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#336話 施餓鬼会①
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帰省のついでに、実家の近くの寺に参ることにした。
実家はG県の山奥にあり、かなりの田舎である。
家を出た頃には気温は35度を超え、裏の川からは水浴びする子供たちの歓声が聴こえていた。
寺は興安寺といい、私が物心ついた時から村はずれにあった。
それもそもはずで、建立は室町時代中期、今でこそ廃寺に近い様相だが、昔は檀家も多く、栄えていたという。
私が寺を訪れる気になったのは、今年のお盆に行われる施餓鬼会に際して秘仏が公開されると聞いたからである。
正確には、その秘仏についての情報を得たのはSNSからで、このあたりの住民らしき人物の投稿が元だった。
その秘仏は”蛇舌観音”といい、公開は今回が初であるとのことで、いまだかつて誰も見たことがないという。
百段はあるかと思われる石段を登り、真黒に塗られた山門をくぐった時には、全身汗まみれだった。
今年の夏は異様に暑く、日本全国で熱中症アラートが鳴り響く中、ゲリラ豪雨による被害が多発している。
今もカンカン照りだからといって油断はならなかった。
あそこに見えている入道雲がいつ群れをつくり、線状降水帯を発生させるかわからないのだ。
こんな辺鄙な村のことでも、秘仏初公開のニュースはSNSで適度に拡散されていたとみえ、境内には私の他にも20人近い参拝客がすでに集まっていた。
若いカップル、初老の夫婦、素人ユーチューバーと思しき若者たち、若い女性のグループなど、客層はさまざまである。
住職は私の知っている老僧ではなく、壮年の二代目が後を継いでいた。
けっこう芝居っ気のある男で、陽気な声で私たちに呼びかけてくると、早速本堂へと案内した。
「今準備しますから、しばらくお待ちを」
パンフレットらしき印刷物を配ると、住職は奥へと消えた。
パンフレットは”蛇舌観音”のいわれを説明したものらしく、全体的におどろおどろしいトーンだった。
一見すると、まるでホラー映画のチラシのような塩梅である。
細かい文字が見づらくて眼鏡を外して顔を近づけた時、隣に居たユーチューバーたちが騒ぎ出した。
「え、マジかよ。これって、この村のことじゃね?」
つられて顔を向けると、若者の手の中のスマホの画面が、偶然、見えてしまった。
滝の写真を背景に、こんな文字が躍っている。
『川遊びの中学生、14人が体調不良を訴え、病院へ運ばれる』
あの子たちか。
瞬間的に、私は悟った。
実家を出た時、裏の河原から聴こえてきた声の主。
あの子供たちの身に、いったい何があったというのだろう?
実家はG県の山奥にあり、かなりの田舎である。
家を出た頃には気温は35度を超え、裏の川からは水浴びする子供たちの歓声が聴こえていた。
寺は興安寺といい、私が物心ついた時から村はずれにあった。
それもそもはずで、建立は室町時代中期、今でこそ廃寺に近い様相だが、昔は檀家も多く、栄えていたという。
私が寺を訪れる気になったのは、今年のお盆に行われる施餓鬼会に際して秘仏が公開されると聞いたからである。
正確には、その秘仏についての情報を得たのはSNSからで、このあたりの住民らしき人物の投稿が元だった。
その秘仏は”蛇舌観音”といい、公開は今回が初であるとのことで、いまだかつて誰も見たことがないという。
百段はあるかと思われる石段を登り、真黒に塗られた山門をくぐった時には、全身汗まみれだった。
今年の夏は異様に暑く、日本全国で熱中症アラートが鳴り響く中、ゲリラ豪雨による被害が多発している。
今もカンカン照りだからといって油断はならなかった。
あそこに見えている入道雲がいつ群れをつくり、線状降水帯を発生させるかわからないのだ。
こんな辺鄙な村のことでも、秘仏初公開のニュースはSNSで適度に拡散されていたとみえ、境内には私の他にも20人近い参拝客がすでに集まっていた。
若いカップル、初老の夫婦、素人ユーチューバーと思しき若者たち、若い女性のグループなど、客層はさまざまである。
住職は私の知っている老僧ではなく、壮年の二代目が後を継いでいた。
けっこう芝居っ気のある男で、陽気な声で私たちに呼びかけてくると、早速本堂へと案内した。
「今準備しますから、しばらくお待ちを」
パンフレットらしき印刷物を配ると、住職は奥へと消えた。
パンフレットは”蛇舌観音”のいわれを説明したものらしく、全体的におどろおどろしいトーンだった。
一見すると、まるでホラー映画のチラシのような塩梅である。
細かい文字が見づらくて眼鏡を外して顔を近づけた時、隣に居たユーチューバーたちが騒ぎ出した。
「え、マジかよ。これって、この村のことじゃね?」
つられて顔を向けると、若者の手の中のスマホの画面が、偶然、見えてしまった。
滝の写真を背景に、こんな文字が躍っている。
『川遊びの中学生、14人が体調不良を訴え、病院へ運ばれる』
あの子たちか。
瞬間的に、私は悟った。
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