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第267話 離島怪異譚⑩
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堤防に沿った舗装道路をとぼとぼと歩いた。
行き交う車の影もなく、ただただ静かだった。
東海岸の洞窟、とやらはひと目でわかった。
そこから先は見上げるような岩山になっていて、その前に砂浜に降りる階段がある。
洞窟はその岩山の麓に口を開けていた。
満潮になったら海に沈んでしまうくらい、低い位置である。
「なんにもありませんでしたね。こんなことなら車で来ればよかった」
砂浜に下りるなり、息を切らして恨めしそうに野崎がぼやいた。
確かに彼のいう通りだった。
途中の道は片側が海岸、片側が山の斜面で、人家と呼べるものはひとつもなかったのだ。
「でも空気はさわやかだし、いい運動になったでしょ」
岩場を登ると、『立ち入り禁止』と大書された看板が見えてきた。
浅井瑞希の事件から2か月近く経っているからさすがにもう非常線は張られていないが、洞窟の入口はロープで封鎖されている。
「ケイさん、やめたほうがよくないですか」
看板を目にしておじけづいたのか、野崎が私のジャケットの裾を引っ張って言った。
「プロの鑑識が調べ尽くした後なんですよ。俺らみたいな素人に手がかりなんて見つけられっこないでっすって」
「グズグズ言わない! せっかくここまで来たんだから、ほら、入るよ!」
早くしないと潮が満ちてきて、入口が消えてしまう。
ためらうことなく、ロープの下をくぐって中に足を踏み入れた。
「ったく、やってらねーよ」
ぶつぶつ言いながら野崎が後をついてきた。
洞窟の入口は直径5メートルの円形で、内部は予想以上に深かった。
足場は悪く、剥き出しの岩盤が海水で濡れているため、滑りやすい。
「いやなとこだなあ」
野崎が情けない声を出す。
「ここで二件も猟奇殺人が行われたんですよ。ケイさんは怖くないんですか?」
「仕方ないでしょ。仕事なんだから。それより、何かないか足元や周りをよく見て」
頼りない相棒を叱咤激励しながら、リュックから懐中電灯を出し、慎重に歩を進めていく。
少し行くと洞窟は上り坂になり、急に道が開けて大きなテーブル状の一枚岩の前に出た。
「広いですねえ」
頭上を見上げて野崎がつぶやいた。
「うん。なんか、中世ヨーロッパの教会か何かにある大伽藍って感じ」
そこまでは言い過ぎかもしれないが、私たちが出たのが、かなり広い空間であることは確かだ。
問題なのは、目の前の巨大な”まな板”そっくりの一枚岩である。
一段高くなった場所にあるそれは、見ようによっては、巨人用の手術台のようにも見えるのだ。
「ここね」
嫌な感じが濃くなった気がして、私は言った。
「おそらくふたりはここで解体されたんだわ」
「おっかないこと言わないでくださいよ」
野崎が半泣きの表情で言った、その時だった。
「あわっ!」
突然、悲鳴を残してその野崎が私の前から掻き消えた。
「ケイさん!」
頭の上から声が降ってくる。
「野崎?」
声の発信源を目で追った私は、信じ難い光景を目の当たりにして凍りついた。
ヤバい!
今度はそう来たか!
行き交う車の影もなく、ただただ静かだった。
東海岸の洞窟、とやらはひと目でわかった。
そこから先は見上げるような岩山になっていて、その前に砂浜に降りる階段がある。
洞窟はその岩山の麓に口を開けていた。
満潮になったら海に沈んでしまうくらい、低い位置である。
「なんにもありませんでしたね。こんなことなら車で来ればよかった」
砂浜に下りるなり、息を切らして恨めしそうに野崎がぼやいた。
確かに彼のいう通りだった。
途中の道は片側が海岸、片側が山の斜面で、人家と呼べるものはひとつもなかったのだ。
「でも空気はさわやかだし、いい運動になったでしょ」
岩場を登ると、『立ち入り禁止』と大書された看板が見えてきた。
浅井瑞希の事件から2か月近く経っているからさすがにもう非常線は張られていないが、洞窟の入口はロープで封鎖されている。
「ケイさん、やめたほうがよくないですか」
看板を目にしておじけづいたのか、野崎が私のジャケットの裾を引っ張って言った。
「プロの鑑識が調べ尽くした後なんですよ。俺らみたいな素人に手がかりなんて見つけられっこないでっすって」
「グズグズ言わない! せっかくここまで来たんだから、ほら、入るよ!」
早くしないと潮が満ちてきて、入口が消えてしまう。
ためらうことなく、ロープの下をくぐって中に足を踏み入れた。
「ったく、やってらねーよ」
ぶつぶつ言いながら野崎が後をついてきた。
洞窟の入口は直径5メートルの円形で、内部は予想以上に深かった。
足場は悪く、剥き出しの岩盤が海水で濡れているため、滑りやすい。
「いやなとこだなあ」
野崎が情けない声を出す。
「ここで二件も猟奇殺人が行われたんですよ。ケイさんは怖くないんですか?」
「仕方ないでしょ。仕事なんだから。それより、何かないか足元や周りをよく見て」
頼りない相棒を叱咤激励しながら、リュックから懐中電灯を出し、慎重に歩を進めていく。
少し行くと洞窟は上り坂になり、急に道が開けて大きなテーブル状の一枚岩の前に出た。
「広いですねえ」
頭上を見上げて野崎がつぶやいた。
「うん。なんか、中世ヨーロッパの教会か何かにある大伽藍って感じ」
そこまでは言い過ぎかもしれないが、私たちが出たのが、かなり広い空間であることは確かだ。
問題なのは、目の前の巨大な”まな板”そっくりの一枚岩である。
一段高くなった場所にあるそれは、見ようによっては、巨人用の手術台のようにも見えるのだ。
「ここね」
嫌な感じが濃くなった気がして、私は言った。
「おそらくふたりはここで解体されたんだわ」
「おっかないこと言わないでくださいよ」
野崎が半泣きの表情で言った、その時だった。
「あわっ!」
突然、悲鳴を残してその野崎が私の前から掻き消えた。
「ケイさん!」
頭の上から声が降ってくる。
「野崎?」
声の発信源を目で追った私は、信じ難い光景を目の当たりにして凍りついた。
ヤバい!
今度はそう来たか!
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