが、その上に黒々としたものが乗っているのだ。
猫?
私は首を傾げた。
が、すぐに思い直す。
いや、現在、この家にペットの類いはいないはずだ。
昨年の冬に15年飼っていた犬が死に、母が二度と生き物は飼わない、と宣言していたのを思い出したのである。
じゃあ、あれは…?
目を凝らすと、そこだけひと際闇が濃くなって凝固したようなその影は、猫というより何やら巨大な蜘蛛に似ていた。
球状の胴体から節くれだった長い脚が四方に突き出ている。
遠目にも、その下で、木乃伊のようにやせ細った父が、白目をむいているのが見えた。
「おい!」
とっさに叫んだとたん、黒い影が動いた。
恐ろしく素早い動作で壁を駆け上がると天井に貼りつき、私の頭上を駆け抜けたのだ。
慌てて後ろを振り返った時にはすでに遅く、謎の闖入者は植え込みの中に逃げた後だった。
その行方を追うべきかしばし逡巡したものの、私はまず父の様子を確かめることにした。
嫌な予感がしてならなかったからである。
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