超短くても怖い話【ホラーショートショート集】

戸影絵麻

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第303話 離島怪異譚⑮

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 かつてこの東海岸の網元の長だったという老人は、右目が白濁した怪異な容貌の人物だった。
 晴馬の曾祖父にあたる100歳近い朝倉源蔵氏の言葉は強い三河弁で聞き取りづらく、正直、解読に苦労した。
 それにしてもその重い口から語られた島の伝承は、何とも言えず気味の悪いものだった。
 一言でいえば、この多胡島は、神代の昔から奇形で産まれた”神”を捨てる忌み場として、崇められてきたのだという。
 神の失敗作として有名なのは、『古事記』『日本書紀』の記述で有名な”蛭子”だろう。
 あるいはその前後に産まれたとされる”淡島”も入れていいかもしれない。
 不憫なことにそのどちらも神々の仲間には入れてもらえず、生まれるとすぐ捨てられてしまったのだけれど、古老の言によると、失敗作はどうやらその二体で終わらなかったらしい。
 イザナミは死して黄泉の国に引きこもるまでに様々な神々を産んだのだが、その神々の中にかなりの数、失敗作が混入していたというのである。
 多胡島は、そうした”捨て神”たちが祟らぬよう、閉じ込めておくために作られた巨大な”蛸壺”だった。
 今は海面下にあって見えないが、現に島の横っ腹には大きな横穴が空いていて、そこから神を誘きいれたらしい。
 何千年にもわたって”出来損ない”たちの牢獄の役目を果たしてきたこの島に転機が訪れたのは、戦時中。
 太平洋戦争の末期、瀬戸内の島などにも事例があるように、軍部がここに毒ガスの秘密工場を建造したのである。
 1945年6月。
 3月の東京大空襲に続き、その他の大都市と同様に、名古屋もB29の大編隊に襲われた。
 その際、それも計画のうちだったのか、名古屋に到達するかなり手前で落とされた一発の爆弾が、多胡島を直撃した。
 工場が破壊され、島民たちは皆、漏れた毒ガスによる死を覚悟した。
 ところが、不思議なことが起こった。
 ガスタンクから噴出した白いガスはすべて地中に沁み込んでしまい、人間や作物にはほとんど被害を与えなかったというのだ。
 蛸神さまのご加護だ。
 島民たちは色めき立った。
 島中を上げて、盛大な祭りが行われた。
 しかし、喜ぶのは早かった。
 その年の8月、無事、終戦を迎えたのはよかったが、その頃から頻繁に海魔が出没するようになったのである。
 海魔は時々海から上がってきては人を襲い、食う。
 あるいは女をレイプして、子を孕ませる。
 かつての”捨て神”たちの末裔が、爆撃で覚醒し、しかも開発中の毒ガスを吸収して狂ってしまった姿ー。
 それが、現在もたびたび出没しては島民を悩ませる、海魔の正体なのだという…。
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